登場人物紹介(ネタバレあり)
※本作を読んだ人向けです。ネタバレを含みます。
・出雲 楓
本作の主人公。ある意味ではヒロイン。物語開始時点では普通の青年だが、最後には神様になるという出世魚もびっくりの経歴を辿る人。
雰囲気はいわゆる“近所の爽やかなお兄さん”。間違っても筋骨粒々ではない。友人からはたまに「女々しい」とさえ言われるようであり、本人もそのことは気にしている。
作中ではシャツと薄手のカーディガン、それにデニムのジーンズを履いている。お気に入りの服、お気に入りの服装であったらしいが、それらはどれも冒険の中で汚れるか破損するかし、最終的にさよならを告げることとなった。
大学入学と同時に1人暮らしを初めて、二年目の夏。幸せだった彼の日常は、ある日突如としてやってきた妖怪によって壊された。
幼少期に恨みをかっていたせいで、己の命を狙ってくる化け狐。そんな自分を命懸けで守ってくれる、黒羽という名の謎の女性。次第に彼女へ心惹かれていくのも、この状況では当然の流れであったといえよう。
素の性格として超がつくほどのお人好し。そのせいでこれまで、良きも悪きも実に色々なものを招き寄せてしまっているのだが、本人にその自覚はなかった。
ちなみに結構な幸薄タイプ。友人(だと思っていた存在)に裏切られたり、川に落ちたり、挙げ句には拷問をされそうになったりと酷い目に遭っている。
最後には、黒羽を救うために主の座を受け継ぐことを決め、人としての命に20年の幕を降ろした。
なお、神になることが出来なかったルートも存在する。発狂して自分が誰かさえ分からなくなるか、身体が耐えきれずに途中で力尽きるか。どちらにしろ救われない未来である。
・黒羽
本作のヒロイン。1から10まで楓のことしか頭にないイケメン女子。作者の性癖が惜しみ無く詰め込まれている。
180cm近くという女性にしては高めの背と、腰まで伸ばされた長い黒髪が特徴的。可愛いというよりカッコいい感じであり、その顔立ちはキリッと凛々しい。
服装はタンクトップとジーンズ。機動性と、もう1つとある理由につきこの服を選んだそうなのだが、結果としてしなやかな身体のラインを際立たせることになっている。
クルミが好き。自宅(洞窟)の奥にたくさん溜め込んでおり、招き入れた楓に振る舞った。
その正体は烏の妖怪。昔、楓に命を救われ、それ以来ずっと彼を守ってきた。恋の情熱はやがて自らの身体を変化させ、翼と足だけが烏、それ以外は人間という半人半鳥の異形に身をやつしてしまう。
人間の姿になれる術を身につけているので、普段の見た目は普通の女性。タンクトップを着ているのは、腕を翼に戻すとき邪魔になる袖が無いから。
相手との親密度によって呼び方が違う。大好きな楓は「楓」か「汝」、マヤのことは「師匠」と呼ぶ。蛇神はそのまま「蛇神様」。これ以外については基本的に「お前」、怒っているときは「貴様」呼びになる。もともと野生の動物であったからか、名前というものにそれほど大きな意味を感じていない様子。
楓を守るため、熊本や高千穂で狐に何度も戦いを挑む。カラスの俊敏さを生かした一撃離脱の戦法が得意。が、持久戦には弱い。狐との相性が悪いせいで大抵ボコボコにされている。頑張れ。
物語の序盤では、数々の無自覚イケメン振る舞いで、楓をみごと乙女にせしめた。しかし中盤から段々と逆襲される。何とは言わないが押されるのに弱いらしい。
ちなみに、楓が神になれず死ぬなどしていた場合、黒羽は黒羽で木崎から延々と弄ばれ続けるという不幸な未来に突入する。やっぱり救われない。
・宗像 結城
楓の友人……として振る舞っていた狐の妖怪にして、その命を狙う張本人。十年前、楓につけられた傷が原因で死亡した末に、憎しみから妖怪として生まれ変わった。
