001 最後の睡眠
(絵:森山イツキ)
西暦2057年
病院のベットに横たわる30歳の男がいた。
薬の副作用で身体は常に激痛を発生していた。
「イタタタァ」
少し動いたら彼の全身に痛みが走った。
彼の名前は白鳥昇である。
先程、余命宣告一ヶ月の末期癌を宣告されていた。
唯一の希望は、未来の医療による回復であろうと考えていた。
彼の手元には、冷凍睡眠の臨床実験参加の為の書類があった。
家族に反対されている内容であったが、被験者の欄にサインをして、ため息をついた。
「死にたくないな」
ぼそりと独り言を言うのであった。
ごく平凡な家庭に生まれて平凡に過ごしていたが、29歳の時、仕事中に気分が悪くなり病院へ入院した。癌だと診断されて1年間病気と戦ってきたが、肉体も精神もボロボロであった。
彼は、未婚だしやりたい事が山ほどあった。
今日がちょうど30歳の誕生日である。
飲んでいた痛み止め薬が切れて、彼の全身に耐えるのが辛い痛みが襲ってきた。
「これを飲んだら、次に起きる時はいつなのだろう?」
痛み止めを飲んで、副作用の為に寝てしまった。
書いた書類は、病院の管理システムに送られて行く。
彼の病室が開き、白衣の集団が眠っている彼を連れて行った。
(絵:森山イツキ)
用語説明
冷凍睡眠
人体を低温状態に保ち、時間経過による老化を防ぐ装置、もしくは同装置による睡眠状態。肉体の状態を保ったまま未来へ行く一方通行のタイムトラベルの手段としても用いられる。
欠点は、瞬時に冷凍しなければ液体が個体になる際の結晶の形により組織を傷つける時がある。
解凍時に、一気に解凍しなくては、酸欠による脳障害を起こす可能性が高い。
白鳥昇が実験に参加した時は、瞬時に冷凍する技術はあったが、解凍する技術力はなかった。
末期癌
自分の細胞の遺伝情報が壊れて、正常に分裂や死滅する事が出来ない細胞が、全身に増殖する事。自分の細胞である為に、白血球などの自己免疫で倒すことも出来ずに、無限に増殖して多臓器不全を引き起こす。