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024 奴隷

 上空写真で見つけた川沿いの一番近い村に、走って向かっている。

 途中で、木の根っこに足を引っかけて転んだのだが、かなりの速度で転んだため薄汚れた執事の服が、交通事故に巻き込まれたレベルでボロボロになってしまった。


 この服装は、けっこうまずいな……


【現地で服を購入すれば良いのでは?】


 インディは、少し天然な気がするな。ボロボロの服の見知らぬ男が現れて、服を売ってくれって普通は警戒するから。


【天然? 表現の意味が分かりませんが、ノボルの設定した外見であれば、平均よりも異性に興味をもたれるので大丈夫だと思います】


 天然の表現がわからないインディの分析の信頼度が、この世界の常識と比較してどの程度かわからない。


【心外ですね、昇よりも常識で動いているはずですが?】


 う! そうなのか?


 目の前に村らしき場所が開ける。

 外壁などはなく、平屋の建物が20軒ほど密集して建っている。


 鞭や棍棒を持った3人の男が見えるが、その他に人は見えない。

 話しかけてみよう。


「すみません。道に迷ってしまったのですが、服と食料を売ってもらえませんか?」


 3人がこちらに気がついて、緊張感もなく話に応じてくれた。


「うあァ、ヒデェ有様だな。服ボロボロじゃないか」


「泥だらけだな」


「何処の貴族様の旅団からはぐれたんだい?こんな森じゃ大変だっただろう? 服と食料ならあるから売ってやるよ。こっちにきな」


 うまい具合に、移動中の貴族からはぐれた執事と勘違いしたようだ。


 男達についていくと、綺麗で少しだけ他の建物より大きめの場所へ案内される。一人の男が中まで案内してくれる。建物に入り執事用のサイズが合う服をもらった。

 執事と完全に勘違いしているようで、また執事服だった。


「銀貨7枚で良いぞ」


 前歯が折れた、人が良さそうな村人風の男が請求してきた。

 銀貨を10枚渡してみると、満面の笑みを浮かべる。


「お! 話のわかるにーちゃんじゃないか!! さすが貴族の執事さんだな!」


 掴みはOKだったようだ!金の力は偉大だな。

 銀貨を懐から渡して、着替えながら質問をする。


「ここは、どこですか?」


「ここか? デシュタールの奴隷を王都に送る中継場所だよ。2日前に、一気に船で搬送したから、今は売れない数人だけ残ってるだけだな。既に何人か死んだが見ていくか?」


 奴隷? そんな制度があるんだな。仲間が王族ばかりで二人から手に入る情報に偏りがありそうだ。一般的な情報収集に購入するのもありなのかな?


【昇、生命反応を赤外線センサーを利用して判定しましたが、この村には、先程の男3名と離れた建物に2名の5人しかいません。男を全て排除して食料の確保を推奨します】


 インディの発想が物騒だな。


【昇とルクとチエミの保護が最優先ですので、危険がある存在は排除対象になります】


 インディと私のこの辺の価値観の違いが、トラブルを引き起こしそうだな。


「にーちゃん大丈夫か?」


 放心してインディと脳内会話していたので、男が心配してきた。悪い人には見えないので、インディのプランは却下しよう。


「わかりました。条件が合えば購入しますよ」


「お! 助かるよ。このままだと処分屋を呼ばないといけなかったんでな」


「処分屋?」


「なんだ、貴族さんのお仕えじゃ知らないだろうが、使えない奴隷を買い叩く集団がいるんだよ。身体の使える部品を取るって話だが、気持ち悪い奴らさ。にーちゃんが買ってくれると呼ばなくて良くなるから安くしとくぜ! こっちきてくれ」


