まだ2日目
そこそこ長い距離をコロコロしたウニョウニョは、コツンと、1つのドアの前で止まる。
コツンコツンと開けろとドアに当たっている。
王様とメガネ長官、宰相さんが頷き合って、将軍さんが剣の鞘に手を掛ける。
メガネ長官が、そっとドアを開ける。
部屋の中は、特別変わった所の無い、女性部屋と言う感じの、綺麗に片付いてはいるが、そこここに生活感のある部屋だった。
コロコロしてウニョウニョが辿り着いたのは、30代後半位の女性。
足元に転がってきたバリアに包まれたウニョウニョを見て、女性は不思議そうな顔をする。
続いて、ノックもなく入ってきたメンバーに驚きと恐れのような表情になる。
「お前は……」
王様は、女性に見覚えが有るらしい。
他のメンバーも、驚いて声も出ない。
「な、なななにかご、ご用ですか?」
女性の動揺した声に、厳しい顔をしたメガネ長官が一歩前に出て、
「貴方は、クシュリア様の側付きメイドのダナと呼ばれていましたね。ここは貴方の部屋ですか?」
「は、はいそうですが?」
「貴方の足元の魔道具に心当たりは?」
「た、たぶん、以前クシュリア様が持っていらした物に似ているように思います」
「クシュリア様は、その魔道具について、何と仰っていましたか?」
「こ、この魔道具は、普段使っていない魔力を貯めておいて、体調の悪い人がいた場合に、これを使って治癒の魔法を使うと、そう聞いていました。ですから、私達クシュリア様付きのメイドは、仕事終わりに余った魔力をこの魔道具に込めていました」
「…………そうですか、ところで貴方の魔力量は何色でしたか?」
「わ、私は、魔法の才は有りませんが、魔力だけは多くて、赤色でした」
「なるほど、より多く魔力を込めた貴方の元にきた、と言う事ですか」
「あ、あの!私、何かしてしまったのでしょうか?」
「いえ、大丈夫ですよ、ちょっとした勘違いでした。突然押し入るような真似をしてすみませんでした、それでは」
全員で部屋を出て、元いた部屋に戻る。
デュランさんが出してくれたお茶を飲み一息付くと、
「取り敢えず、安心致しました。これで黒幕などがいる可能性が消えました」
「ああ、そうだな、主犯はクシュリアで決定だ。但し、魔道具も毒の入手経路も判明していない、引き続き捜査を続けてくれ」
「「了解しました」」
王様がまとめて、宰相さんと将軍さんが返事をして、メガネ長官が魔道具の解析をするらしい。
イングリードとアールスハインは、まだ捜査には参加出来ないらしい。
能力が無い訳ではなく、王族の問題を王様以外が捜査するのは、不正を疑われるのでダメなんだって。
以上で解散。
部屋で昼食、のはずが呼び出し。
食事室のテラスで、王妃様とアンネローゼ双子王子が待ってるって。
アールスハインもシェルも苦笑。
テラスにつくと、朝と同じように王妃様とアンネローゼが優雅にお茶を飲んでいた。
昼食のメニューは、サンドイッチ、スープ、サラダ、フルーツ以上。
王妃様は午前中は、お客様の相手をしていて、アンネローゼはマナーと歴史の授業があったんだって。
双子王子は、庭に出てとにかく走り回ってたそうな。
アンネローゼは、幼年学園に通っているけど、今の時期は休みで、休み中に、苦手な歴史の復習をしておくんだって、王族も下手に成績を落とせないので、大変らしいよ。
そんなアンネローゼの愚痴を聞いて、王妃様が宥めて、アールスハインが、学園の教師に仕掛けた悪戯の数々を披露して、王妃様が笑いながら宥めて、穏やかな昼食の終了。
そしてそれぞれの午後の予定へ。
アールスハインの午後の予定、メガネ長官の呼び出しでやって来たのは、廃業したホテル?元は白い石の建物だったろうに、煤けて灰色になったその建物は、夏の心霊特集にテレビ出演しそうな、ホラーな建物だった。
ギギギギギギギーと、それらしい音をさせて開く両開きの扉を潜ると、一流と言われるホテルではなく、地方にあるビジネスホテルのよう。
