お城で
誤字報告、感想をありがとうございます!
ただいまの挨拶の前に、雨で冷えた体を風呂で温める。シトシト雨でもバリアがあるので濡れはしないが、ずっと外、しかも上空に居れば流石に冷える。
着替えて、挨拶に行こうとしたら呼び出されました。
シェルに案内されて付いて行った先では、王様、王妃様、宰相さんに将軍さん、テイルスミヤ長官に、初対面の偉そうなおじさん二人と、黒髪イケメン、イライザ嬢によく似た綺麗な女の人と、その人に抱っこされた赤ちゃん。
皆が困った顔をしていて、部屋中に赤ちゃんのギャン泣きの声が響き渡っている。
赤ちゃんの泣き声って、無駄に不安を煽るよね。
「……………えーと、お呼びとあって参りましたが、これはどういう状況でしょうか?」
困惑顔のアールスハインが尋ねると、困惑と疲労と焦燥を合わせたような顔の宰相さんが、
「実は、こちらに居られる隣国ミルリングの王太子で在らせられるハルトグレン殿下が、妻である娘と誕生したイザルトに会うために、我が国に訪問されたのだが、ミルリングの貴族の間では、リライザの不貞の噂が真しやかに流れているとか。そこで我が国の魔道具を使ってその真偽を確かめようと、立会の方もお呼びしたのだが、ハルトグレン殿下がイザルトに触れた瞬間から、イザルトが泣き止まぬのだ。テイルスミヤ長官に見て頂いたが、魔力的な異常は感じられぬと言う。そこで丁度帰られたと知らせのあったケータ殿ならば、何か我々には感じられぬ影響が見えるやも知れぬと、お呼びさせてもらった」
ギャン泣きする赤ちゃんを囲んでた理由を説明された。
俺の素性は既に話してあるのか、近付いても誰も邪魔しないので、赤ちゃんの目の前に。
生まれてまだ三ヶ月もたってない赤ちゃんは、俺と同じサイズ。
小さな手を力一杯握りしめて、身体中で泣く赤ちゃん。
可愛いけど切ない。
赤ちゃんをよくよく見て見ると、うっすらと黒い紐状のものが、王太子と紹介されたパパさんに繋がっていた。
視線で辿ってパパさんを見ると、その黒髪の間から黒いウニョウニョを発見。
パパさん呪われてんね!
「…………ケータ殿、何か分かっただろうか?」
「えーと、おーたいちしゃまがー、にょりょわれててー、おーたいちしゃまとちゅながってるあかたんがー、ないてりゅ?(えーと、王太子様が、呪われてて、王太子様と繋がってる赤ちゃんが、泣いてる?)」
「は?ハルトグレン殿下が呪われてる?そのハルトグレン殿下と繋がったイザルトが泣いている?よく分からんが、取り敢えずハルトグレン殿下の呪いは解けるか?」
「でちるよー」
「ハルトグレン殿下、よろしいですか?」
「あ、ああ。頼む」
「あーい、しちゅれーしまーしゅ」
一応声を掛けて、パパさんのデコから出てるウニョウニョを引っ張り出す。
ヌュローンと取れたウニョウニョを、テイルスミヤ長官にパス。
テイルスミヤ長官がすかさずバリアで捕獲。
赤ちゃんの泣き声がピタッと止まる。
赤ちゃんを見てみると、キョトンと目を開いているのがとても可愛い。
ついつい手を伸ばして頭を撫でちゃうよね!
「あかたんえりゃいねー、パパまもったねー、ちゅよいこらった!かっちょいーぞー!(赤ちゃん偉いねー、パパ守ったねー、強い子だった!格好いいぞ!)」
「!ケータ殿、パパを守ったとはどういう事ですかな?」
宰相さんがズズイと近付いて来る。
「たびゅんねー、あかたんがー、パパしゃんののりょいをー、ちょっちょひきうけたんらよー、らからあんにゃにないてたん(多分ね、赤ちゃんが、パパさんの呪いを、ちょっと引き受けたんだよ、だからあんなに泣いてた」
「イザルトがパパであるハルトグレン殿下の呪いを、ちょっと引き受けた?そんなことが出来るのですか?」
「あかたんとー、パパしゃんはーちゅながってるかりゃねー(赤ちゃんとパパさんは繋がってるからね)」
「父と子だから繋がっている、と言う事ですか?では、私とリライザは繋がっていますか?」
リライザとは赤ちゃんのママだろう。
よくよく見てみても、宰相さんとリライザママは繋がって無い。
代わりに赤ちゃんとリライザママはガッツリ繋がっている。
ついでにアールスハインと王様も見てみたけど、繋がって無い。
赤ちゃんの時特有の繋がりなのかは知らないが、ある程度育つと無くなるのかもしれない。
「ちゅながってーのは、ママとパパとーあかたんらけね、ハインもちゅながってーにゃい(繋がってるのは、ママとパパと赤ちゃんだけね、ハインも繋がってない)」
「そうですか」
ちょっとシュンとする宰相さん。
「ですが、これは何よりの親子の証明になりますな!」
晴れやかな顔で宣言したが、
「そのようなあやふやな事を申されても、私共には見えぬもの、証明にはなりませぬ!」
見たことの無いおじさんが、鼻息も荒く異議申し立てた。
誰?
