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038 全滅

 50mほど離れた場所から、アヴェンジャーと言われる兵器が私に向かって火を噴いた。

 30mmの大きさの弾が毎分3900発で超高速で飛んでくる。


 これは、まずいと思った瞬間に世界が、静止した...

 私の手前10m付近で飛来している弾が止まって見える。

 いや、ゆっくりと私に近づいているようだ。

 止まったのではなくて、時間がゆっくりになったようだ。


【身体的危機を感じて、昇の思考を司るチップの処理速度がクロップアップしています。

 時間がゆっくりになったわけではなく、昇の思考が1000倍以上の引き上げられています。

 オーバークロックの為に発熱量が高いので、現在の最大クロックでは30秒しか昇を司るチップが熱に耐えられないので注意してください】


 お、それは便利。1秒が1000倍以上で1000秒に感じるって事は、16分以上に感じるってことだな。


 身体を動かして飛んでくる弾の軸線から移動しようとするが、体が全く動かない。

 いや、かすかにゆっくりと動いてはいる。


【昇は、馬鹿ですね。思考しか速くならないですよ。昇の身体は通常の人よりは速く動けますが、この距離で飛んできている弾を全て避けるほど速くは動けません】


 どうするの?


【体全体は、間に合わなくても腰や手の関節をすべて使えば被弾するまでにマントを翻す事は可能です。マントを硬化して被弾を斜めにずらして弾く形で防御すれば容易に防げます】


 言われた通りにマントを翻すが、動きがスローでゆっくり過ぎてイライラしてくる。

 マントを硬化して自分の前に持ってきて弾を弾く予定が間に合わず、弾が翻す動作中の私にヒットする。


 身体に弾が当たって、ゆっくりと身体の装甲より柔らかい為か、弾が潰れて変形していく。

 押される感覚と強化装甲が僅かに変形する感覚がある。


 7発は被弾したがそれ以降は、全面に展開した斜めに硬化したマントに弾が当たり弾かれて左後方へ飛んでいく。

 危機を脱したとの判断か、時の流れが速くなる。

 いや、速くなったわけではなく普通に戻っただけか。


「ぎゃああ」


「うぱああ」


「ひいぃぃ」


 左後方にいた兵士達が、跳弾に巻き込まれて肉片になっていく。


【7発被弾しましたが、弾丸成分を取り込みます】


 僅かに変形した装甲の一部が液化して変形して、装甲にめり込んでる弾を食べるように取り込むと元の外装へ戻る。

 生き物みたいで少し気持ち悪い。


【昇は、アホですね?】


 えええ!? 馬鹿からアホ!?


【無知なら馬鹿ですが、知っていてそう思うならアホですよ! 気持ち悪いって自分の体の一部ですよ! 何か私が気持ち悪いと否定されたようで怒りの……あ、これが怒り!? ヒステリック? ……データ分析中】


 インディが自己完結してしまった。最近はこのパターンが多くなってきたかな?


 3分ほど弾が飛んできていたが、弾切れかガドリング砲が焼き付いたかで掃射が止まった。


 煙があちこちから出ているが、私の目では急いで弾を再び装填している兵士たちが赤外線カメラで見える。

 倒したと思って、馬にまたがったまま近寄ってくるメトルと言われた兵と第四王子のキラスが見えた。

 煙中でマントを軟化させて、立ち上がった。


 煙が晴れていき、はじめとなんら変わらず立っている私を見て二人が驚く。


「な、なぜ無傷なのだ!」


「ば、馬鹿な! 確かに当たったのは見ている!」


「気が済んだなら、撤退しませんか?」


 交渉を再開してみた。


【昇、それもう無理ですよ】


 え? どういう事?


【先程、クロック数を上げ昇の思考速度が上がった際に、装甲車の私のコピーが危険を察知して支援でミサイルをこちらに発射しました】


 ハァ?


【ここまでの地形が複雑ではなかったので低空で直線的に飛来中。予定より早く、残り数分で到達するかと思います。クラスター爆弾が搭載されていますので、広範囲で爆発する予定です。ちょうどデシュタール軍は進軍中のため直線的に5万の兵が並んでいるので攻撃範囲内で殲滅出来ます。安全を考えて2発発射していますから確実に全滅します】


「わかった。今ので倒せないと言うのは、見慣れぬ鎧や有り得ない行動からみて、ルナ様の関係者なのか?場合によっては撤退も考えよう」


「キラス様、こんな下賤な黒騎士など話す必要はございません。なにかのトリックです。貴様! 何故、今の攻撃を回避出来たんだ!」


 キラスとメトルが何かを言っているが、もはや無駄な交渉になってしまった。


 インディ、キラスぐらいは助けれる?


