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046 捕縛

 王都へ向かって、川底をルクとチエミとパルが装甲車に乗って向かっている。


 装甲車の車内は、キャンピングカーのような内装に日々改造されていた。


「今までで一番快適に過ごせる。この狭さで何故か落ち着く」


 生活感が出てきた車内でチエミが、簡易ベットでゴロゴロしながら呟く。


「ノボルの体の中に居て、守られている気がしますね」


 それを聞いたルクが、運転席のモニターに映し出されているノボルの視界情報を見ながら答えた。


 そんな二人を見ながら台所で、食事を作っているパルが微笑んでいる。

 あれから、パルの脚は少し細く金属のような色であったが、時間経過でナノマシンが生産されていき偽装できるまでになったので、普通の人と区別がつかないような自然な足になっていた。


「大変! ノボルからの通信が途絶えそう」


 ルクが叫んだ。


 起き上がったチエミと料理を中断してパルが急いで、モニターが見える場所へ移動する。

 昇が検査を受けていた後に地下へ向かうノボルの視界が映っていて、通信障害で画面が乱れて消えた。


『地下施設に入った為に通信できなくなりました。施設の回線に衛星からの通信を使用してハッキングをしましたが物理的に回線が切られたようです』


 装甲車のコンピュータにいるインディのコピーが、装甲車のスピーカを使用して会話を始める。


「支援攻撃でしょうか?」


 前回のミサイル攻撃を王都へ実行しようとルクが提案する。


『ミサイル設置場所から王都までの距離が射程外の為、実行できません』


 物騒な提案は、射程の問題で棄却された。


「あとどれぐらいで到着するのですか?」


 チエミが、質問する。


『川幅が大きくなり直線的になったので、予想よりも早く到着する予定です。川底を走るコースで42時間ほどだと予測できますが、新しく陸路に王都までの道を発見しましたので、その道を使用する場合は13時間前後で到着します』


「陸路よ! 早くノボルの所に行かなきゃ」


 ルクが、おいてあった剣をつかんで構える。


『電波障害で画像の送受信はできませんでしたが、昇からはゆっくり来るように最後に指定を受けました』


「ノボル様は強いので私たちが行ったら足手まといになるのでは?」


 パルが口を出すと、ルクが激怒する。


「奴隷のくせに、口をはさむな!」


「その奴隷にお世話してもらってるわけだが? 私もパルと同じ意見だな。ノボルがルナ様と話をつけてくれるまで、王都には入らない方が良いと思うから川底を走るコースでよいと思う」


 チエミが、ルクをかばう発言をする。


「わかりました。ノボルの提案と言うことで納得します」


「前から思っていたが、ルクはパルに酷く当たるような気がするが何故だ?」


「……奴隷に対しては、普通ですよ? チエミも酷い扱いをしている気がしますが?」


「あれは、教育であってルクの場合と違う」


 ルクとチエミが険悪な雰囲気になる。


「あ、あの私は構わないのですので」


 パルがうろたえながら二人に言う。

 ルクの中で何かが切れた。なぜ頭にくるかわからないが持っていた剣の柄でパルの頭を殴りつける。


「奴隷の癖に話に入ってくるじゃない」


 頭から血を流してパルが倒れる。


「おい! ルク! おかしいぞ! インディどうにかしてくれ」


 チエミが困惑する。


『昇のアクシデントでルクの精神状態が不安定になっています。落ち着く事を推奨します。パルの怪我は軽微の脳震盪ですので大丈夫です。二人とも保護対象の為に私は介入出来ません』


 インディの無慈悲な機械的な返答が帰ってくるだけだった。


 ガコン!!


 突然、装甲車が激しく揺れる。その後に3人に浮遊感が襲ってくる。


「何事?」


「な、なんだ」


「……」


『何者かが装甲車を捕縛したようです。装甲車がリフティングマグネットの磁力で持ち上げられました』


 川の上に大型のヘリコプターCH-47 チヌークがホバリングしており、その下に付けられたで電磁石を利用した大型のリフティングマグネットで装甲車が川底から上空へ釣り上げられていた。


「何事?」


 運転席のハッチからチエミとルクが顔を出した。


「空!?」


「釣り上げられているの?」


 顔を出した、ハッチの横に丸い大きな電磁石が装甲車とくっ付いていて、それを上空のヘリコプターがワイヤーで釣っていた。

 そこに電磁石を発動させる通電ワイヤコードが見える。


『そこの電気コードを切断すれば磁力がなくなって落下します。今落下した場合は全員墜落死しますので推奨しません。現在、強力なジャミングがかかっています。昇との通信が不可能になりました』


