表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/313

まだオッサン

初作品なのに連載という無謀な事に挑戦中。お手柔らかにお願いします

  俺は今、埋まっている。

  何に?雲に。

  自分で言ってて意味が分からない。

  だが、雲に埋まってるとしか言い様がない。

  上を見れば空、横を見ても空。

  俺が埋まってる部分は真っ白だが、ちょっと離れたグレーの部分が、時々光ってゴロゴロ言う。

  痛くはないがたまにピリピリする。

  頭、肩、腕以外の胸から下がズッポリと白く柔らかで、しっとりとした何かに埋まっている。

 例えるなら、固いマシュマロだろうか。

  何とか抜け出そうと、腕を使って体を持ち上げたり、叩いたり、体を揺すったりしたが、一向に抜け出せない。

  そのうち、疲れてグッタリしてきた。


  経緯を振り返ってみよう。


  俺、五木恵太、42歳、両親は10年前に他界。

  2歳下に双子の妹、その5歳下に3人の弟が年子で続く。

  住んでたのはド田舎、つうか山ん中。

  うちはけっこう大きな農家だった。

  祖父母は俺が小学生の頃に他界。

  祖父母、両親と兄弟6人、賑やかに暮らしてた。

  両親とじいちゃんは、朝から晩まで畑や田んぼや山にいて、子供達の世話はばあちゃんがみていた。

  長男の俺は、じいちゃんについてって、山を歩き回り、ばあちゃんに家事を仕込まれた。


  小学生の高学年になった頃、俺達の住んでた村が、ダム建設の候補地になった。

  八割年寄りの村は、抵抗する術無く、受け入れるしか無かった。

  ダム建設は、民間企業と合同で、何かの研究所を作るとかで、通常の土地代と移籍補償金?とかより、少し多目の金額を貰えたらしい。

  当時小学生の俺は、その辺は詳しくは知らないが、その多目の金額が、俺達の移住先を下の町と言われる、山裾の町への移住を困難にした。

  多目の金額を貰えたのだからと、下の町の地主が、土地代を跳ね上げたのだ。

  多目の金額と言っても、何倍も貰えた訳ではない、仕事も一から探さないといけない、田畑は先ず、作物に合った土を作り、種を蒔き、収穫までにもそれなりに時間がかかる。

  そんな事情で、下の町への移住は取り止め、地方都市の郊外に家と土地を買い、移住する事になった。

  諸々の手続きがすんで、さて、引っ越しの準備に取り掛かるか、と言う時じいちゃんが、慣れ親しんだ山の崖から落ちて死んだ。

  それを聞いたばあちゃんが、心臓発作で後を追うように死んだ。

  いくら仲の良い夫婦だからって、二人揃って逝く事は無いだろう、と葬式では村中が哀しんだ。

  哀しんでいても、引っ越しの期限は決まっている。

  引っ越しの日、俺は両親の許可をもらい、山で一番大きい木の根本に、じいちゃんとばあちゃんの骨の一部を埋めた。


  山ん中から比べれば、地方都市は十分都会で、最初は戸惑うことばかり。

  だがそこは、学校一の暴れん坊と、初日にガチバトル。

  妹を馬鹿にされては、兄ちゃんは黙ってられません。

  暴れん坊と言えど、所詮都会ッ子、日々山を駆け回った俺の敵ではない。

  泣くまでボコボコにしてやったら、なぜかなつかれ、友達に。

  その後は、とても平和に過ごせた。


  父親は、農家生まれ農家育ち、それ以外の仕事などしたことがなく、それでも家族のために、工場で働き出した。

  元いた家の10分の1に満たない家の庭に、ささやかな菜園を作り、自分を納得させているようだったが、プロの農家の作る菜園、そりゃ素人の作る菜園とはレベルが違う。

  近所の奥様方で話題になり、習いたいと複数の申し出があり、母からの勧めで、工場の休みの日だけなら、と、カルチャースクールの講師になった。

  時代が良かったのか、引退後の趣味として、家計の助けとして、家庭菜園教室は大変盛況になり、工場を辞め、講師一本でも、生活が出来るまでになった。

  かたちは違うとは言え、父親は農家で生活が出来る事を、とても喜んだ。

  母親は、結婚前は会社勤めをしていたので、馴染むのにそれ程時間はかからなかった。

  が、パートを始めたはずなのに、いつの間にか、社員になり、課長になり、部長にまでなった。

  遣り甲斐のある仕事を手に入れた両親は、家庭を顧みなくなった。

  と言うよりも、ばぁちゃんが生きてた頃は、ほぼ全ての家事を、ばあちゃんと俺がやっていたので、家事を自分達でやると言う意識が、スコーンと抜けていたらしい。

  だが、いくら周りがしっかり者の長男と誉めちぎろうと、中学生の俺が、5人の子供の面倒を十全にみられるわけもなく、生活は荒れ始め、毎日帰りの遅い両親に、心配した近所のおばちゃんが児童相談所に通報して、虐待の心配はされなかったものの、危うく放置児童認定を受けそうになった。

  そこで漸く、家事、育児の全てを長男に丸投げしていたと気付いた両親に、泣いて謝られた。

  猛省した両親は、家事、育児に積極的に参加しようとしたが、元々ばあちゃんに育てられ、その後はずっと俺が面倒をみていたせいで、我が子にどう接して良いかわからずに、ただただ甘やかす両親と俺の間で、喧嘩が絶えなかった。

  ばあちゃん仕込みで、可愛い弟妹のため家事に勤しんできた俺の家事スキルは、両親よりも、はるかに高い。

  それにも関わらず、俺から家事を取り上げて「お前は好きな事をしなさい」などと言って、中学生のこづかいには多すぎる金額を渡して来た。

  俺はグレかけた。

  まぁ、過干渉の両親に、双子の妹がぶちギレ、保育園に通っていた末っ子が、母の料理で謎の蕁麻疹を発症したので、家族会議の結果、両親は、時間のあるときにだけ[俺の手伝いをする]と言うしょーもない結論に至った。

