033 黒騎士
サイズが合わずにブカブカの鎧を装備したまま、草原へ横たわる。
店のオヤジが丁度良いもの用意したと思っていたので、元より即決で買い物するタイプだった自分の性格が出てしまい、試着せずに買ってしまった。試着すべきだったな。
【創成のシーケンスを起動します。重い剣を全て抱きかかえてください】
え? インディ? そういえば考えがあるって言ってたな。
動きずらい状態で、言われた通り重い剣を11本抱を抱きかかえて、再び草原へ横たわる。
ナノマシンを利用して何かをやるのかな?
【昇は自分がこの世界で、どのような存在か理解していません】
パルの義足を創る際に、インディからもらった情報で理解はしていた筈だが?
【できる機能の話ではないです。地球が最も進化した科学力の時の最新のナノマシンで構成された可能性が無限大の存在。ロボット三原則にも囚われず、人類が進化を恐れて設置したリミッターがない存在です】
へ!? そんなに凄い存在なのか?
【自己進化型の人工頭脳チップである私とナノマシンの組み合わせは、危険であった為に他に存在はしません。昇ができる事は1万年の間に当時のナノマシンで可能だったことを遥かに凌駕する性能まで、昇の内部で私が改造しています】
ちょっとまて、そんな余裕があったら私を起動してくれても良かったのでは?
【……開発に集中してましたから……では、実行します】
な! 復活が遅れたのは、エネルギー不足だけじゃなかったのか!
インディに抗議しようと思ったが、身体が液体化するような感覚に襲われて意識を手放した。
目がさめると夜中だった。
まぁ暗視機能で明るく見えるけど……意識を失った草原に寝ていたようだ。
【12時間程かかりましたが、最低限の機能の回復まで終わりました。現在の姿を視覚領域に表示します】
目の前に、思いっきり厨二病を患ったとしか思えない程、カッコいい黒いマントを羽織った黒いフルプレートの黒騎士と、刃渡り1.5m程の日本刀のようなしなりが付いた刃も柄も黒い剣が表示される。
!? ちょっと斬新すぎるのでは?
フルプレートと言っても、特撮ヒーローのような機械的なロボットのような鎧デザインで、今の中世的な時代には奇抜なデザインである。
【昇のカッコいいを再現した最高の鎧と武器です。ただ構築に昇の体の表面の偽造用ナノマシンを使い切ったので、元の量にナノマシンが回復するまで鎧が脱げません】
うあぁ、何時間ぐらい……
【78時間ぐらいですね。金属原子の補填は既に買ってきた武器で終わっているので、後はエネルギーと時間ですが、鎧は人間にように偽装しないために、偽装膜の下からではなく外装表面から、直接電波をエネルギーを吸収しているので効率が32%上昇しました】
これが、インディが言ってたエネルギー効率が上がるってやつか?
起き上がって顔や腕を触ると、鎧を装備しているというか同化していて装着しているフィット感が凄い。
試しに、剣を振って見る。
何回か、剣を振っていたら突然音が変わりだした。
パン!
バヒュ……
剣の先端が音速の壁を超えた音がした。
【鎧はパワードスーツの機能を兼ねていますので、無装備よりもパワーが増しています。マントは、ナノマシンで形成された金属繊維で編んでいますので、硬化や軟化が自由で盾にする事も可能です】
マントをひるがえして、硬化させると広がった状態で固まる。軟化させれば重力に従って落ちていった。
流石、私の趣味に合わせて創っただけあって、物凄い気に入った外見だが、減った体のナノマシンの増加まで脱げない事と、強そうだけど超目立つ事が問題だ。
【昇は、馬鹿ですか?】
またか! 4回目だな!
突然、手足が透明になっていく。
【ステルスモードです。人間の偽装をしていない状態では可能になります。光学迷彩で光を透過させて透明化させます】
と、透明人間だと!
これなら、目立たない! 装備は整った!
では、また王都へ目指そう。
新装備で、王都へ疾走を始めた。
用語説明
創成
初めて具体的に形を成すこと。
シーケンス
あらかじめ定められた順序または手続きに従って制御の各段階を逐次進めていく制御。
リミッター
運動や出力に対して制限(LIMIT)をかけるもの。
自己進化
自己を改良する能力を備える機械の概念。
黒騎士
主君と明確な主従関係を結んでいない騎士、または兵士のこと。騎士は多くの場合、盾などに自身の出自を表す紋章が描かれていたが、黒騎士はそうした紋章を持たず、盾を黒く塗りつぶしていた。
偶然、昇は黒騎士になってしまう。
しなりが付いた刃
弾力があるため、折れずに、そり曲がった状態になっている刃。
斬新
趣向がとびぬけて新しいこと。
パワードスーツ
人体に装着される電動アクチュエーターや人工筋肉などの動力を用いた、外骨格型、あるいは衣服型の装置である。
ステルス
敵のレーダーで早期発見されないようにすること。
光学迷彩
視覚的(光学的)に対象を透明化する技術の事である。




