036 アリと人間
インディ? 作戦とかないんですか?
【昇は、目の前のアリを倒すのに作戦が必要ですか?】
目の前には、剣を構えたデシュタール帝国の歩兵がいて、その背後には5万を超える兵が待ち受けている。
インディ、その例えおかしくないか? アリでも軍隊アリが5万匹もいたら人間でも負けちゃうんじゃ?
【昇にしては良い例えですね。確かに負ける可能性がありますけど、昇は一つ見落としてますよ】
え?
【昇は、馬鹿ですね】
あ!! 「馬鹿ですか?」から「馬鹿です」に変えてきやがった! 肯定だと!
【アリと人間ではなく、アリと人間の強さを持ったアリですよ。大きさが違います。今の昇に対して一斉に襲える人数は頑張っても数人ですから、数匹のアリをずっと倒せば良いだけですので、負ける要素はないですね】
ど、毒とかもあるじゃないか!
【昇? ロボットに毒が?】
くそう! インディのクセに生意気だ!!
と負け惜しみしかできない。
「包囲殲滅を開始しろ!!」
兵の奥から、号令が聞こえると同時に、剣を構えた兵が襲ってきた。
【戦闘モードを起動します。外装の強度を上昇させます。これにより外装動作の速度が35%減少】
黒いフルプレートの継ぎ目が僅かに幅を狭めて、顔を覆っているフェイスガードの目の部分が赤く光りだす。
キン! カン!
直立不動のまま、攻撃を受けるが火花が散るだけでダメージは受けない。
「なんだ、こいつ?」
「剣が、刃こぼれしたぞ」
「……手が痺れた」
「何してんだ! お前たち」
インディ、そういえば剣というか刀みたいな物も外装と一緒に創成してなかったっけ?
【黒い剣ですね。外装に溶け込ませてありますので取り出しますよ。左手を前に出して剣を握るイメージをしてください。しまう時は、剣が体に溶けるイメージでしまえます】
なんだそりゃ! とにかくやって見るか。
言われた通りに行動すると、目の前に突き出した手に青いスパークを発生させながら外装から一気に動いて集まった剣を構成するナノマシンが本来の形に戻って行く。
右手に刃渡り1.5m程の日本刀のようなしなりが付いた刃も柄も黒い剣が握られていた。
剣で斬りつけていた、3人の兵が左手に青いスパークを纏って現れた剣を見て驚いた顔をして攻撃を止めた。
【昇は、まだ誰も殺さないでこの場を納めようと思ってますか?】
無理かな?
【可能ですが、その場合は村人が高確率で全滅すると予想されます】
しかたがないが最小限の犠牲で対応してみよう。
マントを翻して、右手の剣を伸ばしてその場で一回転する。
自分を中心に半径2m範囲にいた3人の兵士の上半身と下半身が別れた。
インディ? 全く手応えがないのだが剣はどうなってるんだ?
【創成の時に、単分子チェーンソーにするか高周波ブレードにするか悩みましたが、高周波ブレードを採用しました。刃先が高周波の振動によって対象物に入り込むので切れない物が存在しません。全て斬れてしまうので、防御で使用はできませんので攻撃は全て回避してください。剣で攻撃を受けると相手の剣が切断されて、刃先が飛んできます】
斬れすぎて鍔迫り合いは、出来ないって事ね。
そのまま剣を構えている兵士の集団に入り込んで、斬りまくる。
一方的な虐殺である。
気分が悪くなるが、鎧ごとなんの抵抗もなく、なんでも斬れる剣の為に現実味がわかない。
たまに斬り込まれるが、余裕で避ける。
短時間で、見渡す限り50体ほどの死体を作り出した。
「槍兵、突撃!」
右前方から槍を構えた兵士が10人ほど整列して隙間がないないように槍を突き出してきた。
槍が外装に当たるが、傷すらつかない。
何回も突かれるが、無視して前進して槍を持つ兵を全て叩き斬る。
「槍兵、突撃!」
また、先ほどの兵士の背後から10人ほど整列して槍を突き出していきた。
不毛だ。すでに槍の持っている兵が戦意を喪失しているのが見える。
「代表者は、いるか!!」
思い切って叫ぶと、兵たちの動きが止まる。怯えていた兵士の顔に安堵の表情が見える。
槍兵が4段ぐらい並んだ後方に、戦場には違和感がある立派な軍服を着こんだ姿の男が返答してきた。
「私はデシュタール帝国の第四王子のキラス・デシュタールである。お前は、何者だ! 何故、私達を襲う?」
先に襲われた気がするが、村を襲う情報が入ったので殲滅させてもらうなんて言えない。どうするかな?
