日常嫌い
俺は日常が嫌いだ。
いつもと違うところと言えば昨日まで仲よさそうに体を寄せ合っていた猫二匹が今朝は威嚇しあっていたくらいだ。
それ以外は特に変化はない。
いつも通りの時間に起床して見慣れた朝食を食ってなんやかんやしているうちに学校に着いちゃうんだ。
(開いたままの扉からさっと通り抜け
おはよう、と発しようとする前に)
「琳!おはようー」
(それに伴っているかのようにあちらこちらから四文字が聴こえてきます。)
…これもいつも通りだ。
有村千百合。俺の幼馴染で人気者。可愛いと学年内で騒がれてる。性格は一言でyesウーマン。他者に対して肯定的すぎるのが心配になる。
楓:「おう千百合 一体、何の騒ぎだ?」
(という問いに対して千百合は2〜3秒の時を経て)
千:「…あーっと 転校生が来るらしい!帰国子女ってことくらいしかわかってないけど…」
ほぉ、転校生。それは
面白い。
琳:「ふぅん、転校生って一年からやり直しじゃないのな」
(鬼城らは二年生、になったばかりの5月です。クラス替えも軽々しいもので、なにせ鬼城の学校は小さいのです。辛うじてクラス替えができる規模なのですから。
高校といっても中学校までずっと一緒だった人も少なくはなく高校から知り合った人も一年も経ってしまえば幼馴染同然であるそうです。
そんな中、訪れた転校生というイベントは鬼城にとっては大変喜ばしいことです。一体どんなんだろうか、帰国子女っていうのだから女子なんだろうと考えます。男女問わず交友関係が広い鬼城からすれば女子であろうがただ、転校生であることだけで俄然興味が湧いたのです。
日常、平和というふわふわしたシャボン玉を弾き飛ばし救ってくれる、そんな予感がしました。)
「はいはい静かに!!お前ら知ってんだろうがこのクラスに転校生が来る!黙って自己紹介聞いとけよ!」
(担任がドカドカと教室に入り、ざわざわ騒がしい教室を一掃するかのように教卓に何かを打ち付けました。
単純な同級生たちはじわじわと黙っていきます。
クラス全体が息を呑むのがわかるのです。
そして死角で見えなかった転校生の姿がついに顕になりました。)
琳:「えぇ、男子…!?」
(思わず声に出してしまった鬼城です。)
帰国子女とはなんぞ…!
(こう思ったのは鬼城だけじゃないらしく、あんなに息を呑む緊張感すら感じた教室が一瞬でざわめついたのです。
すると、隣の席からけたけたと腹立つ笑い声が聞こえてきました。)
琳:「…龍二郎」
大坂城 龍二郎。モテたいがために視力2.0あるのに伊達メガネを着用しインテリ感を出しているがズバ抜けて頭がいいわけではない。強いて言うなら歴史やニュースなどの情報面には強い。
龍:「なんだぁ、あれか?帰国子女だから女子限定だと思ってたのか!そりゃとんだ勘違いだなぁ!」
…こいつ。
琳「お前、覚えとけよ…?」
龍:「へ?い、いやぁまぁ、落ち着いてくだせぇな あはは…」
琳:「ふん」
全く、後先考えないで言うからだ。
龍二郎は俺に貸しがある。数千円の貸しが。
だから下手には動けないし下手すれば十一にしたっていい。
(その頃の転校生はこの教室の騒がしさに戸惑い一言も発しません。)
そりゃそうだろう。
(と脳内完結を済ませた頃、再び教卓に何かを打ち付ける音が響いてきます。
何も言われなくとも教室全体が静まり返ったのです。担任は転校生の肩をポンっと軽く押しました。)
「…初めまして 奥村楓です
よろしくお願いします」
(白髪で右側の触覚部分だけが少し長い、特徴的な髪型の転校生の恥じらいある淡白な自己紹介とその姿はとてもふわふわと柔らかい雰囲気を醸し出していました。)
…なんだ 残念。
(この一言に尽きたようです。
この時の鬼城は知りません、本当にこの転校生が俺を救ってくれる存在であることを。)