「そもそもその幼児の言葉は本当ですかな?我がミルリング王国の王太子であるハルトグレン殿下が呪われていたなど、俄には信じられません!」
「ではその呪いの証明を致しますか?」
口を挟んだのはテイルスミヤ長官。
「そんな事が可能だとでも言うのか?ならばやってみるがいい!」
何か偉そうなおじさんが、鼻で笑って言ってきた。
とても感じ悪い。
テイルスミヤ長官やっちゃえよ!
「では」
と言って、テイルスミヤ長官が手に持ってるバリア入りのウニョウニョを床に置いた。
ウニョウニョは、上手いことバリアを転がし部屋の隅のひっそりと存在を消すように立っていたメイドさんの所に近付き、その足先をコツコツと叩いた。
そんなメイドさんに気付かなかった俺は驚いて、そのメイドさんを凝視しちゃったら、メイドさんの腰の辺りから細いウニョウニョが出てる。
スイッと飛んで、
「しゅちゅれーしまーしゅ(失礼しまーす)」
声を掛けてから、ズボッとね!スカートの隠しポケットにあった物を取り出す。
メイドさんは慌てて取り戻そうと手を伸ばすが、俺のバリアに阻まれて取り戻す事は出来ない。
取り出した物をテイルスミヤ長官にパス。
「………………これは、見覚えがありますね。なぜ貴方がこれを持っていたのか、お答え願えますか?」
皆がテイルスミヤ長官の手元を見て、この国の人達はハッとそれが何かに気付いて、厳しい視線をメイドさんに向ける。
何も言わないメイドさん。
数秒の沈黙を破ったのは偉そうなおじさん。
「そ、それが何だと言うのだ?!そんな物が呪いの証明になる訳が無いだろう!」
「………………これは呪いの古代魔道具ですよ、この魔道具に最後に魔力を込めた者の所に、呪いの元が転がって行ったのです。そしてミルリング王国から王太子殿下と共に来たこのメイドは、呪いの古代魔道具を持っていた。十分に証明になるでしょう?」
「な、ならそのメイドをさっさと捕縛すればいいだろう?!」
「このメイドが、王太子殿下を単独で呪いに掛けますかね?裏に黒幕の存在を感じるのですが、それは私だけでしょうか?」
「テイルスミヤ長官の意見には、私も賛成だな、一介のメイドが古代魔道具を手に入れられるとは思えぬ」
宰相さんが参戦。
ワナワナしてる偉そうなおじさん。
分かり易すぎる!
その時、目の端に映ったメイドさんが、変な動きをしたのでそっちを見ると、何かを口に含み、噛み砕いたメイドさん。
咄嗟に治癒魔法発動。解毒をかなり強目に!
多少咳き込んだが、それだけ。
その事に驚いてこっちを見てくるメイドさんに、軽く手を振り、
「しにゃせねーよ?(死なせねーよ?)」
と、ドヤ顔で言ってみる。
将軍さんがすぐに動いて、両手を後ろで拘束。
部屋の外に待機してた女性騎士に指示を出し、その場で身体検査したら、内太股に小型のナイフ、隠しポケットには幾つかの毒、髪留めには暗器、靴にも隠しナイフ。
ただのメイドさんではなかった模様。
「………………この者は影の者のようですね。自害をしようとした所を見るに、自白を取るのは難しいでしょう」
宰相さんが難しい顔で言うので、
「まーどーぎゅ、かいじゅーしゅる?(魔道具、解呪する?)」
「成る程、魔道具自体の呪いを解呪してしまえば、残された呪いの元は術者に返されますね!」
テイルスミヤ長官が言えば、
「な、な、な、そんなことが出来る筈が無い!出鱈目を言うな!」
「出鱈目かどうかは、試してみればすぐに分かります。国王、ハルトグレン殿下、よろしいですか?」
「ああやってくれ」
「ええ、どうぞ」
二人の了解が取れたので、テイルスミヤ長官の持ってる古代魔道具をバリアで包んで、その中を聖魔法で満たす。
溺れるように暫く踠いたウニョウニョが消えた途端、メイドさんの足元を転がっていたウニョウニョが、何かを確認するように暫く止まった後、方向を変えて転がり出した。
そして行き着いたのは、さっきから偉そうに反論していたおじさんの足元。
おじさんはウニョウニョから逃れようと後ずさるが、いつの間にかおじさんの後ろに回り込んでいた将軍さんが、
「何処に行かれるのかな?大臣」
「な、な、な、わ、私は何処かへ行こうとなどしていない!」
「そうですか、ではバリアを解きますね」
おじさんが止める間も無く、テイルスミヤ長官が指をパチンと鳴らすと、バリアが解かれる。
その途端ウニョウニョがヒュンと飛んで、おじさんの首とメイドさんの首にビタンと張り付いた。
メイドさんは、グウウと喉を鳴らすだけだったけど、おじさんは、
「ギャーー!痛い痛い痛い痛い!」
と床を転げ回っている。
「決定だな」
王様の重い声に、全員が頷く。
うちの狩られた黄色い熊さんは、可愛さ皆無です!角生えてるし、狂暴で襲ってくるし!
いつか可愛い熊さんも出して見たいもの。