肉狩り 4
誤字報告、感想をありがとうございます!
昨日とは違う方向に進むと、小川を発見し、その小川を遡ってみると、綺麗な泉を発見した。
動物の姿も魔物の姿も見えない泉は、満々と水を蓄えているのに底は見えない。
魚の影も見えず、生き物の気配の無い不思議な泉だった。
何とはなしに覗き込むと、揺らいだ自分の顔の向こうに、小さな顔が映る。
不思議に思って首を傾げると、小さな顔も同じ角度で首を傾げた。
反対側に傾げても同じ。
何かの生き物が居るようだが、輪郭が曖昧で姿もはっきりとしない。
そんな俺の様子が気になったのか、アールスハインが、
「どうしたケータ、何か見つけたか?」
「んー、にゃんかいりゅ(んー、何か居る)」
泉の中を指差せば、皆が後ろから覗き込む。
「何にも見えないけど~?」
「魚の一匹も居ませんね?」
「こんだけ澄んだ泉なのに、生き物の気配も無いっつーのは、不気味だな」
「精霊でも住んでんじゃないですか?辺境の森では、精霊の住む泉には、力が強すぎて弱い生き物は近寄れないって聞いた事ありますけど」
「へ~、精霊が住んでるのか~、でも俺達が近寄れるって事は、そんなに強い精霊じゃないのかな?」
『ちょっと、失礼ね!私は歴とした大精霊よ!』
ディーグリーの言葉に反応したのか、泉からザブンと出てきたのは、全長が十五センチ程の女の子の形をした半透明。
キンキン声で抗議している。
「ねー、こりぇがしぇーりぇー?(ねー、これが精霊?)」
『これって何よ!何処からどう見ても立派な精霊じゃない!』
なんかプリプリ怒ってる。
「え~と、本人が言ってるから、本物の精霊なんじゃない?見たこと無いから知らないけど~?」
「あ~、俺も以前に一回だけ見たこと有るけど、こんなハッキリした感じじゃなかったぞ?」
『当たり前でしょ!私くらい高位の精霊になれば、ハッキリ姿を見せる事だって可能なのよ!』
以前に元ダ女神に付いていた精霊を見たが、それとも違うように感じる。
「ええと、高位の精霊様、私達に何かご用があって、出てこられたのですか?」
『別に、私は用は無いけど、そこのチビを探してたのよ!』
「しょっちのがちびらろー(そっちのがチビだろー)」
『私は精霊よ!小さくて当たり前でしょ!』
「けーたは、よーしぇーよ、ちーたくて、しょがなーでしょ(けーたは、妖精よ、小さくて、しょうがないでしょ)」
『?あんたが妖精?そんなわけないじゃない!それと、あんたが成長しないのは、世界樹の実を食べないからでしょ!何やってんのよ人間の側なんかに居て!凄い世界中探しちゃったじゃない!』
「にゃんでー、しゃがちてたの?あと、しぇかいじゅのみーは、どこはえてりゅの?(なんで探してたの?あと、世界樹の実はどこに生えてるの?)」
『探してたのは命令されたからよ!世界樹はエルフの森と、魔の森の真ん中に生えてるわよ!』
「だりぇに、めーれーしゃれたの?(誰に、命令されたの?)」
「女神様よ!女神様に命令されて、大精霊である私が、あんたを探してたんじゃない!」
「?めぎゃみー、いにゃくなったよー?(?女神、居なくなったよ?)」
『はあ?女神様が居なくなるわけ無いじゃない!何言ってんの?』
「めぎゃみーは、かみしゃまちっかくなってー、にんげーんににゃったよ?(女神は神様失格になって、人間になったよ?)」
『女神様が、神様失格?!そんなの聞いて無いけど!』
「えー、あなたが女神様に命令を受けたのはいつ頃ですか?」
今一要領を得ない話に、ユーグラムが参戦。
『何時って、何時?最近だけど?』
「人間の日時で分かりますか?」
『人間の日時何て知るわけ無いじゃない!』
「私達人間の日時で言うと、約9ヶ月前に神々の交代が行われました。その時に、女神様は、失格になり、人間に落とされました」
『うそ、そんなの聞いてない!9ヶ月前って何時なの?本当に女神様は居なくなったの?!』
「ええ、人間に落とされた女神様ご本人も確認しております」
『えええー!本当に人間になったの?擬態とかじゃ無く?』
「ええ、新しく立たれた神の確認も取れています」
『えええーー!それじゃあ、私が探してたこの子は何なの?どうすればいいの?』
「そもそも、何故ケータ様を探すように命令されたのですか?」
『え、何故って………………………何故?』
「女神様は、何故探すように命令したのか、あなたに言わなかったのですか?」
『えー?………………………たしかー、力が強すぎるから、奪って魔王の餌にする、とか言ってたような?』
「「「「「…………………………………………」」」」」
『ちょっと、何よその目は!命令されたらしょうがないでしょ!逆らったら私の力を奪うって言うんだから!』
「魔王とは、あなた方精霊の敵では無いのですか?」
『別に、敵でも味方でもないわよ!近寄ると力を吸い取られるから近寄りたくはないけど!』
「それって~、敵って事じゃないの~?」
『近寄らなければ無害よ!』
「しぇかいのばりゃんすが、くじゅれるのにー?(世界のバランス崩れるのに?)」
