047 新たな勢力
ベグ司祭とロメロ司祭とグティ司祭。
そして、私とキラスとレベロが地上へ向かっている。
来た時とは違う10人乗りレベルの大型エレベーターに案内されて入り込む。
内装は懐かしく感じるほど私が入院した時期のエレベーター似ていた。
今までが夢だったんじゃないかと一瞬思うが、振り向くと司祭服の3人と中世から飛び出して来たような騎士と少女漫画の主人公のようなキラスが見つめてくる。
自分自身は、特撮のヒーロー悪役のような黒騎士である。
エレベーターの操作パネルには、一番最下層がB50と表示されていて乗り込んだ際はB40である。
まだ下があるんだな。
上の階はB1までしかないので地下一階迄のエレベーターのようだ。
浮遊感を伴いながらエレベーターが減速してB1へ到着する。
扉が開くと、城の中の中庭だと思われる花が咲き乱れる庭園に出た。
一階分掘り下げてあるようで、階段を登ると地上の高さになるようだ。
エレベーターを出て庭園の広場へ向かいながら質問する。
「ベグ司祭、私達は自由に動いて良いという事なのか?」
「チエミを素直に引き渡す迄は自由だが、チエミを引き渡さない、もしくは引き渡した後は排除すると聞いています」
ベグ司祭が、淡々と答えるが目と鼻などがない為に表情が読めない。
「チエミは! いつ、どこで、どうやって来るんだ?」
ルナにそっくりな外見の司祭服を着ているグティ司祭が質問してくる。
少しは、情報を提示するべきか?
「今装着している鎧には、通信システムが搭載されている。チエミと連絡を取って、ここへ呼ぶから待つんだ」
「ほう、通信機? ノボルには何かのバックアップがあるのか? まさかマージョではないだろうな?」
マージョ? そういえばロメロ司祭が魔女と言っていた時もあったな?
「マージョとは?」
「知らぬのか? まぁノボルは、ここから出すつもりもないし排除する予定だから話しても問題ないな。ベグ司祭とロメロ司祭にお願いだが、第四王子とメロウ・ミミテルをどこかに軟禁しておいてくれ。第四王子のキラスは、第一王子との契約もあるから殺せないからな。メロウは、ミミテル国の残党の処理に役に立つだろう」
排除予定は、私だけって事か? それにしても私は簡単に排除できる判断をしているのがルナの頭の固さだろう。それか、なにか絶対的な自信の隠し玉でもあるのか?
【隠し玉があっても、月コロニーと通信ができればルナを制御できると思うので大丈夫だと思われます】
まぁ、そうだよね。
「グティ司祭、二人はベグ司祭に送らせて私は残りますよ。ノボルと言う排除対象は私が引き込んだ責任もありますし、私の目がおかしな判定をしていますのでグティ司祭だけでは危険です」
ロメロ司祭の目が赤く光っている。
ベグ司祭が耳の強化で、ロメロ司祭が目の強化なのかな?
「ほう? どんなおかしな判定だ?」
「初めて会った際の体温が36度付近であったのにもかかわらず、今装着している鎧が気温とほぼ同じです。鎧を着て動けば上昇するはずが、まったく上昇していません。鎧に何か仕組みがありそうです」
初めて会った際は、体の表面を偽装するナノマシーンがあったからなぁ
疑われて当然か? ロメロの目は、温度を見ることもできるのか。
「興味深いな、わかったベグ司祭、二人を連れて行ってくれ」
「わかりました」
ベグ司祭が二人を連れていく。
キラスが、逆らおうとしたが、レベロが小声でキラスに何かつぶやくと納得した顔をしてベグ司祭に従って移動を始めた。
レベロは薄笑いを浮かべて手を振った。インディから視覚にメッセージを送っているから安心して行くのだろう。キラスも同じ場所に軟禁されれば連絡可能だな。
インディはレベロになんてメッセージを送ったんだろう?
【昇の戦闘力は53万です。司祭は1万もありませんと送りました】
それ……冗談? それほど戦闘力に差があるはずがない。
【な、なにを言っているんですか! 正確な計算の判断ですよ……】
インディが大げさな冗談を言うようになるとは……そういわれれば、レベロとキラスなら信じそうだな。
反論してこないところをみると、やはり大げさに伝えたんだな。
「さて、二人が消えた。マージョに関してだったな。マージョは、東亜機械重工の最大の基地の制御に使用されている人工頭脳だ。
東亜機械重工と提携していた製薬会社アンベンの権限では、東亜機械重工の中規模以下の基地しか制御する権限がなく、月面基地からではこの基地を支配するにとどまっている。
バイオハザードの際に、最終命令になにを指令されたかわからないのだが、マージョは自分が存在する東亜機械重工で最大の基地の防衛を固めて、他の基地との通信を遮断して一切の連絡が取れない状態になっている。
何度かデシュタール帝国軍を使用して進軍したが、ありえない軍事力を保持していて侵入はできなかった。
あきらめて、私が独自に地球を元の姿に戻すための計画を実施していると、まれに妨害してくるようになった。妨害する条件は不明だが、そこでノボルを疑ったわけだ」
ほう、マージョと言う人工頭脳もいまだに活動しているという事か。
「妨害?」
「今の世界では存在しない兵器による攻撃だな。いまのところわかっているのは生贄の対象を我らが回収する前に奪い去ることだ。兵器を撃退して調べると遠隔操作されていただけで、人がいなかったためにいまだに謎につつまれている」
ほう……マージョも調べる必要性があるな。
【昇、大変です。装甲車がさらわれました】
え?
