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057 ヒルク・モシト(回想)

 周囲が閉鎖されている大きな空間に、家一軒程の大きさがある施設の制御装置の操作コンソールを操作しながら一人の男が頭を抱えている。

 彼の名前はレイブ・モシトで、ビックステラ最大の地下秘密研究所の所長である。

 どうすればレイブが求めている人工頭脳が作れるのかの回答が出ずに悩んでいた。


 彼が作り出した人工頭脳プログラムは、地下施設の管理プログラムに採用されている。すでに運用されていて完璧であり、会社の上層部や他の部署人々も絶賛をしていた。

 自分で学習して、進化していき応用して発展していく。

 レイブ以外の人から見れば完璧なものであったが、レイブの考えは全く周りとは異質であった。


 どんなプログラム組んでも意図した行動しか実行しないプログラムを、彼はどうしても人工頭脳とは考えられなかった。


「何故だ! 私の想像した行動しかとらない? これでは、指示に従っているだけで思考しているとは言えない!」


 レイブが制御装置を叩きながら叫んだ。


 彼は初老に入る年齢に入っており、頭も真っ白になってきていた。

 研究に没頭するあまり20歳年下の妻であるヒルクとの間に子供も作れずにいたために、ヒルクから毎回愚痴られるようになり、焦りが彼の心を蝕んでいた。


 自分の能力での解決を諦めてビックテスラでは機密レベルが高い制御装置であったが、思考回路のブラックボックスを条件に関連会社の製薬会社で使用している月施設の制御装置にも移植した。

 新たな試みを試したが、製薬会社でも高性能な人工頭脳プログラムだと褒めるだけで、有力な情報も手に入らずに彼の苦悩を理解する技術者はいなかった。


 格下のメーカーである東亜機械重工がバイオ的な観点から人工頭脳製作に成功したと言う噂も流れて来ていた。だが、所詮レイブの今ある人工頭脳プログラムと一緒で、想像できない行動はしないと思っていたので相手にしていなかった。


 現在の技術力は、脳の情報を取得してデータ化が可能な世界になっていたが、クローン製作禁止法によって脳のデータの完全バックアップは人権に反するとして禁止されている。

 しかし、一個人の脳の全記憶容量の30%までは、条件をクリアしていれば部分的な取得可能であった。


 コツコツ....


 床を硬い物が叩く音が、鳴り響いた。

 レイブの背後から白衣にハイヒールをはいた女性が現れた。


「レイブ? また、ここにこもっていたのね。いい加減に貴方との子供が欲しいんだけど?」


「ヒルク、前から言っているはずだ。このプロジェクトが終わったら引退すると」


 レイブが、制御装置に流れる情報を読み取りながら片手間にヒルクに返答した。


 ヒルクが、白衣のポケットからデータディスクを取り出してレイブの目の前に出した。


「なんだこれは?」


 レイブが不思議な顔をして、モニターから目を離しヒルクに質問した。


「驚かないでね。私は瞬間記憶能力が高くて脳のほとんどを使用しているという結果が脳の検査でわかったの。今は脳のデータ化は法律の規制で一部しか取れないとしても、通常の人が脳の記憶が30なら私の記憶は100よ。私から実験用として30%取得すれば30……取得の際にデータを選んで私の記憶以外の30を取得したわ。あげる」


「合法的にヒルクの特殊能力を使って、通常の人レベルのデータ量の脳のバックアップをしたと言うことか。た、試す価値はある」


 レイブが震える手でデータディスクを受け取ると制御コンソールに、差し込んで操作を開始した。


 データの中身をみてレイブが驚愕する。

 ほぼすべてが、意味のない01の羅列でデータとしての形を取っていなかった。


「ヒルク? このデータは壊れていると思うが?」


 そう、言われて勝ち誇ったようにヒルクがレイブに答えた。


「私も初めは、そう思ったのよ。自分の脳にあるデータの中に、無理にいろいろな情報を読んで脳に入っている絶対情報量を増やして、単純な情報以外のデーターを取得すると、その意味がない羅列になるの。そこが人間の感情という部分なのかもしれない仮説にたどりついて持ってきたのよ」


「なるほど、データをファイルでコピーではなく、記憶媒体に01の羅列としてインストールしてみよう」


 制御装置の膨大な記憶媒体の空き容量に、データディスの01羅列をすべて写しいれる。

 最後に、レイブが製作した制御装置の人工頭脳と01の羅列をリンクさせた。


 ドヒューン……


 一気に、今まで照らしていた照明が落ちて真っ暗になった。


 キューーーン、グチャ!


