025 奇跡の代償
歯の折れた男の死体から、渡したばかりの硬貨を回収する。
こっちが盗賊みたいな気になってきた。
驚いた事に、白金貨を1枚持っていた。
これは! 他の死体も調べると、5枚の白金貨を取得した。
奴隷の売買が終わって船で送り出したと、言っていたのを思い出す。
【売買が終わって資金があったみたいですね】
言わなくてもわかってるよ。
先程、購入した奴隷の所に行くと顔が笑った状態でこちらを見ていた。
「怪我は、ないか?」
「み……見てわかるだろ……足が駄目だ。喋るのも辛い。殺してくれ」
この前、インディに医療的な知識を無理やり頭に入れられたため、治療方法が頭に浮かぶ。
「治すか?」
「は……ぁ。体調が良くなっても、この足じゃ死ぬだけだろ。早く殺してくれ」
「いや、足を元どおりにするんだが?」
目を丸くして、少女が固まる。そして、笑い出した。
「アハハハ! 最後に冗談を言ってくる人がいると思わなかった。治ったら、本当に、お前の奴隷になってやるよ。抵抗したせいで足をやられてこのザマだ」
「奴隷にならなくてよい。この世界の一般的な知識を教えてくれ」
「アハハハ! さらに冗談を! なんだその情報を教えてくれって!! まぁ、いいや。最後に笑わせてくれてありがとう」
そう言って、少女が意識を失った。
【昇、不味いですね。早期に治療しないといけません】
インディの協力が必要だが、承認するか?
【昇の思考は既に読み取っています。両腕を彼女の足にするんですね。失った腕の完全再生まで7日はかかります。見た目だけの回復なら20時間ほどでしょうか?金属原子が足りなくなるので、戦車の装甲を一部摂取する必要があります】
で、承認は?
【納得はしませんが、一般的な知識を取得すると言う目的があるので承認しましょう】
手厳しいインディだが、協力はしてくれそうだ。
では、始めますか!
昔見た映画に自分の身体を困った人へ提供する物語があった。それに近い物があるが、私は再生可能だ。
少女の足を右手と左手で片方づつ太腿の壊死している部分と壊死していない境界線を掴む。
【同化を開始します】
私の手と彼女の足が同化を始める。
壊死した、足が外れる。
私の両手から、少女が生えているような状態になる。
【安定まで、あと3分ほどかかります】
「ん……あ? 足の痛みがない……」
少女が目を覚ます。
「すまないな、今私の両腕を君の足に移植している」
「え!? きゃあくぁぁぁ! なにこれ! でも痛みが全くない」
【神経との接続に成功しました。形を固定するプログラムを構築して昇と切り離します。切り離した後は、100m圏内であれば、私が操作可能です】
私の方から両腕が外れる。
外れた場所は、初めから腕がなかったような肌色の皮膚に変化する。
外れた両腕は、彼女の両足となって形を形成して行く。
自分の、足が出来ていく過程を、驚いた顔のまま落ちついて少女は見つめていた。
3分経過して少女が口を開く。
「足が戻った。貴方は神様?」
説明が難しいな。とりあえず魔法使いと思わせよう。
「遠い遠い過去から来た魔法使いだよ」
「ふぅん……」
少女が自分の足で立ち上がった。
確かめるように、スキップしたり地面を裸足で蹴り飛ばす。
地面が、スコップで掘ったようにえぐれる。
「ええ! なに、この足!」
「もともと私の腕だったので、数十倍の力があるから気をつけてね」
「ええ!??」
【昇、ルクとチエミが500m範囲に到達しました。私たち以外の生命反応が無いので、そのまま向かっています】
ちょっと待て! この状況は説明しずらい。少し待たせて!
地響きを立てて川縁から装甲車が上部ハッチを開けて走ってくる。
ルクが、遠目で怒って顔をしているのが見える。
目が良いのも考えものだな。
トドメにインディが教えてくれる。
【衛星とのリンクが確立されて1時間ほど前からオンラインでルクとチエミに昇が見ている画像を送信していましたので装甲車の中で見ていた二人には、事情の説明は不要です】
私のプライベートは、無いのか!!
用語説明
金属原子
単体で金属の性質を持つ元素を「金属元素」と呼び、金属内部の原子同士は金属結合という陽イオンが自由電子を媒介とする金属結晶状態である。
様々な金属結晶状態をナノマシンによって変化させる事が可能な昇は、金属に定義される物質から様々な金属原子を取得可能である。
リンク
ある情報がほかの情報に結びついていたり、関連づけられていること。ネットワークでは、機器同士が接続していることを指し、Webページでは単語や画像がほかの情報に関連づけられていることを指す。
オンライン
機器同士が物理的、あるいは論理的に接続された状態のことである。 一般的には、インターネットやパソコン通信といったネットワークに接続され、利用できる状態のことを指す。
機能説明
白鳥昇の能力に関して
彼は、液体金属と高度なナノマシンおよび高性能な記憶チップを2個搭載する、人間の真似をしているロボットである。
今回使用した能力は、自分の両腕のナノマシンを利用して少女の足の形に変更して再構築して高性能なナノマシンで構成された義足を作成して少女に装備させた事となる。
代償で失った昇の両腕は、ナノマシンが金属原子を取り込んで複製していき、時間と共に元に戻る。
今後の不都合は、減った分のナノマシンと液体金属が増加するまで両腕の機能が低下する事である。