お城で 2
誤字報告、感想をありがとうございます!
女性と赤ちゃんを別室に移し、大臣らしいおじさんを将軍さんが身体検査して、特に危険物は持っていなかったので、後ろ手に拘束し、
「それで?貴様はハルトグレン殿に、どんな恨みがあって呪いを掛けた?それとこの古代魔道具は何処から入手した?」
無言で痛みに悶えるだけのおじさん。
メイドさんも無言無表情でうつむいて微動だにしない。
呪いの魔道具は、呪いに失敗すると倍になって術者に跳ね返るらしいので、ハルトグレン殿下へ掛けたのは、ジワジワと痛みで体を弱らせる呪いだった感じ。
それが倍になって返されたから、今はおじさんが痛みに悶えてる。
「まぁ簡単には話さぬか。ならば罪人としてそのまま痛みと共に死ぬまで苦しむといい。この後の処罰等はハルトグレン殿にお任せしよう」
「魔道具の事はよろしいのですか?」
「なに、こちらのメイドから聞き出せばよい。このメイドにも呪いが掛かっていることから、魔力足らずでこのメイドが手を貸した様子。このメイドが影の者なら、入手そのものにも関わった可能性もある」
「ですが影の者なら、聞き出すのは困難なのでは?」
「なに、この国には優秀な魔法使いが多い。影の者だからと言って、沈黙を貫くのは困難だろうよ」
ニヤリと悪い顔で笑う王様。
「流石魔法大国と言われるだけはありますね!参考までにどのような魔法をお使いになるのかお聞きしても宜しいでしょうか?」
王様がテイルスミヤ長官を見るので、ハルトグレン殿下もテイルスミヤ長官をみる。
うっすら笑ってテイルスミヤ長官は、
「自白魔法を使います。精神操作の魔法なので、抵抗力が強いと、魔法を解いた後が大変ですが、どのみち王太子殿下を呪いに掛けた者の末路等気にするものではありませんから、存分に力を込められます」
うっすら笑ってるのが恐怖をより煽るよね!
ハルトグレン殿下もブルッと体を震わせて、引き攣った笑いを浮かべてるし。
言われたメイドさんは、目を見開いてテイルスミヤ長官を凝視してる。
「何ならこの場で掛けて見せましょうか?」
メイドさんの目を見たまま、笑顔で言うテイルスミヤ長官。
魔法庁なんて国の中枢を担う庁の長官だけあって、その姿は恐ろしくも堂々とした威厳を醸し出していた。
普段のどこかポヤポヤとした魔法バカな面とのギャップが凄いね!
全然萌えないけど!
王様のGOサインも出ちゃったので、この場で自白魔法を使うそうです。
「その前に、ケータ様、このメイドの呪いを解いて貰えますか?精神操作をすると、精神だけでなく体力も大幅に消耗しますので、尋問中に死なれては困ります」
うっすらとした怖い笑みを向けるのを止めて下さい!ちょっと涙目になりながら、メイドさんの呪いを解呪すると、更にニッコリ笑顔を向けられた!怖いいです!
テイルスミヤ長官がメイドさんの目の前に立つと、流石に恐怖を感じたのか、ブルッと身を震わすメイドさん。
その目の前に手を翳すテイルスミヤ長官。
魔力をゆっくりと魔法に変換してる。
「お待ちください!私は、話さないのでは無く、話せないのです!制約の魔法によって、大臣に不利な証言が出来ないように魔法を掛けられています!」
体をブルブル震わせて訴えるメイドさん。
魔法を掛けられていること自体は、ギリギリ話せる範囲なのかな?
