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041 ヘリポート

 キラスをお姫様抱っこをして、移動している。


 ヘリポートがある町までは平地でなだらかな道のりだが、全力で走ると転んだ際にキラスが大怪我する可能性があるので少し抑えて疾走する。さらに振動を抑えて走っている為に、移動速度はかなり低下していた。


 6時間で到着する予定だったが、8時間ぐらいはかかりそうだ。

 女性と二人っきりで8時間は、初体験である。

 無言の時間が永遠に感じてきた。


「凄いな、ノボルは! 鎧を着たままで、この速度で動いてなぜ疲れない?」


 ここは、自分をアピールするべきなのかな?


「そ、そうかな?」


「ルナ様も疲れている所を見たことがない。ルナ様には剣術を何度か指南してもらった時があったが、無駄のない動きである為だと思っていたが、ノボルを見ているとルナ様が数時間指導しても息一つ乱していなかったのは、別の理由がありそうだな」


「そ、そうなのかな?」


 駄目だ。上手く会話が継続できない。


 話を聞いていると、疲れずに息も乱れないのであれば、ルナも私と同じ機械っぽいな。

 謎は、ルナに会えれば全てわかると思うが、敵対する場合も考えなくてはいけないのかな?


【昇は、アホですね。敵対なんてありえません。昇の民間コード番号は、軍人ではないので敵対国でも攻撃対象に指定不可能ですよ】


 ん? それは、おかしくないか? サイボーグの際に作業用ロボットに攻撃された気がするぞ?


【単純作業用ロボットに対して最終命令を出した人間がいた場合は、ロボット三原則外ですからあたりまえです。ルナが高度な人工頭脳の場合は、その行動はロボット三原則に含まれるため不可能です。話を聞く限りルナは高性能な人工頭脳だと予測されます】


 もしも敵対したらどうする?


【……鼻からスパゲティを食べてあげますよ】


 待って、それって同じ体にいるから私がやるって事では?


【昇のくせに気がつきましたね】


 インディが、冗談まで言うようになったのか?


「話しかけて、不快だったか?」


 無言でインディとやりとりしていたので、勘違いしてキラスが聞いてきた。


「大丈夫だ。少し考え事をしていた。気になったのだが何故男の真似をしているのだ?」


 思わず話題が無いので聞いてしまった。


「教えなくても気がつくとは、ルナ様の眷属は凄いのだな。知っているのは父上と兄上達だけだったのだがな。ルナ様も謁見してすぐに気づかれて聞かれたよ。幼少期に剣術の才能があるのがわかって、才能を眠らるには惜しいと父上が考えた時から男性として生きている。まぁ私より強い奴は、ルナ様だけだったがノボルが現れて2人目だな」


「私が強い?」


「初めて見た際に3人を一刀両断にした瞬間で悟ったぞ。すぐにルナ様から借り受けている兵器を持って対応したが、無駄であったな」


 あまり実感が無いが、剣術や棒術から多くの無手の技はインストール済みなので、玄人が見ても私の動きが素晴らしいようだ。

 努力せずに身につけた技術は、無意識下で出ているらしく本人としては凄い違和感である。


「私の存在がルナ様の眷属で片ずけられてると思うのですが、ルナ様の眷属って何ですか?」


 もう一つの疑問を聞いてみる。


「デシュタール帝国およびムーンクレスト教では、ルナ様の眷属らしき人物を見つけた物は、ルナ様に謁見するように伝える事になっている。過去に数人現れている。全て特殊な能力を持つ者達だった。ルナ様に謁見した後に必ずムーンクレスト教の司祭になっている。私が直接会ったのは、一人だったが拳銃を持っていないのに手から弾丸を発射していた」


 うお! ルナ以外にもルナの様な存在がいるのか!

 私が出会ったロメロ司祭は、普通の人間に見えたが何か特技でもあるのであろうか?


「私の見立てでは、ノボルはルナ様の眷属に見えるから案内している。ルナ様に渡された兵器が効かない場合は、眷族だと教えられている。聞いて良いのかわからぬがノボルは何者なのだ?」


 難問の質問である。どう答えて良いか悩むところだ。


「ま、魔法騎士かな!?」


「……お伽話だな……黒鎧の中身が見たくなってきたよ」


 そのまま、キラスが眠ってしまった。

 進軍で疲れていたのかな?


【昇の運搬が悪くて振動で酔ってる事と、精神的なダメージが大きいと思いますよ。強がっていますが目の前で大量破壊兵器を目撃して、かなりのショックを受けるはずですし、昇に一旦は敵対したなら、死を覚悟する程の緊張は凄いものだったのでしょう】


 インディの的確な推測通りだろうな。

 もう少し振動を押さえて、走る事に集中した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 思ったより時間がかかっている。9時間ほど経過したが到着していない。周りがすっかり真っ暗である。

 外灯もなど一切ないために、星が良く見え、月の明かりが周囲を照らしていた。

 暗視性能がある私にとっては昼間とまったく変わらないが、僅かに周囲の物の色が褪せてみえるかな。

 町が見えてきた。キラスを起こさねばならないな。


「キラス、起きろ」


「ん、は! 私は寝ていたのか?」


「ぐっすり寝ていたぞ」


「不思議なものだな、こんなに安心して寝たのは初めてかもしれない」


「え? 寝心地悪かっただろう?」


「いや、まるで天国に行くような気持ちよさであった!」


 それって気絶って言うんじゃないか?

