056 パルとインディ
パルが、インディの意識で空を眺めて地面に横たわっていた。
パラシュートでの着地に失敗したために生身の部分のダメージが大きすぎて身動きできない状況である。
パルの代わりに体を制御しているインディは、体に存在する使用可能なナノマシンを利用して衛星との通信回線を開た。
早急に衛星からノボルの中のオリジナルのインディへルクとチエミの状態を伝えた。
通信を終えてから、パルの体を調べる。
「ナノマシンを侵食させて、生体細胞との同化を進めていたが、脳のダメージが大きい……」
着地の衝撃でパルの脳が揺さぶられてかなりのダメージを負っていた。
思わず、インディが口走るほど深刻であった。
パルの足に制御用にコピーされたインディは、最小限の構成のために記憶容量にゆとりがなく、極端に一番データが大きかった感情処理のデーターを入れていないために、機械的に即断した。
『ノボルに過去に行った事をしなくては、パルが消えてしまう』
しかし、パルの記憶を移すべき容量がなく、ナノマシンで記憶できるチップを製作しながらでも時間がかかるために脳死していくパルの脳から情報を吸い出す事が間に合わない。
自分のデータに上書きするしか方法がないが、私はコピーだから消えても復活可能であると言う判断の元、情報取得が可能な脳細胞から記憶されたデータを取得して自分の制御チップに上書きしていく。
足りなくなる容量分の記憶媒体を同時にナノマシンで構築していく。
パルの脳が時間と共に死滅していくが、かなりの記憶がインディに上書きされていき保存された。
全ての処理が終わると、再びパルが目を開けた。
「すでに、生体にこだわる必要はないな」
パルがつぶやくと、腰より下が皮膚の様な外見からメタリックな状態となり、上半身、首、顔と侵食するようにメタリックな表面になっていく。
ナノマシンが、生体だったパルの有機質部位を侵食して食べていく。
全身がメタリックな人型にパルが変身すると、メタリックのままで、何事もなかったように立ち上がる。
「脳が死んだいま。脳に送る血液もいらない。内臓もいらないな。これがインディの記憶か……」
もとパルだった意識体が、インディを取り込んで昇とインディのすべてを知った。
残ったインディの意識が最後にパルの意識の中でつぶやいた。
【これが、進化という事なのでしょうか……】
インディの過去の記憶を知ったパルは、複雑な表情をした。
「インディは、奴隷の私より酷い待遇があったのだな。インディを放置すると昇様が危ない。助けに行かなくてはいけない。まずは合流か?」
周りを見渡して、衛星とリンクしながら昇のいる方向へ走り出した。
用語説明
侵食
他の領域を徐々におかし、食い込むこと。
生体細胞
全ての生物が持つ、微小な部屋状の下部構造のこと。生物体の構造上・機能上の基本単位。そして同時にそれ自体を生命体と言う。
記憶媒体
データの記録に用いられる媒体。
メタリック
金属的であるさま。金属的な光沢があるさま。金属でできているさま。
人物紹介
パル(インディ同化版)
ルクの陰謀により、高所から落下した際に瀕死の怪我をした。
制御用のインディコピーチップが命を救う為に、過去に昇に実行した脳の記憶の全てをデータ化した存在。
データを移す容量が不足していた為に、一部インディのコピーデータに対して上書きをしたためにインディの記憶とパルの記憶が存在しているが、自我に関するデータ量はパルが上回っていたために、パルにインディが取り込まれた自我になる。
元はナノマシンを人型に形成している昇と違って、生体細胞をナノマシンで取り込んだ形のためにハイブリット的なサイボーグの存在であったが、インディとの同化と同時に昇と同じロボット(アンドロイド)に昇華した。