メイドさんの言葉に、テイルスミヤ長官がメイドさんに掛けられている魔法を探っている様子。
「そのようですね、確かに貴方には魔法が掛かっている様子。ならばこの魔法を解いてしまえば貴方は自由に話せるのですね?」
メイドさんはブンブン縦に首を振り肯定。
テイルスミヤ長官から魔法が放たれ、メイドさんの身を包み込むように覆うと、パリンと微かな音がして、魔法が解除された。
途端に弛緩して姿勢を崩すメイドさん。
「話して頂けますね?」
テイルスミヤ長官が、まだ怖い笑顔のまま聞けば、
「はい、私の知っている事は全てお話しします」
ノロノロと顔を上げてメイドさんが答える。
「貴様!裏切るか!恩知らずめ!許さんぞ!」
無言を貫いていたおじさんが、メイドさんを睨みながら怒鳴る。
すかさず将軍さんがおじさんを取り押さえ、床に押さえ付ける。
それを見たメイドさんは、小さく鼻で笑った後、
「元々制約の魔法が無ければ、お前になど仕えるものか!お前のせいで、私は弟を失ったのだぞ!恨みこそ有れ、恩などある筈も無い!」
「そもそもなぜ貴方はこの男に仕えるようになったのですか?」
テイルスミヤ長官の尋問が始まった。
「私と弟は、スラムに住む孤児でした。
周りにもそんな子供がいたし、協力しながら生きてました。
でも時々大人が来て、子供を拐って行くことがあって、拐われた子供はその後戻って来ることは無く、私達は大人から逃げながら生活していました。
でもある日弟がねぐらに帰る所を後を付けられて、一緒に暮らしてた子供達全員が捕まりました。
連れて行かれたのは暗い狭い地下室で、他にも大勢の子供達がいました。
そこで私達は、決して大人には逆らえないよう、一人一人魔法を掛けられ、その後は戦闘訓練と魔法の訓練、毒に慣らすように常に食事には毒を盛られていました。
中には死んでしまう子も多くいて、大人達から見て、使えるようになった子供から外へ連れ出されました。
やがて私も外へ出され、その男の家でメイドの仕事を教えられ、王太子殿下のメイドに選ばれました。」
人生を語り出したメイドさんに、ハルトグレン殿下がちょっと困惑した顔をしてる。
そうね、国の暗部を他国に知られちゃってるしね。
「王太子殿下のメイドになる時に、その男は私に、新しく魔法を掛けました。
普段の会話は支障無く出来るけれど、その男が秘密と言った事は、一切誰にも話せなくなる魔法でした。
勤めて三年目、王太子殿下がリュグナトフ王国の公爵令嬢と懇意にしていると噂になり、娘を王太子妃にと企んでいたその男は焦ったのだと思います。
公爵令嬢の暗殺を何人かの孤児に命じました。弟もその中の一人に選ばれましたが、公爵家に忍び込む前に仲間割れで死にました」
ギリッと歯を噛み締める音がして、深呼吸を繰り返した後、メイドさんが続けて話す。
「他国の公爵家の令嬢の暗殺など、容易いことでは無く、命を受けた全員が死にました。
その後も何とか王太子殿下の結婚を阻止しようとしましたが、叶わず。
それでもその男は諦めなかった。王太子殿下がいなくなれば、次の弟殿下が王太子になる事を見越して、娘を弟殿下に近付けさせ、私に魔道具を使って王太子殿下に呪いを掛けさせました。
その男だけでは魔力が足りなかったので、私も協力させられました」
「魔道具の入手先をご存知ですか?」
「私がまだその男の屋敷で働いていた頃、アブ商会の会頭と名乗る人が売りに来ました。他にも色々な魔道具を買っていたのを見ています」
「アブ商会」
宰相さんが、眉間に深い深い皺を寄せて呟いた。
「アブ商会の会頭は、何処で入手した魔道具か、言っていましたか?」
「はい、懇意にしているAランク冒険者から買い取ったと聞きました」
「その冒険者の名前は分かりますか?」
「いえ、そこまでは聞いていません。ただ、ササナスラ国のダンジョンによく潜っているとは聞きました」
「この男が買ったと言う、他の魔道具について何か知っている事はありますか?」
「ほとんどの魔道具は、呪いを掛ける類いの魔道具でした。後は二.三個ほど、魅了系の魔道具があったと思います」
「ありがとうございます。これでだいたいの事は分かりました。貴方のこれからの事はまた後程話し合いましょう」
テイルスミヤ長官が、他の人達に質問するか確認をして、取り敢えずメイドさんに聞くことはこれ以上は無い、と言う事で、女性騎士に連れられて、部屋を出ていくメイドさん。
「魔道具の入手先、犯行動機も聞けた事だし、この男はもう必要無いな。ハルトグレン殿、処分はそちらの国に戻ってからになるのだろう?」
王様の質問に、ハルトグレン殿下が、
