海の中の生き物
海の中の生物を空想するのは非常に難しい。そこをそう克服し、ファンタジー世界に厚みを加えていくのかについて書き記した。
陸上の生態系を空想するのは容易い。何故なら私達は陸上に暮らしており、陸上の生態系に組み込まれている生物を比較的よく目にするからである。その点、水中の生物というのはどうしても想像がしにくい。陸上であれば生態系ピラミッドの最下層の生き物はどこにでもある植物である(分解者の存在は置いておいて)。しかし水中での生態系ピラミッドの最下層の生き物は植物プランクトンである。そしてその上に更に動物プランクトンが存在している。目に見えないものを想像しろと言われることほど難しいものはないだろう。そしてプランクトンより上に行くと小さいものが大きなものを食べるという血で血を洗う(海中ではすぐに血は希釈されるが)弱肉強食の世界が待っているのだ(というイメージが一般的ではあるが、実際に大洋には生物は非常に少なく生態系を構築するほどのものではない)それ故に、生態系の中での相互関係というものを想像しにくいのだ。見えない動物プランクトンを食べる魚はそれより更に大きい魚という大きさ合戦になってしまいがちなのが海中の生物の生態系構築の特徴といえるだろう。また前述した馴染みがないという点でも例をあげておく。例えばネズミをアレンジして空想生態系に組み込むのならば、という問いに対して詰まる人間はいないだろう。電気ネズミや二本足で歩いて喋るネズミ、はたまた歯から火打ち石のように火花を発することができ、焼け残った種だけを食する乾燥地帯のネズミというものも考えられる。一方マグロをアレンジして空想生態系に組み込むのならば、となるとパッと思いつく人はいないだろう。一般に想像される魚の大部分は遊泳生物であり、そのネクトンの大部分は遊泳機能に特化しているイメージがある。それ故に工夫がしにくいのだ。障害物のない大海原では特に想像の余地が狭まる。ポケットモンスターの魚類系モンスターを指すたまごグループの「水中2」を見てもわかるだろう。多くのポケモンというものは何らかの要素+動物かモノとなっているものの、魚類系モンスターがまとめられている水中2のグループに存在するポケモンの要素のほとんどはその魚のみから取られたものとなっている。
さて、ここまでで海中の生態系を作るのがいかに難しいかということがよくわかったと思う。ここで4つの海中の生態系を作る助けになるものをあげておく。
まず1つ目は「環境を特殊にする」である。海中、特に大洋は何もないため想像がしにくくなっている。そこに様々な要素を加えてみる。海中で自然発火する現象があるために海中生物はその高温に適応した形となっている、海が一定期間で干上がるために魚は休眠期間があったり干潟での生活にも適応した形となっている、また強力な天敵を用意し、他の生物がその天敵の脅威からどのように逃れるかということを考えた形となっている生態系。このように海という環境自体をガラッと変えてしまうことで、そこに生息する生物も自ずと特殊なものになってくる。また実際の海も大洋以外は変化に富んだ場所となっているため、様々な場所の海がどのようになっているのかを勉強し、海への従来のイメージを覆してみるのも良いだろう。
2つ目は「魚を捨てる」である。遊泳機能に特化した魚類が多くを占める海中ではあるが、もしもその魚がいなかったらということを考えてみるとよい。実際の地球でも太平洋の真ん中に海鳥やウミガメなどの魚類以外の生物が存在していたりする。魚が進化の過程で生まれなかったとしたら魚以外の生物がどのように海中に進出していったかということを考えると良い。例えば今即興で思いついたのが、全長20cmほどの大きさのイワシという鳥のワシの仲間だ。水中での狩りに特化しており、最長でも1時間は水中での狩りができる。主な獲物は水中のクラゲを食べることに特化した更に水中に特化した鳥の仲間……このように魚が生まれなかった世界というものを考えてみるのも楽しいだろう。
3つ目は「魚に温かい血を通わせる」ということである。魚は冷血で感情がないというイメージが強い(変温動物の全てに存在するイメージだが)。地球にもメスのために巣を作ったり子育てをしたりする魚は存在する。そこからイメージを膨らませて、アリのように社会性を営む魚、オオカミのように序列が存在する群れの肉食魚、簡易な道具をしようする魚などを考えてみると良いだろう。魚は手はないが、同じ手がない鳥類でも道具を使う種が存在することを知っておくと口で道具を使う魚の違和感が払拭されるだろう。同種の魚同士がどのように複雑なコミュニケーションを取るかということを考えながらそれを元に海中の生態系を構築していくとよい。
4つ目は「名前だけアレンジ」である。これは最終手段であるが、魚の図鑑とネットで検索するか、図書館で本を借りてきて名前だけを変化させるというやり方である。上述したように水の中の世界というのは我々人間からは縁遠いものだ。よって人を主体とした生態系構築の場合はあまり考える必要がないということもある。例えばゼルダの伝説BotWにはハイラルバスという魚が存在するが、これはハイラル地方という場所に生息するバスの仲間という以外に現実のバスとの違いはわからない生物である。このように地方名+魚の名前をつけるだけで十分という場合もある。このような場合は料理の仕方や利用のされ方を重点的に記述することで、海と人との関係を描くことができる。白身魚のフライ、ムニエルやソテーなど、どのような食事がされているかということを書くだけでその場所のリアリティを増幅させるだろう。
他の場所については各々の想像力で何とかできると思う。また難しいものが出てきたら書こうと思う。