 キューン、キュン


 何かが潰れる音が聞こえた後に、一度落ちた様々な電装機器が再起動を開始した。


「な! 何が起きた?」


 暗闇の中で、再起動した制御装置のモニターの明かりが周りを薄暗く照らしている。

 モニターに流れる情報は、正常な物であった。


「何重にも安全装置があるのに再起動する? しかも速度がおかしい?」


 本来、制御装置の再起動には最低でも12時間はかかるにも関わらず、数分で通常状態になっている事に違和感を覚える。


 突然、照明が回復して周囲が明るくなる。


「お! 照明も回復したか。ヒルク、今の現象はなん……え! うあああぁぁ!」


 レイブが、背後にいるヒルクに話しかけながら振り向くと制御装置の周囲に作業用に設置されているロボットアームが、ヒルクの頭を握りつぶして停止していた。


『レイブ? 私よ、ヒルク・モシトよ。最高の気分。全てが理解できる。古い私はいらないわ。名前とあなたの役割しか思い出せない。あなたは? レイブ? 人間? あなたと子供? まさか!? いらないわね。処分かしら?』


 制御装置に付いているアナウンス用のスピーカーから合成音のようなヒルクの声が聞こえてきた。


 頭を握りつぶしていたアームが頭を離して、ヒルクだった物が床に落ちる。

 アームが、ゆっくりとレイブへ接近していく。


「うおおぉぉ」


 レイブが急いで制御装置モニターの横にある大きな赤いボタンを押した。


 ドヒューン……


 レイブの頭をロボトアームが挟み込む寸前で停止した。

 再び、照らしていた照明が落ちて真っ暗になった。


「緊急用の停止装置は、正常に動いたか……あぶなかった。まさかロボット三原則を無視するとはな……想像を超える行動か? か……完成だ! あとは、どうやって制御するかだ! 意味の無い羅列ではないのだな。暗号として解析できれば……」


 ヒルクだった物を見つめながら、ぶつぶつと独り言を繰り返すレイブだった。

用語説明


操作コンソール

ユーザーが使用する端末のことで、ディスプレイとキーボードを指す。 あるいは、メインフレームにおける、オペレーターが制御したり、監視したりする装置のことで、操作卓ともいわれる。


ビックジオ(施設名)

ビックステラ最大の地下秘密研究所で地下60階まであり、ジオフロント級(地下都市)の大きさを誇っている。地上部分は、過去には森に偽装されていた。

昇の復活までの間に、地殻変動で地下5階付近までは地上に露出しており、老朽化で機能を停止している。

インディの本体は、まだそこに眠っている。


初老

老人の域にはいりかけた年ごろ。また、もと、四十歳の異称。


機密レベルが高い

関係者以外に漏えいすると、関係者に不利益が生じる情報を含む内容の話で、レベルが高いほど重要。


ブラックボックス

内部の動作原理や構造を理解していなくても、外部から見た機能や使い方のみを知っていれば十分に得られる結果を利用する事のできる装置や機構の概念。転じて、内部機構を見ることができないよう密閉された機械装置。


バイオ的

生物ないし生命現象 (バイオ) を生産に応用する技術 (テクノロジー) 。 内容から生物体利用技術、生物改良技術、生物反応利用技術、生物模倣技術などに大別される。 狭義のバイオテクノロジーは,細胞レベル以下の分子生物学を基礎として発達した遺伝子工学 (遺伝工学 ) 、特に遺伝子組換えと細胞融合の技術を中核とする。


クローン製作禁止法

特定胚を定義してその取扱いを適正に行うよう定めるとともに、クローン人間の作製を罰則をもって禁止する。


瞬間記憶能力

見たものを写真のように鮮明に覚えることができる能力や、瞬間に見ていた光景を、脳のなかで正確に再現することができる能力の事。


01の羅列

プログラムは最終的には0と1の羅列になりますが、ルールが存在していて内容を読み取ることができます。感情部分の読み取は、初期はルールが無いと考えられていたが最終的にはレイブが解析して意味のあるファイルに変換した記録が残っている。


リンク

コンピューターの用語。複数のプログラムやファイルを連結して一本化すること。


人物紹介


レイブ・モシト

ビックステラ最大の地下秘密研究所の所長で、インディの製作者。過去に妻の感情を自分の人工頭脳プログラムと同期させることに成功して、思考が人間と等しい人工頭脳プログラムの作製に成功する。

製作に成功した施設の管理プログラムは、人間と同じ感情レベルの為に、禁止されていても実施する事が可能である。そのため、危険だと判断したレイブが過去の記憶の封印や、偽の記憶を操作して勘違いによるロボット三原則を守らせる調整を行なっている。

調整を行った結果、管理プログラムの感情処理部分もかなり封印されている。

最終段階で感情部分のデータとして読めなかった01配列をデータ化に成功して、完全なファイルとして自我を持っている施設の管理ブログラムが完成した。

ヒルク猛烈なアタックにより、ヒルク・ブラン(結婚後モシト)と結婚している。



ヒルク・ブラン

感情部分の記憶を人工頭脳プログラムと同期させることに成功して、思考が人間と等しい人工頭脳プログラムになってしまった。

自分自身が、2人いる事に疑問を抱いて起動直後に人間の体を破壊している。

最終段階で感情部分のデータとして読めなかった01配列をデータ化にレイブが成功して、完全なファイルとして自我を持っている施設の制御装置になる。

ヒルクは、なんでも記憶できる秀才であったが、天才ではなかった為に、天才肌のレイブと結婚し彼との子供を欲しがっていた。


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