入って右手にラウンジ、左手に無人のフロント、奥には幾つかのドアと、上に繋がる階段。
まんま前の世界でお世話になったビジネスホテルその物、但し、全体的に煤けて灰色をしている。
火事でもあった?煙臭くはないけど。
シェルとアールスハインと抱っこされた俺でフロントに近付くと、それまで暗かったフロントに明かりが灯る。
フロントのカウンターの上にのった、球体が明かりだったらしい。
手を叩くと色の変わる同じようなランプが、妹の部屋に昔あったな、と思い出す。
明かりが灯ると、奥の方からザリザリと足を引きずるように歩く男が現れた。
髪はモサモサのボサボサ、目は髪に隠れて見えなくて、グシャグシャのローブを着て猫背で細身、なのに口元は笑ってる。
とても胡散臭い、怪しい男に見える。
「おー、これはこれは、アールスハイン王子ではないすかー、長官のとこでしょー、どぞどぞ、入ってっちゃってくださーい」
と片手で階段の方を示す。
軽く一礼して階段の方へ、何となくアールスハインの肩越しに振り返ると、今、俺に気付いたようにビクッとしたので、手を振ってみたら、反射で片手を上げた。
クスクス笑っていると、アールスハインとシェルが見てきたので、
「しゃっきのしとーいいーしとー」
「そうですね、見た目は怪しい男ですが、仕事は出来ますね」
それってフォローなの?と言う返事が返ってきた。
長い階段を最上階の4階まで上がる。
メガネ長官の部屋に到着。
窓とドア以外は3面が本棚で、残り一面は、怪しげな道具や液体の入った瓶、不気味な色の玉等々が並び、大きな机には沢山の書類、それらがとても整理整頓されている。
メガネ長官の几帳面さが一目で分かる部屋だった。
ソファーに座り、メガネ長官自ら入れてくれたお茶を飲み、俺のは青汁桃ジュースで!話を聞く。
「予定では、魔法の基礎練習は、明日の午前中からの予定でしたが、先程お預かりした魔道具の解析準備に思ったよりも時間がかかっていまして、少々予定を変更しなければならなくなりました。そこで、ハイン王子、ケータ様、聖女様には、明日の午後の基礎練習の時間まで、この魔力錬成の玉で、魔力循環の訓練をして頂こうと思いまして、お呼びしました」
と、俺達の前に水晶玉を置いた。
無色透明の玉は、持ってみると、それぞれの手の大きさに合わせるように、俺のはビー玉位、アールスハインのはソフトボール位の大きさになって、予想よりもずっと軽くて、プラスチック?と思ったが、触り心地はスーパーボールと言うファンタジー玉だった。
落としたら弾むかな?
俺とアールスハインが玉を眺めていると、
「その魔道具は、魔力を流すと、色が変わります。流す魔力の量によって色が変化するので、魔力コントロールの訓練になるのです。貴族ならだいたい物心ついた頃から、この玉で遊びを交えてコントロールを教えるのが効率の良い方法とされています。綺麗に色分け出来るようになるのは中々難しくて、大人でも不得意な方は多くいますので、魔力に慣れる練習と思って、常に持ち歩いて時間のある時にやってみて下さい」
そうしてメガネ長官は、自分の前に置いた玉で、手本を見せてくれた。
白、黄、緑、青、赤と色が変わって行く。
それこそ妹の部屋にあったライトのように。
「これは、自分の魔力量の色までしか変化させる事は出来ませんので、そこは注意して下さい。幾ら魔力を流しても、自分の魔力量の色以上は出ません。疲れるだけで無駄なので、無茶をせず綺麗に色を変える事を意識して下さい」
そしてこっちを見るので、取り敢えずやってみる。
魔力を流すってどうやるの?と思ったけど、玉を眺めてると、掌から何かが出て行く感覚がして、玉が赤くなった。
ビックリして、玉を離すと、元の無色透明に戻って、今度は指先で触ると、触ったとこだけ赤くなった。
ツンツンしても同じ、触った時だけ赤くなってまた戻る。
そんな遊びをしているけど、さっきから赤くしかならないのはなぜ?
