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022 チエミの事情

 川縁を下流に向かって走る。下るにつれて川幅が大きくなっていく。


 これは、装甲車がどこまでいったかわからないな。


【水中だと水の抵抗で、ほとんど速度が出せませんので追いつけると思います。500m範囲に入りましたら通信回線をオープンします】


 川沿いのために、ぬかるんだところや一度回り込まないといけない場所もあり、時速60kmで追尾できる予定だったが流石に速度を稼げずに、時速20kmほどで先行した水中を走っている装甲車を追いかける。


 泳いで行った方が早くないか?


【昇の身体は、液体金属とナノマシンの集合体で、通常の5倍以上の体重があるので泳ぐことは人間の姿では難しいです】


 変形しないと泳げないって事かな?


【正解です。指の間にヒレを作成して、浮き袋を構築する必要があります】


 想像できないが、人間の外見ではないな……


 他の手段が思いつかないので、川縁をがんばって走っていく。さほど時間が経過してないはずだが、思ったよりも速度を稼げずに追いつける気配がない。

 1時間ほど走るとやっと、通信圏内に到達する。


【通信可能になりました。こちらに向かわせています】


 水中から、装甲車が顔をのぞかせてこちらに向かってくる。

 上部のハッチがひらいて、ルクとチエミが顔をだしてルクが手を振っている。

 川縁の浅瀬部位に停車して、チエミとルクが装甲車から降りた。


「おかえりなさい、ノボル。無事のようですね」


 川縁を走ってきたので執事服のズボン部分は泥だらけだが、外傷がないことを確認してルクが微笑む。


 チエミは、気難しい顔をしていた。


「チエミ、追手は引き返したが何があったんだい?」


「それは、私が聞いておきました。ノボルはこの地域の情報に疎いので、わかりやすく私が説明しますよ」


 ルクが、私の無知な事を踏まえて説明してくれた。


 チエミの両親は、デシュタール帝国で4個存在する自治権が存在する地域の一つであるルラ自治領土の王様であり、チエミはそこの領土の姫様である。

 王族のパーティーでエテロ王国に侵略する前に、ルクと挨拶を交わしたことがあったために、チエミとルクは顔見知りであった。


 デシュタール帝国の国教は、月を崇めるムーンクレスト教である。

 ムーンクレスト教には、儀式があって健康で健全で優秀な人物は検査と言うものを受けることになる。

 今回のエテロ王国への侵略の完全勝利によって、隣接していたルラ自治領土の王様であるヒルト・ルラが検査対象にあがった。検査結果で月の上級管理職に組み込まれる事になり生贄になった。

 生贄に選ばれた時は、親族ともども生贄としてルナ様へ謁見することになる。

 チエミはヒルトと一緒に生贄として、ルナ様に謁見するはずだったが、謁見の寸前にヒルトが秘密裏にチエミを逃がしたという経緯だそうだ。


「生贄って? 月の上級職ってなんだ?」


「ムーンクレスト教団は、月を崇める教団であり、正しい行いをしていれば死後に月にて再度生命を得ると信じています。生前に生贄として送られた場合は、月で上級職につける為に優秀な人ほど生贄として命を落とします」


 ルクが質問を適切に回答してくれる。


「は? それはないだろう。死んだらそれでお終いだろう。月で再生?」


「ムーンクレスト教を信じていない人は、そう思いますがデュタール帝国の王族と貴族は、狂信的に信じています」


 うあぁ、私から見れば狂った宗教だな。


「なぜ、ムーンクレスト教を信じているチエミの両親は、チエミを逃がしたんだ?」


「そこはまだわかっていないようですが、チエミは最後に逃げるように言われてそれを守っていただけのようです」


「チエミに何か秘密があるのかな?」


「それはわかりません」


「助けてくれた事には感謝する。お願いがあるのだがデシュタール帝国を脱出するのを手伝ってもらいたい」


 チエミが、今後の話を切り出してきた。


 デシュタール帝国の王都にいって、何か宗教的な事を起こして教皇になろうと画策する計画だったが、既にルナと言われる教皇の立場の人物がいることが分かり、なおかつ旧世界の何者かのようだ。

 全ての回答は、ルナに会えば解決すると思うがどうするかな?


「チエミの事を必ず守るので、デシュタール帝国の王都に行かないか?」


「兵たちが、決死の思いで私を逃がしてくれた王都へ戻れと?」


 やはり、無理か。


「デシュタール帝国を出た後に、どこかに行ける場所などあるのですか?」


「……ない。だが、父上の言いつけを最後にまもりたい」


 これは、嘘も方便で説得するしかないか。


【チエミは、私の保護対象に登録されていないので、嘘を言う分には問題ありません】


 あ、インディ! 私の思考を読むな!


「ルナ様と言われる人物と私は、同格の人物です。ルナ様に謁見してチエミの事を私の管轄下にすれば生贄にされなくなります。一緒に来てくれませんか?」


「それは……では、ルナ様の様な奇跡を見せてください。そうすれば信じましょう」


 奇跡? いまの時代では奇跡に見える科学的な何かを見せればよいのかな?


「たとえば、どんな事でしょうか?」


「川の水が無くなるなんてどうでしょうか?」


 え? 無理無理……悩んでいると、インディが恐ろしい提案をしてきた。


【昇、先ほどまで総当たりで軍事衛星にアクセスしていましたが、パスワードの桁数が少なかったために、予定より早くパスワードが解析できました。アクセス可能だった軍事衛星の正体は、防衛衛星です。宇宙空間に飛来している大陸間弾道ミサイルを高出力レーザーで撃ち落とすための衛星です。発射角度を地上に向ける事が可能なので川の水を一時的に蒸発させることは可能です】


 は? え? そんな事できるの?


【理論上可能です。実行しますか?】


 とんでも兵器を手に入れたのか?

用語説明


生贄

神への供物として生きた動物を供えること、またその動物のことである。供えた後に殺すもの、殺してすぐに供えるもののほか、殺さずに神域(神社)内で飼う場合もある。


防御衛星

弾道ミサイルなど高速で飛来する攻撃兵器を迎撃する衛星。迎撃対象が高速の為に、命中率が高いレーザー兵器がメインウエポンとして搭載されている。

サブとしては、レーダーを妨害するチャフ系の兵器を装備する。

熱による破壊が主目的の為に、攻撃力は低いが対象物に対する加熱性能が高い。


大陸間弾道ミサイル

大気圏の内外を弾道を描いて飛ぶ対地ミサイルのこと。弾道弾とも呼ばれる。弾道ミサイルは最初の数分の間に加速し、その後慣性によって、いわゆる弾道飛行と呼ばれている軌道を通過し、目標に到達する。

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