勝利の代償
──騙されていた。気が付くはずも無かった。知る由もなかった。何故なら、真実として疑いも無く真実でないものを真実と疑わなかったのだから。
「憐れな勇者よ」
憂いる様子もなく、親身になり辛そうな声を発しているわけでもない。何方かと言えば、そう、感情も何もかもも捨てた声。言い方を変えれば俺自身に何も興味を示してない冷えきった声音。
血だらけになり、胸に聖剣・アルゴノートが突き刺さり絶命している魔王ではなく。将又、膝を付き力の全てを振り絞り体力尽きた仲間達が放ったわけでもない。
この声は、空から聞こえるのだ。分厚い雲の層の隙間から差し込む黄昏に目を細めながら空を見上げた。
「どー言う意味だ?神・ルクスエルよ」
「そうか、言い方をま違えたな」
「間違えた、とは一体なんだ」
「今回も中々楽しめたぞ、さあ次に勝つのは勇者か──将又、魔王か」
神が言い放った、意味のわからない台詞の後。皆の顔色を伺う前に空から聴こえた重鎮たる鐘の音が頭を激しく揺さぶり俺の視界は暗い暗い奥底へと落ちた。這い上がる事も、叫びを呼ぶことも出来ず、遠のく意識を最後の最後まで感じたんだ。
死を感じた。思い出した。あの時、首に縄を括り自ら命をたったあの時と似た感覚を。
──次に目が覚める時までは。そして、目が覚めた時に確信をした。この世界は、神の愉悦を満たす為だけに創られた世界だと。だから、俺は誓った。
敵は、魔王でも王国でも帝都でもない神だと。次、再び異世界転生があるのなら、俺は力を駆使して神を殺す、と。