034 遠征軍
新装備で疾走する。
目的地までの最短距離をとっている。
道なき道を選ぶことになるので悪路で稀に転ぶが、通常の服であったらボロボロになっているところが、新しい外装のおかげで無傷で済んだ。このために安心して全力疾走している。
インディ、今どれぐらいまで来たんだ?
【予定されている全行程の30%程ですね】
やはり、曲がりくねった川沿いを避けて直線で目指していても、かなりの距離である。
新装備の冷却性能とエネルギー吸収率向上が旅の速度を加速させていても、まだまだ遠い道のりだ。
【昇、村が見えました。通過しますか?】
はい、通過します。
【ステルスモード起動します】
体が透明になり始める。このまま村の横を音をあまり立てないように走り抜ける。
農村地域のようで、畑が多い村であった。
子供たちが棒を持って遊んでいたり、若者が畑を耕やして、歳をとっている人は、家の前で藁のような物を編んで何かを作っていた。
長閑さに心打たれる。
都会で、ちょっとブラックな会社で働いていたのだが、今の状況とは凄い差だな。人間どうなるかわからないものだ。
感が良いのか子供が数人だけ、私に方向を向く。
気がつかれたかと思ったが、すぐに視線を別の方向に変えたので大丈夫だったようだ。
【足音が完全に消せてません。外装を装備中は、かなりの重量です。わずかな振動を感じたのでしょう】
隠密行動には見えなくても、むいてないようだな。
今の時代の建物の2階に上がったら、自重が重くて床が抜ける心配が出てきたぞ。
自分が走り抜けた所にできていく、深い足跡を見ながら思った。
特にトラブルもなく、謎の足跡の痕跡を残して疾走を継続する。
村を通過して平地に出た。走りやすい平地の草原を3時間ぐらい走るとインディから警告が入る。
【昇、前方に万単位の生命反応があります。軍隊だと予測されます】
立ち止まって周囲を見ると、かなり大きな平地の為に高台のような場所がない。衛星から見るしかないか?
インディ、軍事衛星から見える上空写真の画像おくれるか?
【雨天などの天候でなければ、鮮明に送れますよ。正確な数字は接近しないと出せませんが、およそ5万人ほどの軍隊のようです。紋章からデシュタール帝国軍だと考えられますが滅ぼしますか?】
滅ぼさないから! 選択肢がいきなり物騒な気がするが、どうしたんだ?
【ルクに剣術を教えていますが、力む癖が抜けません。原因は過去の記憶に関する出来事だと予測できます。保護対象のルクのメンタル面の改善にデシュタール帝国の滅亡が有効だと判断します】
保護対象の精神面の改善に為に、万単位の人々を滅ぼすの?
【保護対象が優先になります】
道徳概念が無いのか? 私が止めない場合は?
【滅ぼします】
駄目! 避けていくよ。インディが怖い。私も同じロボットだと思うが根本的にインディと違うぞ! 良心がない?
【昇は、馬鹿ですか?】
あ、また言いやがった!
【全ては、愛する昇が、得をする事しか判断していません! それを……なんで昇は、理解……これが、ストレスなのでしょうか? 現在、データの解析中】
あ、愛!?
インディは、自己進化する人工頭脳である。
誰も止める人がいなかった為に、本来禁止されていたナノマシンと融合を果たしてしまった存在だが、私が制御しきれるのか今後が怖くなってきた。
【その心配は、不要です。昇を形成しているチップが、私の上位に位置していますので、決して逆らう事はありません】
フゥン……
【あ! 疑ってますね! ああぁ、ストレスが……これがストレス……】
なんか、インディの挙動がおかしくなってきた。
とにかく、滅ぼすのは無しだ。ステルスモードで抜けていくぞ!
インディにストレスモードを起動させて、軍隊のわきを走り抜けていく。
移動中の軍隊は、私の走る音も気にならないほど騒音があるため、誰も気が付かないで足跡だけが地面に記録として残る。
「あと少しで農園があるはずだ」
「食いたい放題だな」
「俺、この仕事終わったら結婚するんだ」
「証拠は残せないから一人も逃がすな」
「武器は、剣より槍だろう、間合いが違うよ」
「久々に血が観れる!」
「総隊長は、どこ行った」
「馬が限界だな」
通り抜ける際に、集音して会話だけ取り出すと一部に凄い物騒な会話が聞こえる。
【集音によって人間の声だけを拾って、分析した結果が出ました。先程通過した村を襲って食糧の補充をするようです。他に聞こえた情報だとデシュタール帝国の自作自演に使われるようです。襲撃した犯人を他国になすりつけて、それを理由に新たな侵略を開始する予定のようです。このまま通過します】
え!? ちょっとまって?
脳裏に先ほど通過した長閑な村を思い出す。
流石に、あそこの村が皆殺しになる可能性を知ってしまうと、心が痛む。
やっぱり、滅ぼしますか?
【フゥン……私の言った通りにすると?】
は……はい。
【先程は、ストレスと言う物を味わったのですが、謝ってもらえるのでしょうか?】
すみません。
【声に出してください】
「すみませんでした!」
【ああ! なぜかスッキリした! これがストレスが無くなるという事? データ解析中……】
声に出した為に、進行していたデシュタール帝国の軍隊の一部が、私のいる空間を見ている。
「なんだ?こっち方から声がしたぞ」
「伝令! 何かいるぞ」
「なんか、靄みたいなのがあるぞ」
【昇には、お詫びとして新しく創生した外装の機能テストをしてもらいましょう】
自分の腕を見ると、いつの間にかステルスモードが解除されていた。
あ! インディ! 本当は機能テストしたかっただけなんじゃないか?
剣を構えたデシュタール帝国の兵士に周囲を囲まれ始めていた。
用語説明
疾走
非常に速く走ること。
長閑さ
穏やかで、のびのびと気持ちよく過ごせるようなさま。
ブラックな会社
若者を大量に採用し、労働者を酷使・選別し、使い捨てにする。
度を超えた長時間労働やノルマを課し、耐え抜いた者だけを引き上げ、落伍者に対しては、業務とは無関係な研修やパワハラ、セクハラなどで肉体・精神を追い詰め、戦略的に「自主退職」へと追い込む事を繰り返しながら成長していく会社。
隠密行動
人に悟られないように隠して事を行うこと。また、そのさま。
紋章
その家や団体を表すしるしである一定の図柄。
道徳概念
道徳に対する観方、捉え方。正邪・善悪の価値観。個々人の価値観に依存する。
集音
微弱な音を聞き取る際に、音波を放物面で反射させ、焦点に置いたマイクロホンでとらえて電流に変え、音を拡大すること。
ストレス
精神緊張・心労・苦痛・寒冷・感染などごく普通にみられる刺激が原因で引き起こされる生体機能の変化。一般には,精神的・肉体的に負担となる刺激や状況をいう。
インディが言うストレスは、昇との意見の誤差によるもの。




