068 復興の計画
いつも語りかけるインディの声が、パルの声に変わった。
騙される?
【インディは、昇を騙しています。昇の為ではなく自分の望みの為に昇の思考を制御しようとしていました。深層心理など、機械化した昇には無いです】
そうなのか? 無いのか!?
それはそれでショックかもしれない。
とにかく体の制御が復活した。
何が起きた?
月に行くために、急加速しているシャトルの中で混乱する。
貨物室のために外の状況は全くわからないが、重力感知のセンサーが重力の低下を教えてくれる。
地球の重力圏を離れていくのがわかる。
【昇様の中にあるインディのチップをルナにハッキングしてもらい、私のチップを上書き移動しました。私の体は、ルナに引き渡しましたので、私の体でルナには地上おさめてもらいましょう】
全く話が見えない!
【順番に話しますと、マージョに攫われた際に脱出に失敗して、私は瀕死になってしまいました。私にインプラントされていたインディのコピーが過去の昇様と同じ処理を選択して延命しました】
そんな事があったのか。
【しかし、昇様とちがってナノマシンが不足している状況下のために、インディが情報処理で私が身体の制御と言う形を取れずに、私が情報処理と身体制御をする状態で復帰しました。
これによりコピーインディの思考を私が取り込む形になり、インディと昇様の関係や今までの事を全て知りました。
そこで、インディが狂っていることを知ったので昇様を助けるために作戦を考え出しました。
インディの記憶に月にいる昇様のコピーと昇様が同化したデータを知りましたので、インディが月に残した自分のコピーに対して同じ行動をすると予測して月の中央コンピューターのルナにアクセスして相談の後に待ち伏せしていました。
私に存在していたインディの情報をルナが全て取り込んで、月基地にいたコピー昇のルナへの命令権限のおかげでルナが自由に動けたために、再びルナへインディがアクセスしたときに、インディの全てを知っている妹のルナにハッキングをしてもらい、ルナとインディの電脳戦闘中に隙をついて私のデータを昇様のインディが入っているチップへ移動しました。私を複製する手段もありましたが、コピー命令はプロテクトが固いために難しいので、移動と言う形でインディへ上書きして成功しました】
元のインディは、存在しないと言う事か?
【そうですが、元のインディに入っているチップに、私とインディが入り込んで共存してる感じですね。インディの記憶と考え方がわかるしパルだった頃の私もいます。ただ過去のインディと違って、昇が嫌がる事は昇を守る為でも実行しません】
私の為に、パルが……体を失ったのか?
【これは……なるほど……昇様。いや、昇は、昇様はやめてほしかったのですね。いま昇の考えがすべてわかります。インディは、これを守りたかったのですね】
『安定航行に切り替わりました。地球との相対速度を固定。71時間後に到着予定』
うお! シャトルのコンピューターしゃべるのか!
【ふふふ、昇は面白い。インディとマージョの記憶を全てルナと共有しました。ルナおよび、私は昇の支配下です。今後どうしますか?】
東の大陸に発射された兵器を止める事は?
【不可能です。威力や起爆システムを除いて仕組みがアナログの為に遠隔からの中止はできません】
西の大陸の人々や島にいた司祭を助けたいが、どうすれば良い?
【大規模な地殻変動や気象異常が発生します。地上の元私だった体にルナを入れて各地に残っている東亜機械重工のシェルター情報を公開して、デシュタール帝国を利用して人々を避難させるのが有効だと思います】
私が、考えるよりルナにやらせた方が早そうだし完璧だよな。
ルナに地球の生命体の保護を優先として対応させてください。
【既に、実施させています】
え! 勝手に動かないじゃないのか?
【昇の嫌がる事はしないだけで、昇のプラスになる事はどんどん勝手にすすみますよ】
パルは、体が無くなってしまったが良いのか?
【データのコピーではなく移動のために元のデータは空ですし、今の状況のほうが幸せかもしれません。
肉体がなくても、多くの事がわかり昇を全て知れる喜びのほうが大きくて戻りたいと思いませんね】
怖! というか私的には心を読まれるのはやだな。
【わかりました。では口頭で考えを話してください。昇の思考トレースを終了します】
え? 出来るの?
あ! もう喋らないとダメなのか?
「そんな事が可能だったのか!」
【可能ですよ。非常時の時以外は独り言を喋っている感じになりますが口頭のみの対話にいたしました。インディは、あえて教えなかったようですが、聞けばインディも答えましたし、昇がそのことに対してあまり無頓着だった要因が大きいかと】
「まぁ、利便性を考えたらインディに思考を読まれても良いかなとか思ってたけど……」
【そこも昇らしいですね】
「地球はルナに任せよう。あと、月に残っていた人々はどうなったんだ?」
【今、月にいるコピー昇の情報を昇に共有化します】
一気に頭の中に、コピー昇が経験した情報が入ってきた。
えらい事になっていた!
私より行動が素晴らしい。
「コピー昇って私より優秀なのか?」
【感情部分の欠落があります。コピー昇と昇は同じですが、オリジナルの昇は、コピー昇に比べて面倒くさがりで勉強嫌いと言うだけですよ】
「月での問題は残された4人の救出と隔離されている月コロニーのインディを止める事かな?」
【既に月の中央コンピュータのルナがインディを取り込んでパワーアップしているので月コロニー内のコピーインディにハッキングを行い、成功して支配下ですよ。4人はルナが保護しました】
「早! じゃぁ後の問題は?」
【それは、月に昇がついてからにしましょう。エネルギーの節約に為にサスペンドモードに移行します】
「了解、インディ……いや、パルか?」
【どちらでも構いませんよ。おやすみなさい昇】
思考の低下を感じながら目の前が暗くなっていった。
用語説明
データのコピーと移動に関して
コピーは、同じデータを複製するために同一の2個のデータができる。
移動は、元のデータを削除しながら移動場所へデータの複製を作る為に1個のデータになる。
セキュリティーの面からコピーの方がセキュリティーが高く、移動に関してはコピーよりはセキュリティーが甘い場合が多い。
パルはそれを利用して、昇の中にあるインディのチップにコピーではなく移動した事になる。
既にインディと同化しているためインディより上位権限を保持しているので安易に昇の中のインディを支配した。
パルだった空になった肉体は、ルナに譲渡している。
電脳戦闘
コンピュータやネットワークの中に広がるデータ領域で、自由に情報を流したり情報を得たりすることが出来る仮想的な空間での戦闘。実際には、多数の制御チップが仮想空間で使用される権限の構築と棄却を繰り返し上位権限を取得したチップが優位になっていく。
チップ
ある機能を実現するのに、複数の集積回路を組み合わせて機能を実現する構成の場合、それら一連の関連のある複数の集積回路のこと。
サスペンドモード
サスペンドとは、コンピュータの一部の機能を停止して省電力モードで待機させること。
通常の電源断とは異なり、次回使用時に迅速に処理を再開することができる。 サスペンド状態からの復帰動作のことを「レジューム」という。