「この高さは、無理ね。ジャミングって?」


 ルクが下を見ると既に高度300m付近で川が細く見える。


『ジャミングは、わかりやすく言えば通信遮断ですね』


「今の状態をノボルに伝えられないって事ね?」


『そうなります』


 チエミの質問にインディがわかりやすく答える。


「向かっている方向は?」


『目的地と場所が外れていて、海岸への最短距離で飛行しています。装甲車の武装などは全て外してしまっていますので反撃出来ません。このまま行くしかありません』


 チエミの質問にインディが回答する。


「中で対策を練りましょう」


 ルクが言うとハッチから首を引っ込めてチエミと一緒に車内に戻る。


 ルクが何か閃いたような顔をする。

 脳震盪から復帰して頭を振っているパルに作戦を伝える。


「パルは、ノボルから足をもらったのでしょう? この高さから落ちても大丈夫なのでは?」


『この高さからだとパルが8秒で地表に時速300km付近の速度で着地します。義足の性能をフルに使用して時速80km付近が緩衝限界の為に生身部分が耐えれません』


「使えない奴隷ね!」


 ルクが、パルを蹴り飛ばす。


「ルク。パルに対して、やはり何かあるのか? パルも何か言ってやれ」


 チエミがルクの態度に怒る。


「構いません。大丈夫です」


 パルが平気なアピールをチエミにする。


『計算できましたが、簡易ベットのシーツをパラシュートの形に作成して落下すれば、地表到達まで速度70kmほどまで減速可能です。今から言う手順でチエミの裁縫能力で作成してください』


 装甲車のモニターに車内にある道具で作成可能な簡易パラシュートの設計図が表示される。


「チエミ、急いでこれを作成してください。パルは、これを使って脱出してノボルに連絡を頼みます」


 ルクが計画を話す。


「現状はそれしかないかな? パル、頼んだよ」


「わかりました。ルク様、チエミ様」


 チエミの依頼に力強くパルが答えた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 チエミが作成した簡易パラシュートが出来た。


『かなり優秀な出来栄えです』


「あ、ありがとう」


 チエミがインディの言葉にわずかに照れる。


『性能的には地表と時速70kmで着地する物ですが、十分安全圏内です』


 簡易ベットのシーツを強固に固定した、布製のパラシュートだが小さくて4点のロープ引きの為に、降下の減速は正規品と比べて遥かに劣るものであった。


 運転席の上のハッチからパルが身体を乗り出して、ルクがパルの体にパラシュートを取り付ける。

 誰にも気がつかれぬように、固定する腰紐に切れ目を入れた。


「では、行ってきます」


 パルが、装甲車から飛び出した。

 振り向いたパルに対して、ルクが微笑む。


「やっと、処分できたな」


 パルは、かけられた言葉の意味がわからなかった。

 自由落下がはじまり、パラシュートが開き降下速度が減少していく。

 想像以上に下から吹き込む風が強かったために、時速50km付近迄減速した。


 順調に降下していたが、あと地表まで100m付近でパラシュートを体に固定していた腰紐が切れた。


「え!?」


【パル聞こえますか】


「ええ!」


 突然、頭に響いた声の驚く事とパラシュートから体が外れてしまった事で混乱する。


【時間がかかりましたが、足のナノマシンとパルの脳を繋ぐシステムを急いで構築しました。パラシュートが強度不足で分解しました。このまま落下した場合は、時速100km以上で地表に着地しますので、足を最大限に変形させて緩衝します。足の制御用のチップでパルの身体を制御してバランスを取りたいのですが許可できますか?】


「ええ! 許可します! 助けてください!」


 迫り来る地表と加速を体に感じてパルが混乱しながら答えた。

 その瞬間、パルの意識がなくなり、パルに話さないで血流を通してパルを侵食していたインディが意識を持つ。


「かなり、ギリギリですね」


 足を最大まで細くして、バネの様に螺旋を描かせる。

 両足がスプリングの様な形になる。


 変形したと同時に着地した。計算された上半身の体重移動でバランスを取り、バネ状の螺旋の足が、隙間がなくなり素の足のようになった瞬間に、膝を折ってお尻をついて手で受け身をとって背中で着地して、全身を利用して着地する事によって着地の衝撃を分散する。

 三点着地の様な感じではなく、体全体を使用した寝そべった形の着地となった。

 上半身に、インディがパルに説明せずにナノマシンを侵食させて、生体細胞との同化を進めていた為に助かったが、本来ならば死んでいた衝撃であった。


「昇の最終命令が、パルを救う為と、昇のサポートの為に私の自己判断でパルを改造しておいて助かったわね」


 思わずインディが独り言を言う。


 地面に横になってダメージ回復を待ちながら、一部が鋭利な刃物で切られていて、そこから裂けている腰帯を見て溜息をついた。


「はぁ……保護対象同士の殺人未遂……」


 今まで感じたことがない判定を迫られて、インディが慣れないパルの身体で複雑な顔の表情をする。

用語説明


電波障害

自然現象や人工雑音・妨害電波などによって 正常な無線通信が妨害されること。また、通信電波によって電子機器に誤動作などが 起きること。


脳震盪

頭部に外力が加わった結果生じる、一過性の意識障害、記憶障害をいいます。


リフティングマグネット

強力な電磁石により磁性のあるものを吸い付ける。


CH-47 チヌーク

全体が大きな箱型の貨物室になっていて、胴体上部の前後に並べた3枚のローターブレード回転翼を配置している大型輸送ヘリコプター。機体下部にある貨物フックにスリングロープなどを接続することで、車両などを吊り下げて空輸することもできます。


電磁石

磁性材料の芯のまわりに、コイルを巻き 、通電することによって一時的に磁力を発生させる磁石である。電流を止めると磁力は失われる。


ジャミング

レーダーや通信のための電波を、電波 によって妨害すること。また、妨害電波。


パラシュート

傘のような形状で空気の力を受けて速度を制御する もの。


三点着地

両足と片手の三点で接地する着地法のこと。



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