それなりにガッチリした体格、鮮やかな金髪に陽気な性格と、人間体のときの彼はいわゆる陽の者。情に厚い良い奴……という側面もあるにはあるのだが、楓に対してのそれは8割方演技だった。結城にとって、楓とは自分の幸せな毎日を粉々にしてくれた悪鬼羅刹であり、和解が成立することは未来永劫有り得ない。
緻密な作業や考えは苦手らしく、戦い方も単純な力押しを常とする優勢火力ドクトリン。殴り、切り裂き、噛み砕く。獣らしいやり方ではある。
作中では、本来の狐の姿に戻って楓を襲撃。一度目は黒羽に退けられるも、諦めず追跡を続ける。二人同時に相手をしても押しきれるだけの強さはあったが、一方で楓たちを見くびってもいた。高千穂での戦いでは黒羽を追い詰めたが、機転を利かせた楓に崖から誘い落とされ、水流で妖力を削がれて敗北した。
・木崎 加奈
人間に化けていた二匹目の狐にして、生前は宗像結城の番でもあった存在。ラスボス。悲しみによって妖怪化したあと、同じように妖怪となっていた結城に再会し、彼の復讐をサポートしていた。複数の妖術を身につけており、目眩ましの霧を広範囲に展開したり、手から炎を放ったりと色々なことが出来る。
普段の彼女は慎ましやかな性格で、いわゆる清楚なお姉さん。一方で敵には容赦をせず、必要とあれば拷問まがいのことも普通に行ってくる残虐な一面もある。
本人曰く、楓のことは嫌いだが人間自体は別に、とのこと。小説を読むのが趣味、とも公言しているあたり、無関心というより好意的な感情を持っている様子。そのため物語の中では、無関係の他人を可能な限り巻き込まずに済むような作戦を提案したが、その慎重さが仇となって楓たちに逃げる隙を与えてしまった。
策士だが策に溺れるタイプである。
結城のことを今でも愛しており、想いの深さは彼の願いを受け継ぐことさえ厭わないほど。そのあたり黒羽と立場が似ている。木崎自身も「状況が違えばきっといい友達になれた」と言っているので、もしかするとそんな未来もどこかにあったのかもしれない。
・マヤ
高千穂のヌシをも務める巨大な山犬。その威厳ある佇まい、神々しい純白の毛並みなど、神の称号に相応しい出で立ちをしている。有する霊力の規模も、妖怪組のそれとは文字通り桁が違っており、間違いなく作中最強の存在。ただし現在はとある理由(後述)につき、全盛期と比べて相当に弱っている模様。
神様らしく人望に厚く、山の動物たちからは慕われている。妖怪と化した黒羽を拾い、教え育てたのもこの犬神。当初はとある目論見があったとかなかったとか。
しかしそんなマヤも、生命の理には勝てなかった。先代の猪からヌシの座を次いで500年。瞳は朽ち、病が骨身を蝕んで。既に限界を迎えた肉体を、神としての力で何とか生きながらえさせているような状況。行動範囲も山の中に絞られている。
本人はそのことを定めとして受け入れているが、一方で、自身の若き頃を懐かしむ素振りも見せている。
基本的に放任主義であり、楓や黒羽に対しても何かを強制するようなことはしない。聞かれても自分で選ばせる。ただし乞われれば力を貸したりはするので、何だかんだ言って面倒見が良くなっている。
最終的に、楓へ力を譲渡して息絶えた。…………かと思われたが、二人のこれからを見守っていたいという未練から、何食わぬ顔で妖怪として復活。身体が軽くなったと歓喜乱舞し、陽気なジジイの本性を露わに、ウキウキでどこかへと飛び去って行った。
「意図せず湧いてきた二周目の犬生、謳歌しないでいられるか」とは本人の談。
裏設定として、とある山犬をモデルにしていたりする。
・蛇神様
マヤの古い友神。物語の序盤と終盤にちょこっとだけ登場する。
神々しい見た目に反して口調はフランク、なおかつ中性的。性別不明。年齢はマヤより少し(神様基準)若い。真名は不明。基本的に蛇神と呼ばれる。
作者が書く神格は、よく力を失って没落していたりするが、マヤとこの蛇神はその最たる例である。