  弟妹の世話に追われ、両親の手伝いと言う名の邪魔にもめげず、中学高校時代を過ごして、大学受験。

  東京の大学と、近隣の大学かで悩む俺に、両親は、自分達の今までの不甲斐なさを謝りながら、東京の大学への進学を勧めた。

  その様子を見ていた弟妹にも、今度は自分達が頑張る!と言う言葉に後押しされ、東京の大学に進学を決めた。

  家事スキルは、バイトにはとても役立った。

  俺が家を出た途端、家が荒れたと何度かヘルプコールが来たが、妹達に確認すると、サボりたいだけだからほっとけと一蹴された。

  母からのヘルプコールも妹達に蹴り跳ばされた。


  大学2年の終わり、妹から結婚の知らせが来た。授かり婚だった。

「高校は?」

 と聞くと、

「卒業までは全力でごまかす!」

 と返ってきた。

  高校卒業後の4月に、身内だけで式を挙げた。

  夏の終わりには、双子の甥っ子ができた。

  わが妹は、逞しいと感心した。

  もう一人の妹は進学した。


  大学を卒業し、そのまま東京の食品会社に就職した。

  就職した年の梅雨、妹から結婚の知らせが来た。またもや授かり婚。

  式は挙げないらしく、ウェディングドレスの写真だけ届いた。

  冬の始め、双子の甥っ子が増えた。


  その後、幾つかの部署に異動になり、彼女が出来て、別れてを繰り返したが、結婚の話にはならなかった。

  妹に愚痴をこぼすと、自分より家事の出来る男は嫌!と言われた。


  社会人10年目、両親の事故の知らせ、急いで病院に駆けつける。

  孫も小学校に通っていて、中々遊びに来られなくなって、仕事も落ち着いてきた両親は、二人で旅行に行くのを趣味にしていた。

  旅行先からの帰りの車で事故にあった。

  酔っぱらい運転の車が突っ込んで来たらしい。

  病院に着いた時、両親は意識があって、集まった子供達、孫達に笑顔を見せた。

  その夜、二人揃って亡くなった。

  最後の言葉は「ありがとう」だった。

  葬式、親戚への挨拶、相続など忙しく一息つけたのは、亡くなってから一月たってからだった。

  一人になって初めて泣いた。


  社会人15年目、弟達から結婚の知らせが来た。

  同時期に付き合い出した3人の弟達は、互いに相手を紹介し合ううち、彼女達が意気投合、どうせなら、同時に式を挙げよう!と言うことになって、秋に盛大な式を挙げた。

  翌年3人の甥っ子が増えた。

  三つ子のようにそっくりだった。


  就職18年目、課長補佐に昇進した。

  同僚の中では遅めの昇進だった。

  それでも周りに祝われて、とても嬉しかった。

  所属する企画2課に、新しく配属されて来たのが、小学校からの親友?悪友?の三栗谷助(みくりやたすく)で驚いた。

  中途採用で入社したらしい。

  助とは度々呑みに行き、色々な趣味を楽しみ、たまに甥っ子達の顔を見に行き構い倒した。

