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第三十二幕 サン・ブレード‐裁きの太陽‐


 ……馬鹿じゃないのかっ!?


 真っ先に、その攻撃に勘付いたのは、空を飛び竜巻と雷鳴により、暗黒のドラゴンを討とうとしている空飛ぶヒドラ、ラジャル・クォーザだった。

 彼は四つの頭で、驚愕し、怖気を覚え、怒りに震え、そして……呆れ果てた。


 ミズガルマと、彼と結託している武器商人のミランダの攻撃が一体、何を齎すであろう事を、ラジャルは即座に理解したからだ。

 

 空を飛び、全身全霊の魔法により、滅びのドラゴンを討とうとしているシルスグリアも、それに気付いた。


「私達も巻き込むつもりか!?」

 シルスグリアは、一旦、攻撃の手を止め、空高く舞い上がっていく。

 二人のギルド・マスターは、それぞれ、翼を広げながら、その攻撃の射程の外側へと退避する事を決める。


 数分後の事だった。


 帝都の都市より、黒き砲撃が、サウルグロス目掛けて撃ち込まれていく。

 辺り一帯には、キノコ雲が舞い上がっていく。


 オーロラにより変化した怪物達は、次々と、その砲撃によって消し飛ばされていく。そして、帝都の都市も、爆炎によって燃え盛っていく。……今、どれ程、生存者がいるのだろうか。生存者なき国家に何の意味があるのか。ミズガルマ達はそれを理解しているのであろうか?


 そして、ラジャルとシルスグリアの二人は、彼方を見る。



 そこには、何発もの核の攻撃を受け止め、そして耐え切ったサウルグロスの姿があった。


 滅びのドラゴンは暗き煙の中、無傷で天空に浮かんでいた。



「小細工はこの俺には効かない」

 彼は鼻で笑う。


「だが、素晴らしい威力だった。素晴らしいエネルギーだ。おそらく、噴出している物質の中には邪悪な毒が撒き散らされていくのだろうな。この俺もその力は欲しいものだ。だが、お前達に勝機は与えない」

 サウルグロスは、両手に、核のエネルギーを握り締めていた。

 球状に受け止めた攻撃を丸めていた。


「愚かなっ! 愚か者共めっ! この程度の力で、この俺を討ち滅ぼそうというのかっ!」

 サウルグロスは、手にしていた核のエネルギーを。

 そっくりそのまま、ミランダの下へと投げ返す。



 ミランダは跳ね返された、核攻撃のエネルギーを眼にしていた。

 彼女の背後には、パラダイス・フォール達の宮殿があった。帝都の腐敗した貴族達の宮殿、金融屋や武器商人達の談合に使われる場所。

 

 ミランダの造り上げた怪物である、クレデンダの群れが核爆発のエネルギーによって宙へと分解されていく。ミランダは真正面から、跳ね返された攻撃を受け止めていた。



 ロギスマは息を飲む。

 彼は空高く舞い上がり、跳ね返された攻撃を何とか避けていた。


 ミズガルマは核の炎を弾力性のある肉体によって、何とか防いでいた。

 ……だが、他の悪魔達の大半は核爆発に巻き込まれて、炎に焼かれていった。


「ミランダ……っ」

 ロギスマは言葉を失っていた。


<彼女は逝ったか……>

 ミズガルマは何処が声帯か分からない声で、呟いた。

 そして、ルクレツィア中でマッチポンプを行っていた大巨人の軍団は、いとも容易く壊滅し、炎の中、塵へと変わっていくのだった。



「お前達が『裁きと終末の炎・太陽と稲妻の祝祭』と呼んでいる魔法だが。これは、ルクレツィアに浮かぶ太陽の力を借りる魔法だな」

 竜王イブリアはミントに告げる。


「私はこの力を簡潔に『サン・ブレード』と呼んでいる。太陽の刃だ。ミント。命には、それぞれのエネルギーが存在する。命とは太陽の恵みそのものだ。私の齎した太陽は、この世界に住む者達全ての生命エネルギーと繋がっている」

