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055 マージョ

「マージョ様、最後の鍵が揃いました。後はルナを処分して受け入れ準備を進めましょう」


 ムーンクレスト教の司祭服を着た男が、目の前の大きなバイオコンピュータの塊に話しかける。


 ここは、東亜機械重工の秘密基地で最大の基地であるオンタリオ島の中枢部に位置する大きな空間である。


 大きなコンピュータのような物体の上に直径5mを超える水槽が3個あり、それぞれに人間の脳のような外見の大きな物体が培養液に浸かって存在していた。

 脳には、多くの針のような電極が刺さっていて、時折スパークの様な青い光を発光していた。


「やっと、これで血清が完成するのだな。バドム司祭よ、東の大陸の状態はどうなっている?」


 水槽の側のスピーカーから、人間味があるマージョと言われるバイオコンピュータの声が聞こえてくる。


「各司祭が、ゲリラ的な戦いを行なって、戦力増強は抑えていますが数日後には、また進行が始まると思います」


「西の大陸は、ルナのおかげで統制が取れているが、東の大陸は忌々しいゼロオクが活動していて、もはや奪還は不可能なのか?」


「最後に派遣した司祭100名の集団が、4個の拠点の一つを破壊するかもしれません」


『暗号緊急通信が、開きました接続しますか?』


 二人の会話に割り込んで電子音のナレーターの声が空間に響き渡る。


 空間の壁にプロジェクターの様な画像が浮かび上がり複雑な暗号が表示される。

 目が何処に付いているかわからないがマージョが暗号を読み解く。


「は!? ルナが? ノボルとは何者だ? 生き残りの人類? ありえない……バドム司祭は、ロメロ司祭に継続して監視するように伝えてくれ」


 マージョが驚いた声をあげる。


 暗号の内容は、ロメロ司祭が昇と出会ってから、ルナが昇の支配下に入った所までの内容が書かれていた。


「昇という人物が最後の鍵を奪いに、こちらに向かってくるのだが処理は終わったのか?」


「既に血抜きは終わって時間の問題で血清が出来上がります。素体は死亡しています」


「……復活は、可能か?」


「脳死からかなりの時間が経過していますが、記憶障害レベル3程度で可能かと思います」


「万が一を考えて破棄しないで復活させておけ」


「わかりました。マージョ様」


 バドム司祭が、一礼するとマージョから去って行った。


「ゼロオク以外に戦時の遺産が残っていたのか? 月面のルナを従える上位権限だと。ルナはアンベンの役員クラス権限でなければ従わない筈だが? 情報を検索してもノボルのキワードに当てはまる存在が無い……範囲を広げてみるか?」


 水槽が大きくスパークする。


「ビッグテスラの民間の購買履歴にあった! 西暦3000年?

 ビッグテスラの最大の施設は未だに発見出来ていない。ビッグテスラの遺産か? まあ、良い。利用出来れば利用するし出来なければ消し去るだけだな」


 突然、空間の照明が全て消えて薄暗い水槽に浮いている脳味噌だけが刺さっている電極のスパークで薄暗く見える静かな空間になる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 東の大陸で戦闘が行われている。

 一面焼け野原の場所で、岩山が多数存在している。

 岩山の陰に2人のムーンクレスト教の司祭服を着た20歳ほどの男女がいた。


 岩山の向こうには人型のロボットが、数千体ほど接近してきておりM60に似ている汎用機関銃を隠れている岩山へ向けて発砲している。


「もはや武器がない。残りの武装は?」


「体内に埋め込んでいるレーザーエッジだけですね」


 弾切れになった、ハンドガンを捨ててビヨン司祭が、ウルイ司祭へ答えた。


「私の能力は、足の移動速度と身体の防御力に特化している。奴らのど真ん中で自爆するから、その間に生産拠点へ侵入してくれ」


 ウルイが背中に背負っているリュックから長さ50cmほどのやっと手で握れるほどの太さの円柱を取り出して、付いている安全装置を外した。


「これでお別れだね。お兄ちゃん」


「最後にそんな事を言われたら、決意が鈍るなぁ」


「東の大陸攻略の100人いた司祭も私達だけになってしまった。先に行った司祭達によろしく言ってね」


「わかったよ、ビヨン」


 苦笑いしながら背負っているリュックをウルイがビヨンに渡した。


「リュックには、あと2本入っている。施設まであと距離は10km無いはずだ頼んだぞ」


「了解……」


 ビヨンがウルイの頭をつかんでキスをした。

 少しして、2人が顔を離して同時に叫ぶ。


「「人類の未来のために!」」


 ウルイが、岩山の影から出てロボットの集団に走り出した。M60に似ている兵器の実弾が飛んでくるが、気にせずに数千対のロボットへ突っ込んでいく。


 多くの弾が身体に被弾していく。自分の身体が修復不能なほど破壊されていくのを感じながら、右手に握った円柱の起爆スイッチが押せなくなるギリギリまでロボットに接近する。

