画になる男 †
"誠の恋をするものは、みな一目で恋をする"
シェークスピアの言葉のように
あの日あの時あの瞬間、
僕は貴方に恋をした
誰かが何かを言ってた
誰かのその言葉のように
あの日あの時あの瞬間
俺はお前に恋をした
白いキャンバスに描く
(僕のスケッチブックは、貴方色に染まりました)
(俺の中の闇色は、お前色に染まってった)
※注意!
この作品は、生ぬるいエロ、暴力表現を含む予定です
ただし、本当に生ぬるいです15禁程度
全て自己責任でお願いいたします
そういった場面が含まれる場合、『※』というマークがついています
苦手な方や不快感を抱く方、精神年齢が低い方は避けてください
題名の後に『†』のマークがついているモノは、
No news is good news.様
からの提供です
無理言って作っていただきました!
心の底から感謝します!
ありがとうございました!
この場を借りてお礼申し上げます
ここまで読んでくださりありがとうございました。
―――
その時僕は、普段じゃ絶対にありえない行動を起こした。
イライラしていたせいかもしれない。
あまりにも悲しかったからかも知れない。
だけどそのお陰で、貴方に、出逢えた。
運命だと、思っていいかな。
【画になる男】
一階から勢いよく階段を駆け登る。
大きな鉄の扉が見えるまで一度も止まることはなかった。
普段あまり運動をしない僕は、それだけで息がきれて、つらい。
だけどそんな事を思う暇もないぐらい、今の僕は怒りと悲しみで一杯だった。
扉に手を伸ばし横へとスライドさせる。
ガタンと音がするだけで扉が開くことはなかった。
当然の事だ。
ここは本来立入禁止。
なのにどうしてこんなに気分が沈むのだろう。
落胆して、元来た道を戻ろうと振り返る途中、鍵の壊された窓が視界に飛び込んで来た。
まるで出なさいとでも言うように開け放たれている。
少しだけ高い位置にある窓は、背の低い僕が乗り越えるのは大変な作業だった。
腕に力があるわけでもないから余計に。
持っていたスケッチブックを外へと放り、窓枠に手をかけなんとかよじ登って外へ出る。
―気持ちいい……
柔らかい風が頬を撫でていく。
先程までの苛立ちや悲しみを慰めてくれるように。
ふと、冷たいものが頬を伝う。
泣く、なんて、どうかしてる。
止めたいのに、一度溢れ出た涙はなかなか止まってくれそうにない。
「っ……。ふっ……っ…」
誰に聞かれるわけでもないけど、僕は声を殺して泣いた。
ふと目に留まったスケッチブック。
風に吹かれたせいかパラパラとめくれている。
ちょうどよく開いていたのは、見たくなかった、僕が今ここにいる理由。
本当は、凄い自信作だったのに…
自分では最高の出来だと思ってた。
先生にも褒められて、少し浮かれすぎてたのかも知れない。
「こんなっ、ものっ!!!」
ページを破りさらに紙を破ろうと手に持つ。
だけど手に力を入れる事は出来なかった。
震えが、止まらない。
全国高校選抜美術展に出展されるはずだったもの。
確実に選ばれると言われていた。
それなのに選ばれたのは、めったに部活に顔を出さない人のもので、悔しくて、悲しくて…
それでも自分の実力が足りなかったせいだから、おめでとうと精一杯心をこめて言ったのに
『あー、みつるっち。あんがと。でもさーこんなん別にどーってことないし、どうでもよくね?』
プツンと、何かがキレた。
確かにその人の絵は、綺麗だった。
けど…だけど……
自分の努力を、全否定された気がしたんだ。
どうしようもなく悲しくて、でも涙を見せるのが嫌でここまで来た。
この絵を破ってしまえば、本当に僕の全てが失われてしまうんじゃないかって怖くなった。
怖くて、手放す事もできない。
「あっ…!」
そう思ってた矢先、僕の手から風が紙をさらっていった。
白いキャンバスに描く
□画になる男
4ページ/8ページ
画用紙は地面の上を滑るようにして飛ばされた。
すぐ近くで止まり、ホッとしつつも急いで拾う。
やっぱり、手放せない。
そこで僕は異変に気付く。
影が、見える。
それはつまり、人がいるということで。
ビクビクしながら覗き込む。
そこには、神の子がいた。
初めてみた、こんなキレイな人。
壁に寄り掛かり座っている。目を閉じているから寝ているのだろう。
ワックスかなにかで緩くたてられた髪は、輝く銀。
閉じられた目は切れ長で長い睫毛で覆われている。
開かれた先にある瞳はどんなものだろう。
薄い唇は誘うように小さく開かれ艶やかだ。
投げ出されている四肢は引き締まりその身長は座っていてもわかるほど大きい。
それなのに傾き始めた陽に照らされ、今にも消えてしまいそうに儚くて。
吸い寄せられるように近づき、正面へ座る。
―描きたい…
ドクンと心臓が高鳴る。
ぎゅうと胸を掴んでもおさまりそうにない。
幸い相手は寝ているみたいだから、今のうちに…
慌てスケッチブックを取りにいき、白紙のページを開く。
スケッチブックについていたシャーペンを取ってガリガリと書き出した。
一度動き始めたらなかなか止まらないのが僕の悪い癖だ。
だけど今はその癖さえありがたい。
ドクドクと脈打つ心臓をそのままに、夢中で書き続けた。
一枚書き終えた時ふと気付く。
この人、寒くないのかな…?
