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第三十三幕 ヒューペリオン‐滅びの太陽‐

 核攻撃を受け止めて、それを跳ね返した後、しばらくして、サウルグロスは周囲の異変に気付く。

 ……何か、酷く嫌な予感がする。

 だが、この暗黒のドラゴンは、そのようなものは、何らかの雑念だろうと振り払った。


「定められた命を生きる下等なゴミ共が。この俺に貴様らの刃など届きはせぬ。このルクレツィアはこの俺を高める為の(にえ)に過ぎない。もう諦め、絶望の淵に向かうべきだな」

 サウルグロスは静かに、周辺に暗黒の球体を次々と生み出していく。


 先程から、ヒドラと闇の天使の二人の攻撃が止んでいる。


 最初は雨だった。

 ぽつり、ぽつり、と降り注いでいく。


 その後で、空に日の光が迸っている事に気付く。

 サウルグロスは太陽を見る。

 竜王イブリアが創造したものだ。

 このルクレツィアの守るべき象徴。


 サウルグロスは空へと向かっていく。

 あの太陽を我が手にして、この世界を滅ぼす事にしよう。


「さて。お前達の結集された力というものは、この程度のものだったか」

 サウルグロスはほくそ笑む。


 デス・ウィング。

 ジャレス。

 彼らは、サウルグロスに接触してきた。

 もし、この世界を滅ぼした後に、彼らが生き残っているのならば、再び、対峙しても良いかもしれない。だが、それはメインディッシュでは無い。


 ルクレツィアに近接している異世界である『ボルケーノ』の大火山の頂上には、黒き鱗の王と呼んだオーロラという生物変化の魔力が存在した。

 オーロラの性質はよく理解出来た。そして、それも手に入れた。

 

 そして、ルクレツィアには、竜王が作り上げた太陽がある。

 サウルグロスは空へと昇っていく。


 ふと。

 彼は気付く。

 

 太陽が二つに分かれている事に。

 

いや。

 いつの間にか、もう一つ太陽があった。

 それは、まだ小さなものだ。だが、徐々に、巨大なものへと変わっていく。


「何なのだ? あれは?」

 サウルグロスは首を傾げた。

 ……どうせ、敵の最後の悪足掻きか何かだろう。

 サウルグロスは、気にもせず、天へと昇っていく。



 ミントの杖に無数の命が凝縮されていき、天にもう一つの太陽が形作られていた。

 イブリアが、ミントの手に、自らの手を添える。


「では。落とすぞ」

 彼は告げる。

 彼の娘は頷いた。



 太陽がゆらめき、急速にサウルグロスの下へと落下していく。

 サウルグロスはそれを見て、ふと思い出す。


「なんだ? あれは? ……そうか、ヴァルドラを倒したものか?」

 彼は内心でほくそ笑む。

 ヴァルドラも、あの一撃では死ななかった。

 ならば、自分ならば簡単に退けられるだろう。


 だが……。

 昨日見た、それよりも遥かに巨大だ。

 そして、高密度のエネルギー体と化している。


「面白い」

 サウルグロスは落下してくる太陽目掛けて、自ら突き進んでいく。

「そのようなもの、我が手でかき消してやろう。そして、俺は竜王の太陽の力を手にする。滅びゆく者達の最後の咆哮を踏み躙り、そして嘲り笑ってくれようぞっ!」

 暗黒のドラゴンは高らかに告げた。


 太陽は彼の全身を焼いていく。

 サウルグロスは哄笑していた。



 竜王イブリアは変身していく。

 ぼろ布を纏った人間の青年から、別の姿へと変わっていく。


 イブリアは巨大なものへと変わっていった。

 彼の背中から翼が生える。彼の口は裂け、首は伸びる。

 そして、イブリアは元の太陽のごとき輝きを放つ黄金の体躯のドラゴンへと変化していく。


「この私も力を貸す。娘よ、そのまま杖を離すな」

 イブリアは告げる。

 ミントは頷いた。

「はいっ!」

 ミントの杖に、新たにエネルギーが注がれていく。


「かつて、私がこの世界に住む者達の終わる事の無い戦乱に嫌気が差し、一度、この世界を滅ぼした力だ。『ヒューペリオン』。何処か別の世界において、太陽の神を現す名だ。この力を凝縮し、かつて行ったルクレツィア全土ではなく、あの暗黒のドラゴンに集約させて撃ち込む。ミント、やるぞ」

「はいっ!」

 なおも、ミントが生み出す太陽の魔法には、ルクレツィアに住まう者達、みなの魔力が、生命エネルギーが集まっていく。そして、更に、イブリアのヒューペリオンという力が加わる。

「二人で、あれを討つぞ」

「いいえ。このルクレツィア、みなの力でですっ!」

「そうだったなっ! では、力を解き放つっ!」


 竜王は咆哮する。


 砂漠の大地に咆哮は響き渡っていく。

 それが引き金だったのか。

 ミントの生み出した太陽が、蒼く、輝き出し、太陽は空全体を覆っていく。



 ……なんだ……?