「はい、これでも一応大臣を勤めた男です。父や貴族達への説明の為にも、この男の呪い返しの痕を見せなければ、納得はしないでしょう」
「そうだろうな。ならば帰国されるまでは、この男は城の牢にでも入れておこう」
「お手を煩わせて申し訳ありません」
「なに、アブ商会の会頭とは、我が国の元男爵だった男だ。無関係とは言えぬだろうよ」
メイドさんが話している間中ずっと、何か怒鳴ろうとしていたおじさんは、将軍さんに猿轡をされている。
そして待機していた騎士によって、乱暴に引き摺られて行った。
「後残るのは、呪いの魔道具を直接入手したと言う、Aランク冒険者ですな」
「そうだな、Aランク冒険者の数は少ない。アブ商会と取引のあるAランク冒険者の割り出しも、そう時間は掛からんだろう」
宰相さんの呟きのような言葉に、将軍さんが答える。
いつものパターンになってきた。
「そんで、あのメイドはどうするよ?」
「暫くの監視は必要だが、普通にメイドの能力に問題は無いし、身寄りも無いようだから、城の下働きから始めれば良いのではないか?」
「まあ、もう危険も無さそうだしな」
それで話は纏まり、改めて赤ちゃんとママさんの所へ。
王妃様とママさんに構われて、キャッキャと笑う赤ちゃんの声に、皆の顔がゆるむ。
知らない内に呪われて、赤ちゃんにまで害を及ぼしてしまったパパ殿下は、恐る恐る赤ちゃんに近付いて、指先でその柔らかな頬っぺたをつつく。
ハシッと小さな手で指を掴み、キャーと笑顔で歓声を上げる赤ちゃんに、パパ殿下はボロボロと涙を流した。
「ふ、不甲斐ない父ですまぬ、これからは必ず私が、そなたとそなたの母を守ると誓う!」
赤ちゃんを抱き上げたパパ殿下は、赤ちゃんのおでこにキスをしながら、涙ながらに誓いを立てた。
キスした所が微かに光り、赤ちゃんに弱い魔法が掛かった。
それは魔法と言うよりおまじないのようなそれ。
温かな雰囲気に皆が微笑ましく見守る中、
「ちょ、ちょっとお待ちください!ハルトグレン殿下と、その赤子の親子の真偽はまだついておりません!」
雰囲気を打ち壊したのは、今の今まで存在を忘れていた、ミルリング王国の偉そうなおじさんその2。
その2おじさんの発言に、ハルトグレン殿下が物凄い形相で睨み付ける。
「貴様、まだそのような戯れ言を言うか!?」
「お、お、恐れながら、殿下とその赤子の親子の真偽は、先程の騒ぎとはまた別の問題でございます!」
パパ殿下の睨みに、怯みながらも言い返すその2おじさん。
険悪な雰囲気に赤ちゃんがグズリ始める。
慌ててママさんがパパ殿下から引き取り、抱っこしてあやすが、赤ちゃんのご機嫌は治らない。
「ならば当初の予定どおり、親子鑑定の魔道具を使って、真偽の程を確かめましょう」
宰相さんがその2おじさんを睨みながら言えば、その2おじさんは汗をかきながらも、何度も頷いた。
デュランさんの持ってきた親子鑑定の魔道具に、まずはアールスハインと王様が血を滴し、青くピカッと光ったのを確認させる。
次にリィトリア王妃様とアールスハイン。
当然青判定。
次にアールスハインとその2おじさん。
赤判定。
更に宰相さんとママさん。青判定。
宰相さんとパパ殿下。赤判定。
「これでこの魔道具の性能は証明されましたな?」
凄い目力で有無を言わせぬ宰相さんに、その2おじさんがコクコク頷く。
では本題のパパ殿下と、赤ちゃんの鑑定。
赤ちゃんに血を流させるのは可哀想だが、仕方無く、指先をちょっと傷付け血を垂らす。
パパ殿下の血も垂らし鑑定。
結果は、青判定。
「これでハルトグレン殿下とイザルトが真の親子であることが証明されましたな?」
宰相さんの目力半端ない!
その2おじさんはコクコク頷く以外答えられない。
ママさんが心底ほっとした顔で、赤ちゃんにキスをして、赤ちゃんがキャッキャと声を上げた。
赤ちゃんの笑い声は、皆の機嫌も回復させて、場の雰囲気が穏やかに戻った。
凄い空気読める赤ちゃんじゃない?!
そこにデュランさんが、
「皆様、晩餐の準備が調いましてございます」
と、にこやかに告げるので、皆で移動。
途中、その2おじさんが、体調不良で離脱した。
晩餐室は、穏やかな雰囲気で、和気藹々と過ごせた。
双子王子が赤ちゃんに興味津々で、でも首の据わってない赤ちゃんの抱っこはちょっと不安なので、手を握ったり、ほっぺにスリスリしたり、頭を撫でたりで、その度にキャッキャと笑う赤ちゃんに、双子王子もキャッキャした。
なぜか最後に双子王子が俺を抱っこしては、赤ちゃんに見せると言う謎の行動をして、皆に笑われた。
明日からは普通に学園での生活に戻るので、挨拶をして、料理長にお土産の魔物を何体か届け、ボードに乗って学園に。
寮の風呂に入ってる途中で寝落ちしました。