一体何事
昼休み
(転校生は異様にも女子に囲まれていました。ざっと5〜6人くらいでしょう。鬼城の学校で速攻その人数に囲まれるのは相当なものです。しかし転校生は一貫してその女子とは目を合わせません。いや、合わせられないという方が正確でしょう。
困っている転校生を横目に鬼城は龍二郎やその他大勢との昼食を早々と済ませていました。)
琳:「今日は日差しが強ぇなぁ…」
俺には日課がある。
家宝とも言える、鬼城家に代々受け継がれるもの。
ただの石、だ。
それをじいちゃんから小学生の頃に渡され「陽の強い時間に毎日欠かさず磨け」と言われた。いつもはおちゃらけた面倒くさいじいちゃんが、その時は異常なほど真面目だった。だからこそか、その場面が目に焼き付いている。俺は陽の強い時って大体昼だろうと考えた。
だから昼の12時あたりで毎日ただの石を磨いている。
知らない人から見れば何やってんの…?って感じ。
当たり前だ、ただの石を磨いてんだから。
例えるなら歯の矯正をした人がワイヤー付き器具から取り外し可能な器具に変わり、昼食で毎日パカパカ外しているのを見ているようなもんだろうか。
(リュックに小さめの物を入れる場所、そこに石はあります。もちろん大事なもののため、小さい巾着袋に入れてあるようです。
掛け時計を眺めつつ、おもむろに巾着袋を取り出します。メガネ拭きのような布で石をいつも通り磨く鬼城。)
琳:「…あれ」
違う、 今日はいつもの石と。
反射が、濁っている。
これはおかしいな。石を受け継いでから一度も濁っていたことはなかった、のに。
この石は普段ラタナキリブルーに似ている。
ラタナキリブルーとは蒼く澄んだ輝きを放つ石のことを指す。ダイヤモンドの次に高い屈折率を持っているらしい。俺の持つ石はダイヤモンドカットされていないが綺麗な楕円型で長年の磨きにより光沢がある。
つい最近調べたんだ。
知ってたらなんか、かっこいいでしょ?
しかしながら、特徴的なのは中心部が常に水が入っているように透き通っていること。
そこを含め見るとラタナキリブルーより、いやダイヤモンドより輝いているように感じる。
それなのに、だ。
いくら磨いてもいつもの輝きがないじゃないか。
(少し怖くなり、そしてドキドキした様子の鬼城。
この緊張は焦りだけじゃなかったようです。
これから何が起きるんだろうという期待でもあったようで…)
龍:「琳?どうしたーんだ」
琳:「あぁ、いや…この石がいつもと違うから変だなぁと」
龍:「ほぅ! …あぁたしかに
でもお前、あれだろ ウズウズしてんだろ」
…っく。幼馴染なだけある、見透かされてる。
琳:「そー…」
(だよ、と言おうとしたとき、
手を滑らせ石が手元から離れていきます。)
琳:「…!? やっべ…!」
(今までにない恐怖にも、手遅れと察知した身体は動いてくれません。
その瞬間。
時の流れが一瞬にして遅く感じました。)
なん、だ この感覚は…ー!?
龍:「…い、おい 琳?」
(という呼び声にハッとする鬼城。
いつのまにか奥村が近くにいて石を持っているではありませんか。
異様すぎた一瞬の光景に理解が追いつかない鬼城は目をパチパチと開閉を繰り返します。)
楓:「えぇっと…その、落ちそうだったから拾ったよ」
琳:「…あ? あぁ、うんうん ありがとう えぇとー…」
楓:「奥村楓」
(なんとか聞き取れるほどのウィスパーボイスに耳を傾けながらも未だポカンとしている鬼城。)
琳:「あ、楓ー君? 拾ってくれてありがとう
助かったよ〜…あはは」
一体、どうなってんだ…?皆不思議そうにはしていない、ってことは俺がおかしかったのか…?
(などと状況把握に苦戦しながらも楓を不思議そうに見上げます。当の楓は石と鬼城とを交互に目配せしながら)
楓:「この石ちゃんと見せてもらっていいかな…?」
琳:「え?」
(石を持ったままの奥村は見下した位置で下から目線な口調を使いお願いしてきます。)
どんだけ石マニアなの。
琳:「あ、まぁ いいけど」
(そう言って手のひらを上にして、どうぞの仕草をします。)
楓:「…」
琳:「…」
(まるで審査を受けているかのような緊張感にかられます。耐えられまいと目をシバシバさせて細めます。楓は琳よりもずっと大事そうに持ち、穴が空くほど舐め回しています。)
しっかし、まぁ美形なこと…
近くから見ても毛穴ひとつ見えやしねぇ。石に負けないほど透き通った蒼、絹糸を思わせる白髪…こいつ本当に男か?しかもこんな田舎に帰国子女が何の縁で来たのか…。
なんか、気になるな。
(なんて考えて気を紛らわせているうちに)
楓:「…やっぱりそうだ」
(先程のウィスパーボイスを上回る低音で、しかしながらも今までになく力強く囁きました。その姿を鬼城はずっと不思議そうに見つめています。)
琳:「何、が?どうかした?」
楓:「きみ、鬼城君だよね 放課後ちょっと話したいことがあるんだ」
(顔に似つかない重低ボイスと真剣な眼差しに呆気にとられながらも高速で首を上下移動させました。
石が鬼城の手元に戻ってきたとき、全身を伝う鼓動を感じました。)