オフサルマパティオルニス
光の放たれた場所
(一瞬にして光に包み込まれた鬼城は反射的に目を瞑りました。けれども明るすぎた光が瞼を通り越して視界に刺さってきたために、ぼんやり薄明るい白に見えたままです。
瞼の裏で繰り広げられている状態と、その外側で置かれている状況に恐怖を感じ、力強く目を瞑り続けました。)
ぐっ…!なんだ…!?
一瞬にして光が俺を包み込んでそれから…。
怖い。
嫌だ。目を、開けたくない。
(徐々に目を刺す光が弱まり瞼の裏の視界が当たり前に真っ暗になったころ、視界以外の聴覚、嗅覚、触覚に神経を研ぎ澄ませてみました。わかることは異様なほどの無音と無臭、無触覚であることでした。もはや恐怖しか感じなくなっていきました。)
ー「妾を目覚めさせたのは お前か」ー
琳:「…っ! 誰だ! ここはどこなんだ!
一体なんなんだ!!!!」
(エコーがかった、何重にも重なる声がより鬼城の恐怖を掻き立てました。)
ー「問答無用 早くその目を開けぬか」ー
(瞼を開けたその先に声の主がいる、それだけはわかったのです。これから起きる出来事を何パターンも想像しましたがどれもしっくり来ません。予測できない怖さに更に強く目を瞑ろうとしました。)
もう…なんなんだ
胃が痛い…。呼吸すら苦しい。
ー「安心するがよい 話をしたいだけだ」ー
琳:「…っ!!!!?」
(ドスドスと地響きのように響く足音が聞こえ、小刻みに震えながら聴覚一点に集中していると頬にとても柔らかい何かを感じました。
唐突な出来事に思わず目を開けてしまったのです。)
琳:「ふぁっ!!!!?
なんっ、だお前ーっ!!!!」
(視界が開けた途端、目の前には収まりきらないほどの巨大な羽と足が見えました。
即座に鳥だとわかったものの、あまりにも大きいので尻餅をついてしまったのです。)
なんだこいつ、なんだこいつ
俺は何もしていないだろっ…!
喰われるのか俺は
あんなん、この世のものじゃねぇ!
誰か助けてくれ…!
(再び目を強く瞑って全身に力を入れました。
思考は安定しておらず情緒不安定、自分を正当化することしかできませんでした。)
ー「妾はお前を喰ったりなんかしない
助けなど 来ない
早急に話をしたいのだ
目を開けぬか」ー
(その声はとても優しく感じました。
鬼城は意を決して目をゆっくりと開けました。
そこには黄色を基調とし赤やオレンジの暖色で纏った巨大な胴体、軽く見上げると鬼城の持つマギアリトスと同じ様な色や輝きを放つ瞳をもつ神秘的な鳥が目の前に悠々と立ち誇っていました。
しばらく互いに何をするわけでも言うわけでもなく、ただタイミングを見計らっているかのように見合っていました。)
ナ:「…妾はナキという お前は何というか」
琳:「鬼城 琳…」
ナ:「琳か、鉄平の孫にしてそのへなちょこ感は否めぬ 」
琳:「ぐっ…!うるせぇ!
急に光に包まれてよくわかんないとこに来たら怖くもなるわ!」
ナ:「そうか、ヒトとはそういうものか やはり鉄平が特別だったのか」
(胴体に比べたら比較的小型な頭をゆっくりと上下に動かしました。)
そんなにじいちゃんは凄い人だったのか…?
楓も尊敬していそうな感じだったし…。
ナ:「そうだ 鉄平は有能で何より勇敢なー…」
琳:「ちょっ…、と待った!
さっきから、俺の心の声が聞こえてんのか…!?」
ナ:「? あぁ、そうだが」
(当たり前だろう、とでも言うくらい平静なナキに対して意味不明と混乱する鬼城。)
琳:「いやいや、当たり前じゃねぇから!
ちょ、勝手に聞き取らないでもらえる!?」
ナ:「興奮しすぎだ 黙れ
妾とお前は繋がってるんだから聞こえて当たり前だろうが というか聞こえてくるのだから仕方ないだろうが」
琳:「…繋がってる?」
ナ:「お前とてさすがにわかっているだろう
お前の持つマギアリトス、あれが妾だ」
琳:「いや、は?」
ナ:「正確に言えばあの中にずっと居た」
(そう言うと、鬼城の脳内で微かにカチャンと響いた気がしました。)
琳:「じゃあ、あの石の中心が異常に透き通っていたのはお前か…!?」
ナ:「呼び名を慎め 妾はナキだ
まぁ考えは間違ってはいない
あれは妾の魂、長い月日を経て持ち主と魂を交わす
そして然るべきとき、その持ち主と契約を結ぶためにこの世界へ引き込む」
…なるほど、なんて傍迷惑な。
なんて言えない。
ナ:「…聞こえているぞ バカかお前は」
(そういえばそうだった、と焦る鬼城に対し深くため息をついて話を続けました。)
ナ:「持ち主がお前になってから、ずっとお前をここから見ていた
これほどバカだったとは予測を遥かに超えてきたが…」
(うるせぇ!と鬼城が歯向かおうと多少の怒りを向けましたがナキは構わず続けました。)
ナ:「妾にはやはりお前が一番適切だと確信した」
琳:「…っ! は?」
(ナキは重そうな羽を少し上げて鬼城の頬に再び触れました。)
ナ:「お前には鉄平の血が、力が流れている
そして鉄平には無い何かも流れている…
妾の眼に狂いはない」
(そう言う声は確かに力強さを帯びて自信が伝わってくるものでした。)