 キラスが私の首に腕を巻きつけて力を込めてくる。


「ほら! ついたぞ!」


 町の入り口の横にヘリポートが設営されていて、かなりの大きさである。

 4か所の駐機場の一つに、ヘリコプターが一機駐機していた。


【ユーロコプターEC155タイプのヘリコプターですね。操作方法を昇にインストールします】


 いや、いらない! デュタール帝国のパイロットに操縦してもらう!

 頭がパンクするイメージと、勉強せずに知識に入ってくる違和感が耐えられないので断ったが遅かった。

 ああ、操作方法がわかるよ……


【昇は、アホですね。この時代の人に操縦させたら怖くて乗りたくないですね】


 もっともな回答だったがアホ扱いが確定している。次はどんな暴言で攻めてくるのだろう?


 ヘリポートの周囲を警戒している10人の衛兵が、こちらに来るのが分かる。


「お前たち! 何者だ!」


「ヘリコプターを見たな!」


「ここは、立ち入り禁止だぞ」


 既に臨戦態勢である。どうやら目撃することも禁止されているのかもしれない。


「どこの騎士団の者だ! 私は第四王子のキラス・デシュタールだ。緊急の用件で王都に戻ることになった。ヘリコプターを借用するぞ」


 抱きかかえていたキラスを降ろすと、今までなかった威厳ある態度で兵を一喝した。


 不審げに衛兵がキラスの顔を見たが、見覚えがある顔に気が付いて、すぐに焦った表情になって返答する。


「し、失礼しました! 我らは、第三王子直属の真紅の騎士団であります」


「兄上の騎士団か? まだ兄上は侵略したエテロ王国にいたはずだが?」


「その通りでございます。侵略中にルク・エテロ王女の捕獲に向かったヘリヴィ様が、死亡している事が判明しました。犯人と思われるルク・エテロ王女を探索したところ、怪しい集団を発見して捕縛しましたが、拷問してもなにも吐かないので、一番怪しいと思われる男を王都の拷問施設へ搬送するためにヘリコプターを用意したところです。男をヘリコプターに積み込んで王都へ向かうところでした」


「は! あの気持ち悪い弟が死んだのか? 逆に殺した奴に褒美を渡したいな。ちょうど良い、私たちも王都へ行くのだ、乗せてもらうぞ」


「キラス様だけならかまいませんが、その黒騎士は何者ですか?」


 少し考えてから、キラスが答えた。


「……ルナ様の眷属だ」


 一瞬、驚いた顔をしたが、呆れたような表情になる。


「キラス様の顔は存じておりますが、脅されている可能性も捨てられません。我らは第三王子直属の真紅の騎士ですので、ヘルレ様のご命令以外で身元不明な黒騎士風情をルナ様にお借りしているヘリコプターに乗せる事はできません。キラス様のご命令でも、そこの黒騎士が眷属などに到底見えませんのでお断ります」


「なんだと! 兄上に言ってお前らなど処分してもらうぞ!」


「この件に関しては、脅しは効きませんよ。我らも判断を間違えればすぐに処分されてしまう案件ですから、例外は認められません」


 ヒュンヒュンヒュン!


 ヘリコプターのエンジンが始動してプロペラが回りだした。どうやら離陸するようだ。


【昇の体内にある通信装置により、ヘリコプターのオートパイロットシステムと接続が成功しました。制御します】


 バヒューン……


 ヘリコプターのエンジンが停止する。

 インディは、凄いな。


「話に割り込んですまないが、ヘリコプターの制御をもらったので許可をしてくれなければヘリコプターは飛ばないよ」


「なに? 黒騎士風情が、何をいって……うぁ!」


 反論した兵士の喉をキラスがレイピアのような武器を抜いて串刺しにした。


「ゴミの分際で、許せぬな。私よりヘルレ兄様をとったのだろう? 後悔して死ね」


 うぁぁ! 穏やかに収めたかったのに! この王子様の価値観が鬼畜かもしれん。


【昇の危機感がなさすぎますね。このままだと貴方は確保されますよ。キラスの判断が最良ですね】


 残った9人へキラスが突撃する。


「キラス様が乱心したぞ!」


「王都にいるはずのキラス様が、ここに居るわけがない! 偽者だ殺してしまえ」


「取り押さえろ」


「あの黒騎士に操られてるのかもしれない!」


 5人がキラスの方へ向かって行き、4人ほど私に向かって剣を構えて襲ってきた。

 温和な対応は、あきらめるしか無いようだ……

 剣で何回か斬られているが、無視して装甲に散っている黒剣を構成するナノマシンを右手に集めて、青いスパークを出しながら剣を出現させる。


「なんだ、この鎧は! 剣が通らない」


「なんだと!」


「剣が現れたぞ」


「ルナ様の眷属なのか?」


 右手に光りながら出現する黒剣をみて4人の兵士が驚く。


 ビューーン!ビューーン!ビューーン!ビューーン!