  今に思えば、あの頃が俺の人生のピークだった。


  5ヶ月前、やたらと若い課長が来た。

  社長の三男らしい。

  仕事の全く出来ない男だった。

  出来ないなりに、大人しくしてれば、誰も文句は無かったが、誰が呼んだか、ボンボン課長、隣の企画1課の俺と同期の主任に恋に堕ちた。

  彼女は何を勘違いしたのか、自分を物凄い美人と思い込んでいた。

  腰まで届きそうな長い髪、化粧は濃く、ぱっつんぱっつんのスーツに身を包み、無駄に尻を振って歩く、そんな彼女を、去年の新人は、ボンレスハムと称し、それが周りに広まって、ボンレス主任と影で呼ばれた。

  そんな彼女のドコニ?とは誰もが持つ疑問。

  ボンボン課長はボンレス主任の気を引こうと、色々なアプローチをしたが、ボンレス主任は、焦らすのがイイ女!とでも考えているのか、中々二人の仲は進展しなかった。

  そんな中、ボンレス主任が目を付けたのは、うちの課の若手社員が提出した企画書だった。

  いつもなら俺に提出される企画書を、ボンボン課長に提出した。

  放置された企画書に目を見つけたボンレス主任は、甘えた声でボンボン課長にねだって企画書を持ち帰り、自分の企画として会議に提出した。

  若手社員がそれは自分の企画だと訴えたが、ボンボン課長は見ていないし、俺も提出されたことさえ知らなかったので、庇いようがなく、うやむやになった。

  結局、企画は通らなかった。

  初めてボンレス主任に甘えられた、ボンボン課長は、何を思ったか、ボンレス主任の仕事を引き受け出した。

  ボンボン課長は、仕事の出来ない男。

  最初は自分なりに、頑張っていたが、一向に進まない仕事に、ボンレス主任がイライラし出すと、ボンボン課長は慌てて仕事を俺達に丸投げしてきた。

  当然そんな仕事を俺達が受けるはずもなく、突き返すと、ボンボン課長は親の権力を使い出した。

  社長は立派な人だった。

  有能、敏腕の言葉に相応しい、婿養子にも関わらず、前社長に会社の全権を任される、とても仕事の出来る男だった。

  そんな立派な社長なら、この理不尽な仕事の丸投げを、咎めてくれると信じていた。

  期待は踏みにじられた。

  社長は、仕事は出来るが、息子を甘やかすことしか出来ないバカ親だった。

  理不尽な仕事は、ろくに理由も聞かれずに、俺達に丸投げされた。

  悲しいサラリーマンの性、上にやれと言われれば、やらない訳にいかず、自分達の仕事で精一杯なのに更に増えた仕事で、連日の残業、休日出勤が続いた。

  せめて女子社員は帰そうと、仕事を引き受けた俺を、三栗谷が助けてくれていた。

  にも関わらず、調子に乗ったボンボン課長とボンレス主任は、更に仕事を引き受けて、最後の三ヶ月は、一日22時間労働、家に帰る暇さえ無くなり、近所のサウナでシャワーと束の間の仮眠を取るだけの日々。

