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020 魔女と眷属と始祖

 現在、川が背後にあって、前方に松明を持った軽装2人とライトプレートの武装した8人と派手な服装の男が立っている。

 人数が先程よりも2人ほど少ない。馬車で待機しているのだろうか?


「私の部下よりも人を一人抱いた男のほうが、足が速いなんてありえません。貴方、魔女ですね?」


 派手な服の男が聞いてくる。


 この集団は、かなり危険な感じがする。

 今後のことを考えると、全て殺して目撃者を消す必要があるかもしれない。


【その意見には、反対です。彼らを殺した場合は、昇とルクの危険度が上昇する可能性があります。2人少ないのでここで全員殺したとしても目撃者が残ってしまいます。敵対よりも会話で争いを回避すべきかもしれません。残り2人も殺すのであれば同意は可能です。】


 インディが、確率計算をしたようだ。

 全員いたら全員抹殺で、すぐに意見が揃ったかもしれない。


 インディってロボット3原則があるから人間を消すとか思考出来ないのでは?


【登録された人命に危険がある場合は、その限りではありません】


 早めにチエミも登録しないと、ルクとチエミが喧嘩するとチエミがインディに殺されてしまう事があるって事か? 恐ろしいな……


【その通りです】


 まぁ、無難にまずは会話からいこう。


「ええと、私は魔女ではないです。賢者だと思ってほしいかな?」


「賢者!? 魔女ではなくて賢者? アハハハ!!」


 腹を抱えて笑いだした。

 暫くして突然、真顔に戻って言う。


「賢者とは、ルナ様の事だ! お前がルナ様? ある訳がない……ん……ま、まさか?」


 私の松明に照らされた顔を見て男が、狼狽えた。


「その顔、ルナ様の神殿で見た事がある! 何故だ? お前は何者だ!」


 ルナ様の神殿に、私の裸像レプリカがあったんだろうなぁと予測する。

 顔を変えてしまおうかな?


【昇の外見は固定されています。解除して変更する場合は常に変形させる為のエネルギーが必要になる為に、消費エネルギーが衛星からの供給エネルギーを上回ります】


 む! 短時間の変装は良いが、長時間は駄目だって事か?


【その通りです】


 インディと会話して何も答えないと、派手な服装の男が頭を掻きむしって叫ぶ。


「何故、お前にような奴の記憶が、私の頭にあるか調べなくては!! 神殿! 神殿に戻る! あああァァァ。私を混乱させるお前は、やはり魔女だ! ここにロメロ司祭の私が決定する。奴は魔女だ。直ちに焼き払え!」


 ライトプレート装備した男が8人すべて抜刀して、斬りかかってきた。

 武力か会話かまだ迷っているのでとりあえず時間を稼ぐ。

 体の硬さを変更していないので、素早い動きと予測演算で8人の攻撃を器用に躱していく。


「なぜ、あたらぬ!」


「早い!」


「ふん!おりゃああぁ」


「そんなバカな?」


「後ろにも目がついているのか?」


 8人が、華麗に避けていく私をみて、感嘆する。


 シュ――!

 空気を切り裂いて何かが飛んできた。


 軽装の松明を持った男が、投げナイフを投げてきたようだ。

 8人の剣を避けながらだと、さすがに難しかったために、顔にあたる寸前で口で噛んで受け止める。


「な、なんだと! まぁ、かかったな。猛毒をくわえたら、もうお前はダメだ!」


 ナイフに毒が塗ってあるのか、刀身が濡れていた。

 うあ、口にべっとり付いて気持ち悪い。


 口についた毒の気持ち悪さを我慢して、8人の攻撃を避けていく。さすがに疲れてきたのか8人の動きが止まった。


「猛毒だぞ! 皮膚に付いただけで3日は激痛で動けなくなる筈なのになんで動けるんだ!」


 軽装の男が叫ぶ。よく見ると彼の手は毒に侵されているのか変形して変色していた。

 ロボットに毒は効きません……


「んんんん! 凄いですね! これが魔女の力と言う事ですか! ならば私もルナ様に授かった力をつかわなくてはなりませんね」


 自分をロメロと名乗った司祭が、懐から拳銃を取り出した。


 おお! 今の時代ではオーパーツにあたる火器じゃないですか!ムーンクレスト教とは、どんな教団だ?


【デザートイーグル .50AEですね。私のセンサーから分析すると弾丸は入っていますがセーフティー解除されてません】


 ほう、と言うことは?


「滅べ魔女め!」


 ロメロが両手でしっかりと構えて、私に向けて引き金を引くが発射されない。


「ええと、名前はロメロでいいのかな? 拳銃の安全装置の解除を忘れてるぞ」


 驚いた、顔をするロメロ。銃を見て安全装置を解除して再び私に銃を向けてきた。


「まさか、おまえは魔女ではなくルナ様の眷属なのか? ルナ様は、言った。私が貸し与えた力が効かない人物が現れたら、それは眷属であり連れてくるように言われている。試させていただく」


 パン! パン! パン!


 3連射で私に向かってロメロが発射した。

 右手の掌だけを硬化して、弾丸を右手ですべて受け止めて握りこむ。

 かなりの弾速であったが、何とか受け止めれた。

 受け止める瞬間は、時がすべてスローモーションになったがこれは脳の処理速度が上がったのかな?


