水たまり
吐き気を催しながら校舎を出た。
校庭に立つと、俺を阻むように幾百、幾千もの雨粒が身体を打つ。
ぴちぴちちゃぷちゃぷらんらんらん。
小さい頃、雨の日に必ず口ずさんでいたフレーズ。楽しかった雨の日の思い出が、今、真っ黒に塗りつぶされた。
足元の水たまりには、激しく降りしきりる雨粒によってぐちゃぐちゃになっている俺の顔が映っていた。
天を仰ぐ。空は曇天。俺の心を映すかのように灰色の雲たちが大粒の滴を撒き散らしている。
気持ち悪さを抑えようとするたびに、先ほど教室で聞いてしまった陰口が頭に蘇ってくる。
戻るか。進むか。
戻ったところでどうする。さっき俺の悪口言ってたよね、なんて言えるはずがない。
一歩踏み出す。靴がグシュッと嫌な音を立て、足先に不快感が走った。
帰りたい。一刻も早く。
不快感も慣れればどうということはない。顔面を打つ雨粒の痛みも、慣れてしまえば。
校門付近で足を止めた。
少女がいた。
俺と同じく傘も差さず、制服姿のままで微動だにせず突っ立っている。
気配に気付いたのか、ゆったりと振り返った。
目が合う。
少女の顔には、水たまりに映るはずだった俺の表情が貼り付いていた。
性別も見た目も違うはずなのに、鏡を見ている気分になる。
どれだけそうしていただろう。
プイと少女は顔を背け、そのまま校門を出て行った。
遠ざかる背中に無意識に伸ばしていた手を引っ込める。
なんで彼女があんな顔をしてここにいたのか。
俺と同じ理由だろうか。なら声をかけないのが正解だ。
チラリと後ろを振り返る。
俺の教室の窓から蛍光灯の光が漏れ出していて、思わず目を覆った。
俺もあの光の中にいたのにな。なんでこんなことになってしまったんだろう。
呟きに応えてくれる者は誰一人いない。