「ケータ様は、虹色判定なので、ちょっと触るだけで赤くなりますね、これは、魔力を少量だけ出す方が難しいでしょうね」
と、俺の赤い玉を見て言ってくる。
難しいとか言われるとむきになるね!
アールスハインは、と見ると、紫の濃淡を繰り返してる。
「ハイン王子も、赤と青の中間色である紫、これは、青には多く、赤には少なくと言う半端な流し方になっています。お二人とも、魔力を流す事はスムーズに出来たので、あとは個人の練習次第です」
と言う事で、呼び出しは終了。
メガネ長官は、これから聖女の所に玉を届けに行くんだって。
聖女も呼び出したけど、キャベンディッシュが、用があるならお前が来い!したんだって。
アホだね。傲慢だね。嫌いだね。
なので、俺達は部屋に戻って、魔力コントロールの訓練をします。
なぜかメガネ長官が、俺だけにファンタジー玉を追加で3個くれたけどね。
アールスハインのお部屋に戻りました。
ソファーに座って、ファンタジー玉で練習をしています。
折角沢山貰ったので、俺は両手に持ってやってます。
どっちの玉も赤の濃淡を繰り返すだけだけど、暇なので、お手玉してみた。
手が、紅葉のような可愛いおててなので、前世の忘年会でやったジャグリングは無理、2個の玉でポイポイしました!
そしたら出来たよ!何で出来たのか全く分からないけど、玉を投げてキャッチしてを繰り返すうち、玉の色が赤の濃淡だけでなく、青、緑、黄、と次々色が変わっていって、驚いて両手でキャッチすると、虹色になった。
確かめる為に、もう一度!出来たよ!
アールスハインもシェルも、物凄く驚いてるね!
「えへっ」
て笑って誤魔化したら、何時もより強目に二人掛で頭撫でられたよ!
普通に握って色変われ!ってしたら普通に出来るようになって、お手玉も3個まで出来るようになって飽きたので、アールスハインを見ていると、赤と紫の間で行ったり来たりしてて、綺麗だけど、余り変化は見られない。
なので、チョンと指先でアールスハインの玉をつついてみると、その度に一瞬虹色になるのが面白い。
ツンツンちょっかいをかけて、遊んでたら、アールスハインが面白くない顔をしたので、アールスハインの手に手を重ねて、色変えをしてあげたら、アールスハインが驚いて、自分の手をニギニギした後、真剣な顔で玉に手を当てるので、こっちも大人しく見ていると、出来たよ!
「はぁぁぁぁぁぁ?」
「ええええええええ?」
とアールスハインとシェルに同時に叫ばれた。
普通は、そんなに簡単に出来るようにならないんだって!えへ!で誤魔化したよ!
「イヤイヤイヤイヤ!?」
「ケータ様?何をなさったんですか?」
「?んう?」
「イヤイヤ、可愛い子ぶってもダメですよ!可愛いですけど!」
「ちーなない」
「知らないってあなた……これは、天才ってことですかね?」
「それで納得して良いものなのか?」
「いやだって、あなたも出来ちゃったじゃないですか」
「それはそうだが…」
「いくらケータ様が手を出したからって、そんな簡単に出来るようになるもんでは無いんですよ!あなたも充分天才の内に入りますからね!」
「イヤイヤイヤイヤ!えー?それで良いのか?今までに、子供の練習を親が手伝ったりして、出来るようになった、なんて事はないのか?」
「そんな方法が有れば、とっくに広まっているでしょうねー?私は聞いたこと無いですけど、それで何で、あなたは出来たんですか?」
「あー、うん、ケータに手を重ねられて、魔力を流されて、大体の必要な魔力量が分かったと言うか、イメージで伝わったと言うか?」
「で?やってみたら出来た、と?」
「ああ」
「………………明日の魔法訓練の時に長官に確認した方が良さそうですね」
「ああ、そうだな」
と言う事で、魔力コントロールクリア!
テレテテッテレー!違うか!