ダメだ良い考え浮かばない。ダメ元でストレートに聞いてみるか?
「軍を撤退してもらいたい」
「了解したが条件がある。私と一騎打ちしろ」
え? 簡単すぎるだろ? やな予感がする。
兵たちが私の周りから遠ざかり、馬に乗ったキラスと私の間に遮蔽物が無くなる。
「先ほどの戦闘で、お前の強さは分かった。最後に、質問するが何故、撤退してもらいたいのだ? いくら強いとしても単騎で乗りこんできて、意味が分からぬ要求だ」
正体を話すべきなのか?
【昇は、馬鹿ですね】
また! 言いやがったな!
【これは、時間稼ぎですよ。話さないで全員殲滅でいいじゃないですか。現在の昇のエネルギープール残量なら4時間あれば可能ですよ。1秒で4人がノルマになります】
物騒すぎるし! あいつを捕まえて言うこと聞かせれば良いだけでは?
【昇の頭でうまくいきますかね?】
くそう……インディがドンドンひどい性格になって行ってる気がする。
「回答は、沈黙か? ルナ様と同じ気配を感じたが気のせいか?」
キラスの背後から車輪が付いた何かが走ってくる音が聞こえた。
「メトル、間に合ったか?」
「流石、キラス様、時間稼ぎ助かりました」
メトルと言われた兵士が、キラスの背後から荷台に乗った近代兵器を数人の兵士と共に押し出してきた。
運んできた荷台も、この世界では考えられないようなゴム製のタイヤ式であった。
インディ、あれってまずいのでは?
【アヴェンジャーですね。毎分3900発を発射可能なガトリング砲ですね。通常は戦闘機に搭載するような兵器ですが?】
なんで、この時代にそんな物が?
ウイーーン
この世界に来てから、聞き覚えがないモーター回転音が聞こえてアヴェンジャーと言われる兵器が火を噴いた。
用語説明
軍隊アリ
獲物には集団で襲いかかる獰猛な習性を持つ、体長は1 mm-3 cmほどの小型昆虫
毒
生物の生命活動にとって不都合を起こす物質の総称である。
包囲殲滅
囲んで残らず滅ぼすこと。皆殺しにすること。
青いスパーク
電位差があって空気を隔てている2つの物体の間に一瞬生じる電気の流れのこと。
雷や放電現象もこれに含まれる。絶縁体である空気の分子の隙間を縫って大きな電流が流れるために大きな光や音や熱を発し、その影響で空気からオゾンや二酸化窒素が生じることもある。
単分子チェーンソー
単分子でこれ以上鋭くできない極限の小さな刃部分をチェーンソーのように高速移動させる。強硬度装甲を切り裂けるチェーンソー。
高周波ブレード
周波によって原子間結合を強固にし刀身の強度を高め、逆に高周波エネルギーを帯びた刀身に触れた物体は原子間結合力が弱められるため、刀剣の切断能力を大きく高める。 強硬度装甲を切り裂ける。
鍔迫り合い
互いに相手の打った刀を自分の刀の鍔で受け止め、押し合うこと。
虐殺
むごい方法で殺すこと。
アヴェンジャー
毎分3900発、弾は30mmで、銃口初速は1,067m/sと超高速。
加えて、有効射程距離は1220メートルである。
本来は、航空機に付ける兵器である。
戦車を破壊できるガトリング砲であり、戦車師団をなぎ払う事が出来る。




