028 3人の心
(絵:森山イツキ)
私は、ルク・エテロ。元エテロ王国の王女である。
ノボルが奴隷を助けるために魔法を使って体を壊したので、回復するまで村で生活することになった。
今は、村で生活している合間に皮でできた鎧をチエミに作ってもらったので、装備して剣を鍛えている。
ノボルは出会った時から不思議な人物だった。
奴隷に自分の両腕を犠牲にして治療している行為を見て、不思議や驚愕よりも嫉妬が私の心を支配した。
なぜ、奴隷ごときにノボルが身を削るのかと!
そう、私はノボルに恋をしているのだ。
その認識をしたときは、デシュタール帝国の第五王子を倒してくれた時だ。
誰も私を助けられなかった第五王子からのアタックを一瞬で蹴散らしてしまった上に、恥ずかしいが自分が理想とする外見であった。
私が今年18歳である。ノボルの年齢は聞いていないが17歳前後に見えた。私の方が年上なのだろうか?
最近は、デシュタール帝国への復讐などよりノボルと一緒にいるだけで幸せだ。
しかし、ノボルは奴隷と一緒にいて私をかまってくれない。
外見は、ノボルの奴隷よりも小さいが、胸が大きくノボルを誘惑する自信はある。
ノボルにばれないように奴隷を殺す方法を考えなくてはいけなが、ノボルと一緒にいる精霊が私の行動を観察している気がする。インディという精霊にばれないように実行するのは難しいと思うので、まずはインディを私の味方に引き込もう。
剣を振って剣術を鍛えながら思いを馳せていると、鉄の箱から声が聞こえる。
『ルクは、剣筋が良いですね。剣技をいろいろ知っているので教えますよ。こちらに来てください』
「ありがとうインディ! 教えてもらうね」
鉄の箱の中に入り、不思議なガラスに映っている過去の剣士の剣技を見せてもらうのであった。
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私は、チエミ・ルラ。ルラ自治領土の第二王女である。
ノボルが奴隷を治療する際にダメージを負ってしまった為に、回復するまで村に住むことになった。
今は、みんなが着る服を村に残っていた服から作成している。手先が器用な自信があったが思いのほか苦戦している。
ルクに皮の鎧のサイズ調整を頼まれたが、うまくいかなかった所にノボルが来て一瞬でなおしていった時には、なぜか奴隷の治療などの奇跡的な行動ではないのに目を奪われた。
なぜ、彼が多種にわたって多くの知識を知って、それを実践できるのか理解できない。
似た感情を、第一王子に対して感じたことがある。これは、兄の様な感じだろうか?
お兄ちゃんと呼びたくなる衝動があるが、ノボルと呼んでいる。
いままでルナ様を信じて生きていたが、生贄の謁見の前に恐ろしい顔をして、父上が逃げるように指示したので必死に逃げてきた。
いままで何でも許してくれた父上の最後の願いを踏みにじる形になるが、私の感が囁くのだ。
ルナ様よりもノボルが危険だと。
だが良い方面の危険である。自分でも何故そう思うかわからないがノボルについていけば、すべてが解決する気がしてならない。
自分は、美人ではないが、見た目は可愛い自信がある。今年で14歳である。ノボルに自分をアピールしないとな。
胸のふくらみが小さい胸元をみる。そこに誰かがやってきた。
「チエミ様、今日の晩御飯を作りました。お味見してください」
ノボルが飼っている奴隷に料理を教えながら作業をしているのを思い出した。
いったん、服の製作を止めて料理を味見する。おいしい……この奴隷、料理の素質がありそうね。
もらった料理をパルと呼ばれている奴隷にぶちまける。
「だめね、不味い。やり直し」
あえて、厳しく当たって上下関係をはっきりさせなくてはいけない。ノボルは奴隷に甘すぎる。
私が、お兄様……いやノボルに代わって、奴隷をしかり教育してあげる。
料理で汚れた体を気にしながら、床に落ちた料理をかたずけるパルを見て使命感にとらわれる。
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私は、パル。ノボル様の奴隷だ。
私の足の治療の為に行った行為によってノボル様の両腕がなくなってしまった。
しかし、時間で元に戻るという信じられない事を聞かされる。
そのため、回復するまで村で暮らすことになった。
今は、料理中である。目の前の大量の食糧から贅沢な料理を作っていると考えてしまう。
生まれてきてから、つらい事しかなかった。さびれた村に生まれたが、常に飢えていた。12歳の時に奴隷商人に人減らしの為に売られた。
15歳の時に、主人に襲われて荒がった為に足を怪我する。
足を怪我してからは使い物にならずに、また売られてしまい、買い手がつかずに最低限の食事しかもらえず、死ぬだけだと思っていた。
足の怪我が悪化して、動く事も出来なくなってきた。
一気に老け込んで16歳のはずだが18歳以上に見えるらしい。
栄養不足のため外見も骨と皮だけになってしまった。
もうダメだと思っていた時に、ノボルに出会う。
腐敗臭がする私を、汚れるのも構わずにいきなり抱いて、到底不可能な事を実行する魔法使い。
生まれて初めての無償の親切に、この人の為なら死ねると本気で思ってしまった。
自分の両腕を私の両足に移植したのを見ていたら、きっとノボル様は、魔法使いのふりをしている神様なんだと納得した。
今の私の足は、ノボル様の腕である。
何故神様が、地上に降りてきたか分からないが、一生ついて行こう。
お世話をするだけで幸せを感じる。
体力が復活してきて、体に肉も付いてきた。夜伽も狙えそうだ。ノボル様と一緒にいるルク様とチエミ様からを指導を受けて、奴隷としてどうあるべきなのか理解できた。
彼女達に、なじられると幸せを感じる。
ノボル様は、いつ私を責めてくれるのだろうか?
この生活が、永遠に続けば良いのに。
用語説明
剣筋
剣で斬り込む際に、その切っ先が描く一筋の線。転じて、剣の扱い、剣さばき、才能や熟練度などを意味する表現。一般的には「太刀筋」と呼ばれる。
皮の鎧
レザーアーマー(英語: leather armor あるいは leather armour)は、動物の皮(皮革)などで出来た鎧である。
夜伽
夜、物語などをして相手になること。寝所で、女が男の相手をすること。また、警護や看護、お通夜などのために、夜通しそばにつき添うこと。
なじられる
相手を問いつめて責める。詰問する。
人物紹介
パル
農村で生まれて、奴隷商人に売られた少女。
昇に出会ったときは、栄養不足の為に外見が老け込んでおり18歳ほどに見えていたが、今は回復してピチピチの16歳に見える。
いまだに、髪を切っていないので顔も隠れるほど長髪である。
今は、川で身体を洗って新しい服を着ているので外見は綺麗。
両足が怪我の為に、切断しなくてはいけないほど悪化していたがノボルが治療して彼女の両足は、高性能なナノマシンと金属および彼女の細胞が結合した義足である。
今後、この義足が彼女の身体に意外な作用をしていくことになる。