 男に案内されて、建物を出ると先ほどの2人の男が馬と食料の入ったリュックを用意していた。


「なんだ、お前らも貴族に取り入ろうと必死だな」


「お前もそうだろうが!」


「そりゃ、そうだろ。こんな奴隷売買で終わりたくないからな。そこの執事様に恩をうっとけば何か得するかもしれんしな。食料何日分ぐらい欲しいんだ?」


「ちょっと、焦るなよ。先に売れ残り奴隷を買い取ってくれそうなんだから妨害するなよ」


 私を助けたことによって、私が仕えていると勘違いしている貴族が何かアクションしてくれるのを期待しての親切のようだ。もちろん利用するがな。


「食料は、渡せるだけ売って欲しい」


「お! 本気で助かるよ。もう少ししたら町へ移動する予定で食料も余ってたんだよ」


「だから、妨害するなって! にーちゃん先に奴隷見に来てくれ」


 前歯が折れた男が、私の手を取って引っ張って行く。


 村が隣接する川辺に一番近い大きな建物の中に入る。

 悪臭が漂うが、それをどうにかしようという気持ちが起きない。

 これって、普通なら痛かったら止めるなどのリミッターもなくなってんじゃないか? ロボット化の弊害かな?

 人間性を失っていないか心配だな。


 建物の中に3人が足に鎖をつけられて、軟禁されていた。

 一人はボロを纏った大男だったが、全身に紫斑が出て息が荒い。

 もう一人は、座り込んでいる少女だったが両足が黒く変色して一部腐っていた。

 最後の一人は……汚れた布を掛けられているが死んでいるようだ。


 これは、酷いな。


【昇、男の方はバイオハザード があった細菌に侵されています。余命はほぼないでしょう】


 どういう事?


【体力低下で潜伏していた細菌が免疫力を上回り全身に感染してしまったと思われます】


 グハ! ボタボタ……


 男が吐血して倒れた。

 うつ伏せで、痙攣している。


「なんだよ! あとちょっと持てよ! デカイだけが取り柄のくせに弱えな!」


 倒れた大男を歯が折れた男が蹴り飛ばす。

 奴隷に人権はないようだな。

 きっと擬似的なものだが、気分が悪くなって目線を変えて少女を見る。


 16歳から18歳ぐらいか?あまりに汚れて髪もバサバサなので、男子と女子の区別はつかないが、僅かな胸の膨らみが少女であると思わせる。

 ボロボロの服で腕と足が露わになっているが、足が両足共に太腿から腐っているような感じになっており、その足首に鎖が付いている。


【足の怪我などから、なんらかの感染をして足が壊死しているようです。早期に切断して治療しないと余命は短いと考えられなす】


 どちらも、ここに残されるわけだ。


「にーちゃん、男の方は捨てるからいいや。女は、足がおかしいだけで機能してると思うから金貨1枚でどうだ?」


 人間が金貨1枚か……

 救いたいと思うが、どうしようかな?


【今後の行動の障害となりうるので、購入はお勧めしません】


 だろうな。だが、自分が人間であると思い込みたいのか買うことにした。

 手持ちのお金を見ると残りの貨幣は、王子から奪った白金貨8枚と宝物庫で拾った銀貨15枚銅貨21枚である。

 白金貨を出すと危険な気がするので、質問する。


「銀貨でも支払いは、可能か?」


「勿論ですよ。銀貨なら10枚ですね」


 トラブルを避けるために色をつけて12枚渡す。


「お! 本当ですか!! 何処の貴族様に仕えていたのかわかりませんが、羽振りいいですね! おら、お前! はって馬車置き場まで来いよ。本当にここは臭いな。さて行きましょう」


 前歯が折れた男が、少女の足の鎖を外すと、早くこの場を移動しようとする。

 奴隷を匍匐前進させて、馬と食料があるところまで行かせようとしているのに唖然とする。

 少し頭にくるかな……


「いや、構わん」


 今までめり込むほど閉めこまれた鎖が、外れて腐った足首から膿が出ていた。

 御姫様だっこをして、少女を持ち上げる。


「え? にーちゃん! 新しい服が汚れる! 物好きだな……まぁいいや。行きましょう」


 前歯の折れた男が、一瞬驚くが何かを納得したように、建物から出て行った。


「あ……あ……」


 少女が呻くがそのまま、外に連れて行く。


【だいぶ衰弱しているようです。身長から割り出した平均体重の半分ほどしかりません。今後の行動に支障をきたします。破棄を進言します】


 インディ...保護対象以外に対して無慈悲すぎるな。

 インディの進言を無視して、馬と2人の男がいる所までやってくると、先ほど戻った男となにやら相談している。


「お、来たかにーちゃん。食料は30日分で干し肉と穀物を馬に乗せておいた。初めは、送りだすはずだったが、にーちゃん実は、貴族の執事じゃないだろう? 騙されるとこだったぜ」