いくら昼間が暖かいからといっても、もう更衣は終わっていた。日が暮れれば冷えてくる。
それなのにこの人はワイシャツ姿。
少し考えてから自分の学ランをそっとかける。
…改めてわかる、この人の大きさ。
僕が小さいのもあるけど、180は越してるのかな…
かけた時に起こしてしまうかもと内心ビクビクしてたけど、そんな心配は無用だった。
再び正面に座りシャーペンを持つ。
さあ描こうと意気込めば、また高鳴る胸。
ここまで描きたいと思うような人に出逢えるなんて、思ってもみなかった。
そもそも、こんな人がこの学校にいた事自体知らなかったよ。
しばらく、ドキドキ五月蝿い心臓とシャーペンが紙を擦る音だけが静かな屋上に響いた。
三枚目を書き終え、被写体とスケッチブックを交互に見つめる。
自分でも、驚くほどの出来だと思う。
それはきっと、モデルの人がカッコイイからで――
「…誰だ。お前…」
低く通る声が体に伝わる。
驚いて顔をあげると、射ぬくようにこちらを見据える瞳。
見たかった瞳は灰色だった。それは彼にとてもよく似合っていて、綺麗としか言いようがない。
「っあ……ぼ、僕、は……」
こんな時、口下手な自分が嫌になる。
言わなきゃいけない事はたくさんあるのに、何も出てこない。
オロオロとしていると、彼は自分にかかっている学ランを見つめた。
「…これ、お前の…?」
「う、ん…」
「そ…。…サンキュ…」
「い、いえ!勝手に…ごめ、なさ…」
何に謝ってるのか、自分でも分からなくなった。
どうして、ドキドキが止まらないのだろう。
まだ描き足りないのかな。
学ランを受け取り、着込む。
今まで気付かなかったけど日が落ちてきたせいで、少し寒い。
「…名前、何?」
「えと、す、鈴野、満、です」
「…みつる」
確かめるように呼ばれた。それだけなのに、言いようのない感覚が体中を駆け巡る。
やっぱり、どうしちゃったんだろう僕…
「滝川、良平」
小さく欠伸をしながら告げられる。
あれ、滝川くんって…
「お、なじ…クラス…?」
「2B?」
「うん、」
「そか」
滝川くんは不良で授業はサボってるって聞いた。でも成績が良くて家がお金持ちだから、授業免除されてるんだって。
「みつる、それ何?」
それ、と滝川くんが指差したのは僕の持ってたスケッチブック。
「あ、と、スケッチブック…?」
「見せて」
強要するような声音ではないけど、否定させない瞳がこちらをじっと見つめる。
逆らえるわけもなくて、恐る恐る差し出す。
滝川くんはゆったりとした動作で受け取り、ぺらぺらとめくっていく。
と、あるページで滝川くんの手が止まった。
「…これ、綺麗だな」
「え?」
どの絵の事を言ってるのか分からなくて困っていると、ちょいちょいと効果音が聞こえそうな仕種で僕を呼ぶ。
高鳴る胸を押さえながらゆっくりと隣へと移動した。
「あ…」
手が止まったのは一枚だけスケッチブックに挟まっていただけだったからなのか、覗き込めばアノ絵。
「みつるが描いたの」
「…うん」
「綺麗」
再び呟かれた言葉に頬を染める。
こんなにも自分の絵を褒めてもらえるなんて思ってなかった。
破らなくて、よかった。
「……俺…?」
「っ!ご、ごめんなさい!こんなのっ…」
「何で?スゴイうまい」
赤くなった頬を隠すために俯いていた僕は、滝川くんが次のページを開いていた事に気がつかなかった。
そこにあるのは、先程描いた、滝川くん自身。
勝手に描いてしまったのに、許してくれて、うまいって言ってくれた。
お世辞だって分かってるけど、なんだか泣けてしまった。
「みつる…、みつる、泣かないで」
「ごめ、さな…」
「なんで謝んの」
滝川くんは、いきなり泣き出した僕を優しく抱きしめてくれた。
そのせいで、滝川くんのワイシャツが濡れてしまう。
泣き止まなきゃと思うのに、腕の中が暖かくて、なかなか泣き止む事が出来い。
「みつる」
滝川くんの声は優しくて、心地良くて、おかしくなりそうなくらい、愛しいと感じた。
きっと僕は、貴方を初めて見たその瞬間から、
貴方に、
恋をしていました。
滝川くんは僕が泣き止むまで抱きしめ続けてくれた。
「ごめんね…。ありがと」
「ん。…帰ろ」
「う、うん!」
立ち上がった滝川くんは想像したとおり大きかった。
なんだかちょっと惨めかも…
「みつる…かわい…」
「え?!」
ぽんぽんと頭を叩かれる。
そりゃ、普通の高校生男子にしたら小さいけど…
「怒った?」
「…怒ってない、よ」
「みつる、かわい」
「か、可愛くなんて、ないっわぁ!」
「軽…」
抗議してたらいつの間にか窓の所まできていて、滝川くんは僕を持ち上げて窓枠に座らせた。
こ、こんなに簡単に持ち上げられるなんて…
でも持ち上げてもらったお陰で、来る時ほど苦労せずに中に入れた。
「ありがとう」
「ん。みつる、危ないよ」
「あ、うん」
お礼を言った時には滝川くんは既に窓枠に足をかけていて、飛び込んでくるみたいだったから急いで場所を開ける。
スケッチブックを持っているのに、どうしてそんなに身軽なんだろう。
着地はタンッと軽い音で、天使だと思った僕は、間違っていないと思う。
「ぇ…あ…、た、滝川く…」
「良平、って呼んで」
「りょ、良平くん?」
滝川く…良平くん、は、僕の手をとるとそのまま歩き出した。
僕たちは何か話をするわけでもなく、ただただ歩いていた。
肌寒い風が僕たちを撫でていく。
繋いだ手だけが暖かかった。