【地上へ出てから装甲車と通信できないので不思議におもったのですが、パルの義足に入れてある私の分身から連絡がありました。脱出する際のダメージが酷くまだ動けないようです。脱出できなかったルクとチエミは、何者かのヘリコプターに装甲車ごと川底から引き抜かれて、海上へ運ばれています。衛星から上空写真でログを確認すると、沖合100km付近をさらに大陸外へ飛行中です。現在は強力なジャミングによって通信不能です】
まずいな、ルナとは関係ない勢力っぽいな。これはマージョなのか?
「ルナ、マージョの場所は何処なんだ?」
私がグティ司祭に、質問するとあからさまに不快な表情をして回答した。
「私は、ルナ様ではない。ルナ様は、月とオンラインで操作されている本体だが、私は自己判断するルナ様のコピーに過ぎない。マージョは、海にある島全体が東亜機械重工の基地になっている施設に存在している」
ルナとグティ司祭は、別の思考形態なんだな。
マージョの場所が島と言う事はチエミは、マージョにさらわれたという事か?
【ほぼすべての情報を照合しても、その確率が非常に高いです】
助けに行くにも、ルナを制御下に置かなければ無理だな。
インディ、月コロニーへのアクセスを頼む。私はグティ司祭から時間をもらう。
【わかりました。軍事衛星経由でアクセスを開始します】
「グティ司祭、間違えてすまなかった。チエミと連絡するのに時間がほしい」
「謝るのか? 面白い反応だ。勉強になるな。どの程度の時間がほしいのだ? あまりにも長期であれば時間稼ぎとみなしてノボルを排除してから再度チエミの捜査を開始する」
先ほどと正反対で満面の笑みでグティ司祭が答えた。
インディと同じで、感情を勉強中の様だな。
「逆に質問なのだが、どのぐらいなら待てるんだ?」
「12時間が限度だな」
え! 短い!
「なぜ12時間なんだ?」
「私が活動できる時間があと12時間だからだ。12時間後には別の司祭へお前を渡さねばならない。なるべく私の時に問題を解決したい」
【私達と違って、発電衛星による電波充電ではないようです。所詮、東亜機械重工製品と言うべきですかね】
あ、インディが毒を吐いてる!
「わかりました。ではお待ちください」
私がそういうと、私を見つめたままロメロ司祭とグティ司祭が動かなくなった。
グティ司祭は、わかるんだがロメロ司祭もサイボーグかなにかなのか? ピクリとも動かない。
私も人のことは言えないがな。
少しも動かない3人が、庭園に棒立ちしている異様な光景で、インディを利用して私の脳内で月との交信が始まった。
用語説明
エレベーター表記に関して
「B」の意味
「B」は、「Basement」の略です。
Basementには、"地下、地下室"という意味があります。
B1が地下1階、B2が地下2階です。
「F」の意味
「F」は、「Floor」の略です。
Floorには、"階"という意味があります。
1Fが1階、2Fが2階です。
「R」の意味
「R」は、「Roof」の略です。
Roofには、"屋上"という意味があります。
バックアップ
不時の事故・危険に備えて、二重に守り支援する態勢(を整えること)。後ろだて。
隠し玉
交渉などで、重要な場面に備えて隠しておく切り札。
戦闘力は53万
昇の記憶に存在する、某漫画の最強の敵が語った戦闘力。
昇の記憶を覗いてインディーが冗談を言ったと思っているが実は....
マージョ
東亜機械重工が開発した人工頭脳で、東亜機械重工の秘密基地で最大の基地であるオンタリオ島に存在する。島の制御装置として活動している。
ルナやインディと違う発想から開発されている為に、バイオチップを利用しており柔軟性に富んだ思考をするがバイオチップの為に熱暴走に弱いため演算能力は低い。
最後に人間に命令された内容を現在も継続している。
ログ
コンピュータの利用状況やデータ通信など履歴や情報の記録を取る事、またその記録を指す。操作やデータの送受信が行われた日時と、行われた操作の内容や送受信されたデータの中身などが記録される。
オンライン
コンピューターがネットワークやほかのコンピューターと接続している状態。
サイボーグ
人工臓器などの人工物を身体に埋め込むなど、身体の機能を電子機器をはじめとした人工物に代替させた人物。