031 盗賊
デシュタール帝国の王都へ道なき道をソロでひた走る。
本当はみんなと行きたかったが、一緒に行くとすると女性3人に私1人という設定で密室である。
女性に慣れていない私では、会話と間が持たない!
生活に気を使う上に食事を全く取らない事をあまり知られたくなかった。
みんなと同じ普通の人間だと思われたい気持ちなのか?
【既に通常の人間だと思われていないですよ】
え!?
【村にいた時の考察だと、ルクには人外の親愛なる魔法使い。チエミには人外の危険なお兄様。パルには神様の使者と思われていますね】
え!? なんでだ?
親愛? お兄様? 使者?
【……両腕を相手に与えて、腕が生えてくる人を見たら昇はどう思いますか?】
人間じゃない……だよね……
しばらく無心で、荒地を走破する。
ロボットなので食事が不要なのは良いが、激しく行動していると冷却が必要になる。
時間あたり、疾走していると2℃体温が上昇していく。
朝から昼まで走ったぐらいでインディが警告しくる。
【体温が安全域ですが、冷却の為に一旦休憩しましょう】
了解!
日陰でしばらく休憩しよう。
日陰で腰を下ろすとインディが馬鹿にしてきた。
【昇は、馬鹿ですか?】
ん!?
【遮蔽物がある所で休憩したら、発電衛星からのエネルギー受信効率が悪くなります】
そ、そうか! 食事をしなくて良いが、充電効率は考えなきゃいけないのか……
日陰だが、発電衛星から遮蔽物が入らない場所を探して再び腰を下ろす。
暇である……冷却迄にどれくらいかかるんだ?
【気温と同じになるには、2時間です。水などあればもう少し短縮できます】
衛星からの航空写真を見ても水辺は見つからないが、町は見つかった。
30kmほどの距離なので、私の足なら1時間以内だ。
エネルギーは宇宙の衛星から送られてくる電波で充電しているが、全力疾走すれば充電よりも消費が大きくなっていつかは枯渇する。
インディ、エネルギー効率はどんな感じだった?
【通常の3倍程の消費ですね。1時間走って2時間休めばマイナスはないです。昇の為のわかりやすい説明だと、昇の体内には通常行動8000時間のエネルギープールがあって、1時間走ると3時間分減ります。充電は、停止中で1時間で2時間分充電可能です。現在、2500時間程しかプールがないので極力無駄にしないようにしてください】
うぁぁ、ロボットになっても考えるのめんどくさい!
エネルギー残量を気にしながら行動しなきゃ駄目なのね。
衛星の電波による充電を始めて、あまり日が経ってないので、エネルギープールは半分未満だったのか……
とにかく休み休み行動しよう。
【周囲に人間に類似した生命反応があります】
数は?
【11個、接近中】
個? 人だろ! 保護対象以外は物体か! なんで気がつかれたんだ?
【昇は、本気で言ってます?】
今まで、全力疾走して来た道を見ると、何本か気が倒されて地面がえぐれていた。
【昇の体重が重いため疾走中に激しい振動と音が発生していましたよ。何本か邪魔な木々をキックで折ってますし……誰でも気がつきますね】
うぬ! インディに天然とか言った時があったが、私も注意力散漫かもしれない。
向こうの草むらから、武装した男の集団が現れる。
「旅人か? 運が悪いな。俺らは盗賊だ。有り金を全部だしな」
目の前に現れたのは、8人の軽装な防護服と剣と斧を持った集団である。
残り3人は、背後かな?
【背後に3個の生命反応を確認しました】
ちゃんと計画性がある動きをしている盗賊だ。
「なんで、気がついたんだ?」
「俺らの縄張りで激しい音と振動があったから調べに来たら、お前がいただけだ」
盗賊の中でリーダーっぽい奴が教えてくれる。
うむ! 予想通りだったのか……
「私って、弱そうでしょうか?」
「へ? そりゃお前、弱そうだな……ってよく見たらなんで、そんな軽装で旅してんだ? 旅団からはぐれたのか?」
今の外見は、チエミが作ってくれた村人の服に、お金を入れるだけの小さなバックと靴底が鉄製の皮の靴。
顔は、昔みたアイドルの17歳付近の顔立ちである。
しかも武器も何も持っていない……
「強そうだったら、どうしました?」
「そりゃ、遠くから様子見するに決まってるだろ! 馬鹿な質問ばっか言いやがって、俺らが命令してんだ! 馬鹿にしているのか前は!」
剣を構えてリーダーぽい奴と取り巻き2名が油断なく剣の届く範囲に接近する。
なんか質問に答えてくれる盗賊集団に、ちょっとだけ人間味を感じてしまう。
ロボットになった影響か、やたらと人間と機械との差を考え始める。
少しは、強そうな外見にすれば絡まれる可能性が減るんだな。
【昇、彼らを倒すことは容易ですがどうします?】
自分の家の庭にアリの巣があって、そのアリの巣を撃退する薬を買ってきて全滅させるレベルの悩みが私の思考に流れる。お金を使ってまで倒すべきなのかと?
せっかく休憩で得た温度低下とエネルギー補充が暴れると無くなるのである。
相手にしてみたら人間の生死がかかる重い話だが、私にとってはたいしたことが無くなっている事に気が付いて、人間性を失っているか心配になった。
まぁ、悩むのは苦手なので単純明快な回答を導き出す。
無視して旅を続行!
【昇にしては最良ですね。無駄なエネルギーと時間を取られません】
インディって辛口になってないか? ……昇にしては?
最近、インディの私に対する考え方が惨くないか?
【お互い様では?】
確かに、二人で脳内でやり取りしていると、インディも進化して人間ぽくなっているのかもしれないが、人間だった私も更に感情が進化しているのかもしれない。
「お前、どっかで見たことがあるな?」
こ、こいつも私の裸像を見たことがあるのか!!
「あ!!!」
盗賊たちの左後方を指差して私が大声て叫ぶ。
盗賊たちが全員左後方を向いたと同時に、盗賊たちの右後方へ全力疾走を開始する。
「な?」
「何もないじゃないか!」
「え、いねぇぞ」
「あっちだ!」
「待ちやがれ……」
古典的な、方法だが思いっきり成功した。
後方で盗賊達の怒号が聞こえてくるが無視して疾走する。
隠れていた背後の3人がいた方向から矢が飛んできて、背中の服に刺さって服に穴をあけた。
「うあぁ、チエミに怒られそうだな……」
背中の皮膚には刺さっていないが、服に引っかかっている矢を走りながら捨て去って、再び王都へ疾走を始める。
用語説明
ソロ
一人で行うこと。単独。
発電衛星
静止軌道上にソーラーパネルを広げ太陽光線から発電して蓄電。貯めた電力を任意の電波で地上に届ける。現在は昇の支配下に置かれており、昇に向かって周囲に被害が及ばない安全域の弱電波で照射している。
エネルギープール
エネルギーの置き場。たまり場。
昇の体内には、通常稼働8000時間分のプールが可能。
激しい加熱や身体の破損を招くが、出力を無理矢理上げる事も可能である。
旅団
この世界での意味は、移動の際に犯罪に巻き込まれないように、多くの人で構成された商人達の移動する集団。
多くの傭兵が雇われて護衛しているので旅団と言われることがある。