『それは!女神様にも何かお考えがあったんじゃないの?』
「かんがーがにゃかったから、ちっかくににゃったんだよー(考えが無かったから、失格になったんだよ)」
『………………………そう言われると、そうなのかもって思っちゃったじゃない!』
「精霊とは、神との交信は出来るのですか?出来るのなら、確認して貰えば早いのでは?」
『…………………私には出来ないわよ!』
「出来る者は居るのでしょう?ならばその者に確認すればすむのでは?」
『いやよ!あんな奴に頭を下げたくないわ!』
「あ~、仲悪いんだ~?」
『そうよ、悪い?!』
「べつに、仲が悪い奴が居るのは構わないけど~、今はそんな事言ってる場合じゃないんじゃないの~?」
『そ、それは、そうだけど!でも嫌なものは嫌なの!』
「んーじゃー、むちしゅれば?(んーじゃー、無視すれば?)」
『むち?ああ無視、って女神様を!?そんな事出来るわけ無いじゃない!』
「れもーれんらきゅ、でちないんでしょー?(でも連絡出来ないんでしょ?)」
『あんたを連れて行けば会えるんじゃないの?』
「いかにゃいけどー?(行かないけど?)」
『無理矢理連れて行かれたいの?』
「むりららい?」
『私の力を嘗めてんの?!』
「たびゅんらけどー、けーたのが、まーりょくちゅよいよね?(たぶんだけど、けーたの方が魔力強いよね?)」
『そんなわけ!……………………………何よその魔力!大精霊の私より多いって、おかしいでしょ!』
『お前が大精霊を名乗ってる事に比べれば、別におかしくねーよ!』
新たな精霊が出現した。
目の前に居るのは、十五センチくらいの水色の半透明。
横から現れたのは、二十センチくらいの緑色の半透明。
『ちょっと、何であんたがここに居るのよ!このチビは私が先に見付けたんだからね!横取りしようったって許さないから!』
『神が交代したのも感じられない、下級精霊並みの魔力しかないくせに、デカイ口叩いてんじゃねーよ!』
『本当に女神様が居なくなったの?!』
『大精霊なら全員気づいてるぜ?お前には無理だったようだけど?』
『あ、あ、あ、あんたのそう言う嫌味ったらしい所が大っ嫌いなのよ!本当に嫌い!大嫌い!』
そう言って水色の半透明は、ドボンと水の中に消えて行った。
残された緑色の半透明は、何やらブツブツ呟きながらフワッと風と共に消えた。
「にゃんだったのー?」
「本当に何だったんでしょうか?」
『女神様が居なくなったのなら、あんたに用はないわよ!』
「またでた!」
『何よ!出ちゃ悪いってゆーの!』
「よーにゃいんでしょー?(用無いんでしょ?)」
『用は無いけど!あんたは何でそんなに魔力が多いのか気になったんだから、しょうがないじゃない!』
「しょんなのちららいしー(そんなの知らないし)」
『何か特別な事をしたんでしょ!?そうじゃなきゃ、大精霊の私より魔力が多いっておかしいでしょ!』
「だいしぇーれーららいって、さっきのやちゅがいってたよー?(大精霊じゃないって、さっきの奴が言ってたよ?)」
『わ、わ、わ、私は、大精霊よ!だって世界樹の実を二欠片も食べても平気だったもの!』
『ほほう、世界樹の実を二欠片も食べたのか?』
『そうよ!二欠片丸々食べたけど、それでも平気なのは私だけでしょ!だから私は大精霊よ!』
『神への捧げ物である世界樹の実を、盗んだ上に、それを二欠片も食べると言う禁忌を犯しておいて、大精霊と言い張るか?』
水色の半透明が自慢気に世界樹の実を食べて、大精霊になった話をしていたら、シレッと足元から新たな精霊の登場。
今度は二十センチくらいの黄色い半透明。
『……………………!!!!あんたは!』
『自白は聞かせてもらった』
『ち、ち、ち、ちがうわ!私は!』
『言い訳は大精霊の集会でするのだな』
『そんな、私は、ただ……………』
トプンと落ちるように消えた水色の半透明。
何事が起こっているのか、まるで理解できない。
「「「「「「……………………………………」」」」」」
無言で全員が足元の黄色い半透明を見つめていると、
『悪かったな人間、精霊の揉め事に巻き込んだ。奴の言っていた事は、新たな神によって取り消されている。奴は力を求め元女神の甘言に乗せられた愚か者よ。二度とお前達の前に現れる事は無いだろう』
「もちょめぎゃみー、ちかりゃないのに、なんでーちんじたの?(元女神、力無いのに、なんで信じたの?)」
『何体かの力ある精霊が、元女神に従っている様子を見て、自分もその仲間になれると勘違いをしたのだろう』
「にゃんでー、ちたがってんだろーねー?(なんで、従ってんだろうね?)」
『あれらは、元女神の下位にあたるもの達だ、力は無くとも長の慣例で、従っているのだろう、考える事を放棄したものは時に酷く厄介なものだ』
はぁぁーーーとため息と共に、土の中に消えて行った黄色い半透明。
言いたい事だけ言って消えてった感じ。
微妙な消化不良を感じるが、精霊が居なくなった事で、ジワジワと魔物が近付いて来る気配を感じ、それどころでは無くなった。