【昇の思考時間は、クロックを上げれば1000倍近くになります。ただし長時間行うと熱で暴走します】


 そういう事か。剣を避ける際も結構使ったので、本当に頭を冷やすべきなのかな?


 手を開くと、ひしゃげてつぶれた弾丸が3発のっていた。


【ソフトポイント弾でよかったですね。フルメタルジャケット弾であったら右手を貫通しているところでした。昇には記憶チップが入っているのですが、そこが損傷すると記憶を失いますよ】


 インディ、そういう事は早く言ってくれ。汗はかけないが冷や汗が流れる思いだった。


「なんと! ルナ様の眷属様だったのですね!!!」


 ロメロが、満面の笑みで対応してくる。


「すまん、ルナ様の事はしらない。ただ、通りかかっただけだ」


「大丈夫ですよ。もう貴方を攻撃することはいたしません。まことに失礼しました。ルナ様には、眷属に出会った際に、伝言をたのまれております。『西暦3012年から来た。仲間を探している』と言えばすべてがわかると聞いています」


 ちょうど、世界大戦があった付近の年だな。バイオハザードの生き残り? だが人間ではないだろう。


【当時のナノマシンは貴重で、昇は研究施設で多くのナノマシンを使用できましたが、通常はそのような事はできません。よって私の様な人工AIシステムがいまだに動いている場所があるのかもしれません。もしくは、大変可能性は低いですが昇と同じ形態の人物かもしれません】


 好奇心がわくが、今はルクとチエミが気になる。


「何故、チエミはあなた達に追われているのですか?」


「おお! 知らなかっただけなのですね!」


 ロメロが顔を抑えて驚く。


「彼女は、身体検査の結果、大変優秀な人材であるとわかりました。よってルナ様の生贄に選ばれたのですよ。彼女のご両親は既に生贄としてルナ様へ献上されました。私も生贄に選ばれたいのですが、これも生まれ持った業! 今の私では無理でした。これを奪い去る魔女に対応していたところですよ。理由もわかったと思うのでチエミ様をお渡し願えるかな?」


 全く納得出来ない理由だった。


「何が優秀?」


「だから、血ですよ! ルナ様は、様々なテストを行なって優秀な血を求める!」


「生贄って実際どうなるんですか?」


「そんな事も知らないのですか? ルナ様に謁見出来るのです!」


 駄目だ……ついていけない。どうする?


【昇がルナ様の場所を聞いて届ける事にすれば良いのでは?】


 そ、そうだな。私もそう思ってたんだよ!


【昇の思考は、筒抜けですよ。嘘は駄目です】


 インディが少し意地悪である。


「わかりました。私に出会った事をルナ様へ伝えて『私は、もっと古い時代から来た。敵対する気は無い。会いに行くから待っててくれ』と伝言を頼みます」


 その言葉を聞いた瞬間、ロメロが膝をついて頭を下げた。それに習って他の人も頭を下げる。


「大変失礼しました。必ず伝言をお伝えいたします。伝説の始祖様」


 なんか、また勘違いされてる気がする。


「伝説の始祖?」


「また、お戯れをしないでください」


 あえて勘違いさせた方が良いのか?


「ルナ様は、何処にいるんだ?」


「デシュタール帝国の王都にあるルナレクイエム神殿にいらっしゃいます」


 お、ちょうどよいな。


「わかった必ずチエミを連れて伺うよ」


「わかりました」


 頭を伏せたまま、ピクリともしなくなった。

 あとは、チエミから事情を聞こうと考えて、川に沿って装甲車を全速力で追うことにした。


 私が消えてから数十分後にロメロが顔をあげた。


「本当にルナ様が、求めていた始祖が現れるとは! 伝説に我らは参加するのだな!アハハハハハ……」

 ロメロの笑い声が響き渡る。

用語説明


昇の裸像

祈る型で金属のように眠っていた昇の裸像。

長い年月で、有名な美術品となっていて最低でもソックリな偽物(レプリカ)が4体以上存在する。


デザートイーグル .50AE

大量生産されているハンドガンの中で最大級のデザートイーグル。

全長は269mm、重量はなんと2053gもあるとても大きな拳銃です。


銃の安全装置

通常、ハンマーやストライカーがコッキングされた状態で機能するようになっており、トリガー機構をロックして暴発を防止する。


オーパーツ

発見された場所や時代とはまったくそぐわないと考えられる物品を指す。 英語の「out-of-place artifacts」を略して「OOPARTS」とした語で、つまり「場違いな工芸品」という意味である。


ソフトポイント弾

被甲された弾丸の先端だけ鉛をむき出しにした弾丸で、ターゲットへの侵入力が高く、尚かつ先端が潰れ易いので高いマンストッピングパワーを持つ。


フルメタルジャケット弾

弾体の鉛を銅など他の硬い金属でほぼ完全に覆った弾丸。

完全被甲弾。


クロック

コンピューターで,デジタル回路の同期をとるための周期的信号。この周波数をクロック周波数といい,その値が大きいほどコンピューターの実行速度が速い。


司祭

司教・司祭・助祭(じょさい)の間の位。聖職者として生涯独身で過ごし、一生を神に捧げます。

ミサを執行し、洗礼などの秘跡を与え、説教をするなど教会の儀式・典礼をつかさどる。

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