 右足が、ちぎれて飛んだ際に体が180度回転して背後が見えた。

 遥か彼方に岩山の影からこちらを覗いているビヨンが見えた。

 表情は遠すぎて見えないはずだが、泣いているようにウルイには見えた。


「最後に好きな人の顔を見ながら死ぬとはね」


 少しにやけて、円柱のスイッチを押した。


 ガチ!シューーーン!……


 円柱付近の空間が歪んだように感じると同時に円柱を中心に半径2km程の音が消えた瞬間に、大爆発した。


 ビヨンがウルイが持っていた円柱がわずかに光った瞬間に岩山の陰に身を潜めた。

 間をおいて激しい衝撃波が襲う。


 ゴゴゴゴ!!


 岩山も一回り小さくなる程の衝撃が響きわたる。

 ウイルがいた場所の上空にキノコ雲が舞い上がっていた。


 再びビヨンが、岩山の影から顔を出すと、ウルイが居た場所には、大きなクレーターができていて、迫ってきていたロボットは、消えていた。


「ふぅ……私が攻略組の最後の一人になるとはね。あとはマージョ様が解決してくれるかしら?」


 ビューン!


 ビヨンが、両手を振ると左右の手から光る剣状の形が形成された。


「施設に入れれば、どうにかなりそうね」


 独り言を言うと、岩山から飛び出して敵の施設へ走りだした。

用語説明


オンタリオ島

東亜機械重工の秘密基地で最大の規模を誇る島である。

バイオ研究所の施設が入っており、保存されている遺伝子で多くの司祭が生産されている。

月へのシャトルだけではなく、火星移民団への支援物資を輸送するロケットを定期的に発射している。制御装置として人工頭脳のマージョが使用されている。


西の大陸

オンタリオ島の南東に位置する大陸。デシュタール帝国がある場所。


東の大陸

オンタリオ島の北東に位置する大陸。戦争の遺産が多く残っている大陸。

西の大陸と違って上空に多くの静止軍事衛星と地上に対空装置が生き残っていて、無差別に地上20mを超える物体を攻撃してくる為に、空からの攻撃が不可能である。

機械的なファジー回路の生産装置ゼロオクが規則にしたがって活動していて、人間を抹殺する兵器を制御する人間が存在しないために無制限に生産している。戦力が一定値をこえると西の大陸へ進行を開始する。


ゼロオク

東の大陸に残っている戦争の遺産で自動生産装置。

自己修復と自己生産機能があり、無制限に兵器を生産して行く。現在は、東の大陸に4箇所存在しているが放置すると拠点が増えていく。5個を超えると西の大陸へ攻めてくる。

マージョの天敵で、東の大陸兵器が西の大陸に攻めて来ないように定期的に拠点を破壊しているが、全ての拠点を破壊する事には成功していない。


脳味噌

中枢神経のうち脊髄(せ きずい)を除いた部分。頭蓋骨(ずがいこつ)の中にあり、大脳・間脳・中脳・小脳・後脳・ 延髄に分けられる。


脳死

ヒトの脳幹を含めた脳すべての機能が不可逆的に 回復不可能な段階まで低下して回復不能と認められた状態のことである。


記憶障害

自分の体験した出来事や過去についての記憶が抜け落ちてしまう障害。


M60

使用弾薬 7.62mmの多用途機関銃である。

発射速度が550発/分で発射速度が遅い。そのため、慣れれば単発射撃も可能。


長さ50cmほどのやっと手で握れるほどの太さの円柱

超小型の水爆である。円柱の上下にある小型の原爆の爆発を利用して中心にある水素をヘリウムに変換させて水素からヘリウムに変わった際に減少する質量を爆発エネルーギーとする小型太陽製造機。水爆の放射能は少ないが水爆させるために原爆を使用するため、核融合の爆弾であるが核分裂爆弾と同程度の放射能が発生する。

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