 イブリアは、力に関して解説していく。



「そして、お前に授けたい。その力の先にあるものをだ」

「その先にあるもの……?」

「『ヒューペリオン』と私は呼んでいる。かつて、この世界全体を凍土の砂漠へと変えた力だ。この力ならば、あるいは、あの暗黒のドラゴンを討つ事が可能かもしれん……」

 イブリアに言われ、ミントはしばし、眼を閉じる。


 ふと。

 二人の下に、幾つもの空飛ぶ者達が集まってきた。

 ドラゴン達だった。

 ザルクファンドが、説得した者達だ。


「サウルグロス。滅びのドラゴンは、我らの同胞を利用した。今や奴はこの世界全てに住まう者の敵。ザルクファンド殿の言っている事は本当だった。奴に利用され、戦死した者達を弔う為にも、我らはお前に力を託す」

 ドラゴンの一体が、ミントに告げる。


 ミントの周りに次々とドラゴン達が集まってくる。

 彼らは、己が持つ強靭な生命エネルギーと魔力をミントに預けていく。


「ええっ。共に、このルクレツィアを守りましょう」

 ミントは杖を天空に掲げる。


 大地が、自然が、空が、彼女の呼び掛けに応える。

 ミントの杖に、強大なエネルギーが集まっていく。

 この世界全体の者達が、現れた脅威を、全力で倒そうと願っているのだ。


 空に小さな太陽が新たに創られていく。


 戦いの最中、最初に気付いたのはヒドラのラジャルだった。

 彼は自身の魔力を、その太陽に分け与える。

 そして、その姿に気付いた、彼の配下達も、次々と太陽に自身の魔力を分け与える。


 そして、闇の天使シルスグリアも気付く。

 彼女も槍の先から、その太陽に向けて、自身の魔力を渡す。

 シトリーを含めた、彼女の臣下達は、彼女に見習い太陽に魔力を分け与える。


 ミノタウロスのハルシャが、小さな太陽に気付くのにも時間が掛からなかった。彼もまた、手にした戦斧を掲げて、ミントの生み出した魔法に、自身の魔力を渡す。

 そして、盗賊の頭であるガザディスも、大剣を空に掲げた。


 宮殿の中だった。

 クレリックのギルド・マスターであるサレシアと、ドラゴン魔道士のザルクファンドが、天空に向かって自身の魔力を託していた。


 太陽は次第に巨大に膨れ上がっていく。


 宮殿の中に退避していたジェドは、みなの姿を見て、魔剣『他人の死』を取り出す。彼は自身の生命エネルギーを使って死の斬撃を繰り出す“他人の死”を空へと向けた。途端、ジェドは極寒の寒空の下に裸で立っているような気分になった。他人の死が、彼の生命エネルギーを吸い取っているのだ。ジェドは歯を食いしばり、他人の死を空へと掲げる。ジェドの生命エネルギーは、小さな太陽に吸い込まれていく。…………。


 この戦いに参加し、暗黒のドラゴンを討たんとする者の多くが、新たに現れた太陽に力を渡していた。


 ただ、ルブルとメアリーの二人だけは、しばし太陽に眼を背けていた。


「ねえ。ふふっ、あのクレリックに貴方は力を貸さないのかしら?」

 魔女ルブルは、自身のメイドに訊ねる。

 メアリーは首を横に振る。

「あれが成功するか分からない。私達は温存しなければ」

 メアリーは、一度、あの魔法を防いでいる。

 更に、昨日の戦いで、あの魔法でサウルグロスの配下である殲滅のドラゴン、ヴァルドラを倒し切れなかった事も記憶に新しい。


「私達は、あの魔法でダメージを与えられなかった時に、助力しましょう」

 メアリーはそう述べた。


 裁きの太陽は、滅びのドラゴン、サウルグロスを討つ為に、確実に巨大な球体へと膨れ上がっていった。


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