【さらって範囲外に逃げれば、可能かもしれませんが助けるメリットは?】


 ん? 気分!?


【……わかりました。昇の意思を尊重します。移動モードに変更します。行動速度が上昇しますが防御力は50%以上低下します】


 なんか、インディが素直で気持ちわるい。なにかあるのか?


 鎧の身体中の多くの継ぎ目が、一気に少しだけ開いて一回り鎧が大きくなって気がする。

 持っていた剣は、青いスパークを出しながら鎧に溶け込んだ。


 剣が消えたと同時に、一気にキラスのそばに駆け寄る。

 キラスがレイピアのような武器を抜いて私を刺そうとするが、余裕で躱す。


「私の突きを避けるだと!」


 そのまま、接近して力尽くで馬に乗っていたキラスをお姫様抱っこして攫う。


「離せ!」


 キラスがあがらうけど、人間の力じゃ無理だろう?

 キラスが男なので不思議な気分を味わう。


【現在、攻撃範囲の左前方にいるにで進行方向を左に向かって急いで走ってください。着弾まで時間がありません】


 メトルが、馬で追ってきた。


「貴様! キラス様を何処に連れて行くつもりだっ……」


 馬より速い私の走破で、後方に離れて行く。


 私に抱かれながらキラスが抜け出すのを諦めて、質問してくる。


「本当に、お前は何者なのだ? この状態では私は確実に殺せたのに殺さなかったと言う事だろう?」


「交渉するはずだったんですが……アクシデントがあってすみません」


「すみません!? ははははぁぁ! 立場が上のものが言う言葉では無いな。どう言う事だ?」


【着弾までに、範囲を抜け出すのがギリギリですね】


 遠くから2本の物体が飛来するのが見えてきた。

 一本が、空中分解して、小さなものをデシュタール軍に満遍なく振りまいた。

 私の方向にも飛んでくる。


 うおおおおぞぞ! 気合いを入れても速度が上がらない。

 ロボットに精神論は効かないよな?


【非常事態なので、昇の精神論を採用します。脚部の破損を無視して出力を20%あげます】


 え! 通用するのかよ!


 脚部から煙が出てくるが、加速した。


【安全範囲に到達しました】


 バババババ!


 多くの打ち上げ花火が爆発するような音がして後方が火花と爆発の煙に包まれて行く。

 振り向くと、デシュタール軍が持ってきた兵器の火薬の爆発なのか、何箇所でミサイル攻撃とは別の大爆発をしていた。


 これは、攻撃範囲内の人は助からないだろう。

 さすが、クラスター爆弾だな。インディからもらった知識だと本来は広い滑走路などを使用不可能にする狙いの兵器である。

 それを対人に使ったら酷い結果を生むのは当然かな。

【非人道的な兵器として生産が中止されているはずですが、再度生産されていたことを考えると当時の戦争はかなり末期だったのでしょう】


 煙の中から血だらけの馬にまたがったメトルが現れた。

 片腕がなく、瀕死である。

 馬もかろうじて生きている感じだ。

 馬が倒れて、メトルが落下する。


「キラス様!!!」


 メトルから、なにか違う執念のような物を感じた。


 叫んだ時に、2本目の物体が空中分解して、再びばら撒かれた小さな物体がメトルの目の前に転がってくる。


 バババババ!


 再び多くの打ち上げ花火のような爆発音が鳴り響き視界が煙に塞がれる。

用語説明


弾の軸線

発射された場所と着弾予定の場所を結ぶ線であり、発射された弾丸は軸線を沿って着弾点へ飛んでいく。


被弾

銃砲撃で弾丸を受けること。


跳弾

弾丸が、はねて再び若干の距離を進むもの。


オーバークロック

機器の動作クロックの周波数を定格の最高を上回る周波数にすること。消費電力や発熱の増加、信頼性・安定性の低下のリスクがあるが、それでもより高い処理能力を得るために行われる。


アホ

日本語で愚かであることを指摘する罵倒語。


ヒステリック

病的な興奮を見せるさま。


装填

中に詰め込んで準備すること。特に、銃砲に弾丸をこめること。


レイピア

細身で先端の鋭く尖った刺突用の片手剣。


お姫様抱っこ

ヒトを抱き上げる方法の一種。人を横にして抱き上げる。 なお、このような人の持ち上げ方の日本語における正式名称は「横抱き」であり、この呼称は主に俗語として使用される。


クラスター爆弾

容器が空中で開き、中にある多数の小型爆弾が広い範囲に飛び散って、著しい被害を与える爆弾。


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