  全員が、限界を感じていた。夜9時、


「あら~ん、皆まだ帰らないんですか~?まだ仕事終わってないって、遅すぎません?」


「ほんと、こいつらにはウンザリだよ、仕事は遅いし、文句は多い、無能なんだから、言われた事を黙ってやればいいのに、こんなやつらに給料払ってる親父って、ほんと立派………」


  今さっきまで、イチャついてましたって爛れた格好で現れた、ボンボン課長とボンレス主任の二人に、誰が一番最初に切れたのか、


「ふざけんな!これは全部テメーらの仕事だろうが!丸投げしといてふざけたこと言いやがって、仕事が遅いのも、出来ないのもテメーらだろうが!」


「そーだそーだ、親の権力使って、女に取り入ることしか出来ない無能の癖に、人様に文句言うとか、どんだけ屑だよ!あと、女の趣味最悪!!」


「そーそー、自分のこと、どんだけイイ女と思ってんのか知らないけど、あんたそのあっつい化粧取ったらブスだから!豊満ボディーとか言ってるけど、肥満だから!ちょっと太いとか言うと、セクハラとか騒ぐけど、あんたらがやってんのが、立派なパワハラだから!!」


  あふれるように止まらない不満は、限界の体にとても堪えて、皆ゼーゼー肩で息をしている。

  突然、全員に怒鳴られて驚き、文句の内容に怒りで言葉の出ない二人に、


「と、言う訳で、我々はあなた達に都合よく使われるのに限界を感じ、これ以上耐えることは出来ないので、あなた方が心から謝罪し、態度を改めるまで、会社を休ませて頂きます。

休養後、労働基準局にも訴えさせて頂きますので、そちらもよろしく。

 では、お疲れ様でした!」


  言葉と同時に皆に目配せすると、全員に満面の笑みを返され、全員一緒に立ち上がり、やりかけの仕事をほうりだし会社を後にした。

  最寄の駅で、それぞれに肩を叩き合い、無言で別れる。

  電車内は、それ程混んでいなかったので、空いた席で仮眠を取る。

  自然と目が覚めたのは、いつもの駅、限界近く疲れていても、体が覚えていたことに感心する。

  駅を出て、ふらつきながらゆっくり歩く。

  家に帰れるのは、何日ぶりだろうかと思い出す。

  たぶん二ヶ月半ぶり位。


  家まで残り2分、ゆっくりと歩道橋を上ると、男女3人が揉めていた。

  怒鳴り合う男2人の話によれば、どっちが女の本命なのかを争っている。

  男2人に取り合いされる程にイイ女なのかと、仮眠のせいでちょっと余裕が生まれたのがいけなかった。

  一目見て、これはダメだと思った。

  歳は16、7歳、近所のアホで有名な高校の制服を着た、女子高生、顔は可愛い部類かもしれないが、その表情が最悪だった。

  2人の男に奪い合われる自分に、完全に酔っている。

  口元を、優越感でニマニマと歪めるばかりで、一向に2人を止める様子がない。

  関わり合いになりたくないと、ちょっと離れて通り過ぎた。

  その時、背中を誰かにひっぱられる感触がして、何事?と振り向けば、怒鳴り合いから揉み合いになった2人の男に、突き飛ばされた女が、俺の背負っていたリュックを鷲掴んでいたのだ。

  場所は歩道橋、階段のすぐそば、元々フラついていた俺が支えられるはずもなく、女と2人、階段下へと転がり落ちた。

  痛みは感じなかった。

  ただ、体の中から温かいものが抜けていく感じがして、酷く寒かった。

  俺は意識を手放した。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4巻の発売日は6月9日で、公式ページは以下になります。 https://books.tugikuru.jp/202306-21551/ よろしくお願いいたします!
― 新着の感想 ―
YouTubeでアニメを見て興味を持ち来ました。楽しく読ませて頂いてます
[気になる点] 面白さは一切無いのに、ウザさと性格の悪さだけ滲み出てる
[気になる点] 説明長いんよ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