 サウルグロスは、少しだけ。

 ほんの、少しだけ、恐怖を覚えた。


 空全体が、サウルグロスへ向かって落下していく。

 それは、とてつもなく巨大な太陽だという事に気付くのは、数秒掛かった。


「ふん。このようなものっ!」

 太陽は揺れる。

 空全体が曇り始めていく。

 無数の雲と照射される光が、数瞬の間だけ、巨大な太陽を明滅させかき消す。その数秒間があれば、充分だった。

 サウルグロスは暗黒の魔力を球体状にして、その攻撃を消し飛ばすつもりだった。

「貴様らの最後の悪足掻きに付き合ってやろうっ! そして、この景色も、もう見納めだ」

 暗黒のドラゴンは、作り出した闇の魔法を、落下してくる巨大な太陽へ向けて解き放った。太陽は、サウルグロスの放った魔法によって天空へと弾き飛ばされようとしていた。空全体が消し飛ばされようとしていく。


 サウルグロスは嘲笑の声を上げ続けていた。

 竜王の太陽は、弾き飛ばされていく。

 暗黒の闇によって、食い潰されていく。

 もはや、この邪悪なドラゴンを止める術は無かった。もはや、誰も彼を討つ手段は無かった。サウルグロスは、落ちゆく太陽を消し飛ばした後、巨大な唸り声を上げる。もう、この世界に用は無い……。


 彼がそう思った、次の刹那。

 何かが、彼の背後から落下を始めていた。


 サウルグロスは振り返る。

 それは、先程と同じ巨大な太陽だ。空全体が落ちてくるのだ。

 もはや、回避は間に合わなかった。


「なん、だ……っ!?」

 サウルグロスは唸る。


 そうか。

 太陽は二つ、いや……三つあった。


 一つは元々、イブリアが作り出したルクレツィアを照らす太陽。

 二つ目は、サウルグロスを討つべく生み出された、ヴァルドラを倒した太陽。そして、今回はそれよりも遥かに高威力のものだ。もはや、別モノの力と言ってもいい……。

 そして、三つ目の太陽……、サウルグロスが暗黒の魔法で弾き飛ばしたもの……。


 三つ目の太陽は……。

 幻覚だった。

 幻影で作り出されたものだった。



 メアリーは、空へ向けて両手を広げていた。

 ミントが、そしておそらくは竜王イブリアが生み出した太陽の魔法を、そっくりそのままコピーしたのだった。もっとも、外装だけで、威力の質は本物の太陽には及ばず、あくまでも幻ではあったのだが。


 だが、効果はあった。

 それも、確実なまでに。


「これで、私の役目は終わりかしら?」

 メアリーは呟く。

 背後では、ルブルが両腕を組んで、それを見ていた。

 メアリーは大地に片膝を付ける。

「正直、昨日の連戦と……キツいわね。昨日の疲れがまだ癒やされていない。私はこれであの魔法に近いものを複製する為に、膨大な体力を使った……。ミント、ちゃんと仕留めるのよ……」

 メアリーは生み出した斧を杖代わりにして、何とか倒れて気絶するのを防ぐ。



 サウルグロスの全身に、かつてルクレツィア世界を滅した魔法が浴びせ続けられていく。彼はその攻撃を逃れる事も構わず、ひたすらに耐え続けるだけだった。

 咄嗟に作った防御魔法も、簡単に破壊されてしまった。


 しばらくして、サウルグロスは大地へと落下していく。

 彼の全身は焼け焦げ、皮膚も肉も、全てが消滅していく。


 数分、十数分程度の出来事であっただろうか。


 砂煙が、静かに、空へと舞い上がっていく。

 その一個の闇は、静かに呼吸を止める。


 邪悪なる闇のドラゴン、サウルグロスは。

 灰燼の砂漠と化した大地に、黒焦げの屍となって横たわっていた。



挿絵(By みてみん)


ミント



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