 3人が、剣と棍棒と鞭をそれぞれ構えて、臨戦態勢を取り始めた。


「なんで、心変わりしたんだ?」


「は? 奴隷を人間扱いするような奴が貴族の関係者の訳あるかよ! そういう奴が一番嫌いなんだよ。武器も持ってないお前じゃ、俺ら3人に勝てないよ。おとなしく本当の事を言いな」


 はぁ、こいつらも容赦しなくてよい集団だったのか? 先ほどの笑顔が手のひらを返すように一転してしまった。


「私を攻撃すると言うなら、まったく容赦できないがよいか?」


「あ! こいつ! 頭来る!」


「なんだよ、本当に貴族の関係者じゃないんだろうな?」


「奴隷に触れる貴族なんて知らないぜ、金持ってそうだし殺しちまおうぜ」


 危ないので、抱いてる少女を下ろしている時に、鞭が飛んで来た。

 避けると少女に当たる可能性を考えて、口で咥える。

 咥えた同時に、首を高速で振る。

 急に引かれた為に、鞭を持つ手を離して男がこける。

 少女を置いたら、ダッシュで接近してコケている男を蹴り上げる。

 胸部が陥没する。

 背後から棍棒を持った男が頭を狙って振り落としてくる。

 そのまま頭突きで、棍棒を砕いて手刀で首筋を攻撃するが、手加減出来ず首と胴が別れてしまい血が吹き出す。


 振り向くと歯が折れた男が、震えながら剣を構えてこちらを見ながら怯えていた。


【昇、先ほど私に対して抱いた発想が物騒という思考の訂正を求めます。現状を見る限り私が正解だったと思います】


 確かに、そうなったがインディって人間ぽいな?


【昇が肉体を捨てた時代では、最新の人工頭脳ですので、人間の感情は理解していますし私自身に付加しています。エネルギー不足で昇が停止した際には、人間での母性という感情も取得しています】


 そんな事があったんだ! インディの見方を少し変えよう。

 わかった、訂正するよ。


【本心からぽくないですが、納得しましょう】


 インディの思考は読めないのに、私だけ読まれてるのに不満を感じるが、残った男と対峙する。


 インディと脳内で会話してる間に、間合いを詰めていた為に、剣を下段から振ってくる。

 外見に似合わないが、動きからして結構な剣の達人であった。

 だが、相手が悪かった。

 剣が腰を切り裂く瞬間に左手で刃を受け止める。

 十分、致命傷になる威力であった事を確認した。


「あ! なんだって!!」


 男が叫んでる、必死に剣を戻そうとしているが、万力のような力で挟まれた剣は、ピクリとも動かない。

 すまないな。正当防衛だしな。

 自分を納得させて、左手の剣を一気に引いて、体制を崩した男の頭に剣の柄の部分を叩きつける。


 グチャ……


 3人の男は沈黙した。

用語説明



天然

「天然」「天然キャラ」とも言う。 勘違いや間違った知識、思い込みから引き起こされる言動であるが、悪意や計算高さは含まれない他愛のないものが大半である。


生命反応

何か有機物が生きている可能性を示す指標。

今回では、温度で判定している。

人間の体温は、保温動物で一定である為に温度センサーによって感知判定を行うことが可能。


赤外線センサー

赤外領域の光(赤外線)を受光し電気信号に変換して、必要な情報を取り出して応用する技術、またその技術を利用した機器。人間の視覚を刺激しないで物を見られる、対象物の温度を遠くから非接触で瞬時に測定できるなどの特徴を持つ。

様々な種類が存在する。

今回の測定は、物体を通過できる近赤外線による判定。


免疫力

人体の外的微生物などに抵抗する力。

体力低下で弱まると、健康な時には発病しなかったすでに体内に潜伏している病気にかかる時が多い。


匍匐前進

伏せた状態で移動することをいう。


鞭は、人や動物を打つための細長い竹の棒、もしくは棒状の柄に革紐や鎖などを取り付けた道具。


棍棒

人が握り振り動かすのに適度な太さと長さを備えた丸い棒のこと。殴打用の武器として扱われることが多く、武器としては最も基本的な物の一つである。


万力

対象物を2つの口金の間に挟み固定する工具や機構。

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