 高速で4回だけ剣を振る。

 剣で防御できた兵もいたが、剣ごと上半身と下半身が分かれる。


 キラスを見ると5人に襲われていたが、天才的な技量で即座に2人を倒して、3人に囲まれて対峙していた。


 私が無造作に近寄る。


 ビューーン!ビューーン!ビューーン!

 高速で3回剣を振る。

 3人の兵が、全く対応できずに上半身と下半身が分かれる。


「無拍子なのか? 凄まじいな。予備動作がない攻撃故に最速で読むことができない武術の最終段階じゃないか!」


 ただ異常に速い攻撃なだけなのだが、キラスが勘違いしてキラキラした目で私を見つめる。


【昇……アホですね。無拍子ですよ。昇の場合は、重量が重いので通常の人が必要な溜めがない状態で、重い剣を繰り出せます。溜めずに動けば予備動作が無いので天然の無拍子になります】


 意識していないが、私は強かったのか!


【……人間で言う、頭が痛いと言う感情を取得しました……解析中】


 酷い言われようだな。


 ヘリコプターからパイロットらしき人物が出てきた。


「わ、私は運転要員なので戦闘はしない! 殺さないでくれ!」


 両手を挙げて万歳している。


 ギャア!


 キラスが、心臓を串刺しにした。


「何故!?」


「何を言っている? 目撃者を残すと後々面倒だろう? いなければなんとでもなる。行くぞノボル」


【昇はキラスを見習って学習してください。時代ボケと言う表現でしょうか? この世界で道徳を説いていたら生き残れませんよ】


 私が平和ボケしてるって事かな?

 ヘリコプターに乗り込んだが、キラスが悩んでいる。


「しまった! 誰が操縦するんだ!」


 この子、馬鹿だ! 何故か親近感が湧いてきた。


「キラス、オートパイロットと言う機能が使えるので無人で王都へ動かす事が可能だ」


「おお! さすがルナ様の眷属だな! 私が見込んだ男だけあるな!」


 さらにキラスにリスペクトされて行く。

 エンジンが始動して、ヘリコプターが王都へ向かって出発した。


「うぅぅ」


 ヘリコプターの貨物室からうめき声が聞こえた。

用語説明


ユーロコプターEC155

汎用的なヘリコプターである。尾部ローターにフェネストロンが用いられているが、主ローターは、複合材製の5翅である。ターボシャフトエンジン2基を機体上部に搭載する。エンジンは、FADECによりコンピュター制御され、緊急時には出力向上がなされる。除氷装置も装着することができ、寒冷地での運用にも対応している。コックピットはグラスコックピットとなっている。乗員は1ないし2名で運行し、最大13名を搭載できる。


民間コード番号

人類が西暦3012年に細菌兵器のバイオハザードで滅んだ時まで運用されていた世界共通の個人識別コード。

各国に結ばれた協定では、軍事コード番号の人間以外の攻撃は全て禁止されていた。

昇は、民間コード番号が付与されており民間人扱いである。


玄人

技芸などその道に熟達した職業人・専門家。


大量破壊兵器

人間を大量に殺傷すること、または人工構造物に対して多大な破壊をもたらすことが可能な兵器のことを指す。


パイロット

航空機に乗り込んで、これを操縦する人。無人航空機を操縦する人は、パイロットではなくオペレーター。


真紅の騎士

デシュタール帝国の第三王子ヘルレ・デシュタールの直属の騎士団で帝国内で一番規模が大きく50万人が所属する。主に侵略部隊として運用されていて外見は白い鎧を纏っているが、容赦ない侵略を行なうために流血の真紅の騎士団と言われるようになった。ヘルレに絶対の忠誠を誓っており規律はしっかりしているが、人命に関するモラルが大変低い。


オートパイロットシステム

乗り物を自動で操縦する装置・システムがオートパイロットである。 乗り物の進行方向や速度などを、人の手に代わって、機械が制御する。 オートパイロットと呼ばれるシステムは旅客機を始めとした航空機に特によく導入されている他、船舶や自動車にも導入されている。


無拍子

予備動作なしのこと。 打ち込みや、突きにかかわらず、いずれの動作も、気配なく唐突に動く感じにすると、相手は不意をつかれたようで、戸惑う。


時代ボケ

時代錯誤の類語である。その時代にそぐわないこと。時間の進行から見て前にも後にも双方向のズレに対して時代錯誤と呼べるが、特に「時代遅れ」の意味に使用されがちで、既に過去のものとなった文化を持ち出そうとする姿勢を指すことが多い。


平和ボケ

主に戦争や平和、安全保障などの現実について無関心、または現実逃避し甘い幻想に入り浸っていること。 またはそれを揶揄した言葉。


リスペクト

「敬意を表す」という意味になります。 違う言葉で言うと、「尊敬の気持ちを表す」ということです。

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