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第二十五幕 オーロラとドラゴン。2


 ミントは呼吸を整える。


 太陽が沈む前に、魔法を撃ち込まなければならない。

 彼女の手にしている杖には、大量の魔力が注ぎ込まれていく。


 ふと、声が聞こえた。

 最初は、幻聴だと思った。

 だが、確かに、そこに気配があった。


「苦戦しているのだな?」

 ミントの背後で、とても穏やかな声が聞こえた。

 彼女は振り返る。

 そこには、誰もいない。


「お前は、いつか、この私と会う日を待っていた筈だ。お前は、この私から、力を借りたいのだな?」

 張りの良い声だ。

 ルブルとメアリーを見る。

 メアリーは、魔法を使う事に集中するように指示してきた。


 ……どうやら、メアリーにも、ルブルにも、この声は聞こえていない。

 ミントにだけ、聞こえているのだ。


「貴方は、誰?」

「私か……」

 声の主の姿は見えない。


「私の名は、竜王イブリア。お前は、どうやら、私の血が流れているみたいだな?」

「…………、お父さん……?」

 ミントは訊ねる。


「そういう事になるな。お前は、この国の現国王バザーリアンの血も流れている。というよりも、現国王が何らかの形で、私の血を手に入れ、邪悪なる呪法によって、国王の男の精と私の血を混ぜて、お前の母親を孕ませたみたいだな」

 イブリアと名乗った声は、全てを知っているみたいだった。


「バザーリアン・ルクレツィア……。奴は、私の父親なんかじゃない……っ! ……でも、貴方からは、強い血の絆のようなものを感じる。やはり、貴方こそが、私のお父さんだと思う」

「なら、私も認めよう。お前を娘と……」

 声はとてつもなく、穏やかだった。


「処で、娘よ。お前の名は?」

「ミント・シェレディア。母は、バザーリアンの愛人であり、後に殺害されました……」

「そうか。ミント、お前にまず聞いておきたい事があるが……」

「はい。なんでしょうか?」

「ドラゴン化を行ったな?」

「はい……。バザーリアンの正式な子息、ジャレスとの戦いで……」

「その感覚を覚えているか? お前の中に眠っているのは、私の血だ。お前は人の形をしているが、半分は私の力を有している。お前ならば、このルクレツィアを正しき道に導く事が出来るかもしれぬ」

「…………、正しき道……?」

「私はこの帝都の腐敗を見てきた。ギルド・マスターのヒドラに言われてな。そして、一度は、このルクレツィア全土を、再び、灰燼(かいじん)(ちり)へと帰そうとも思った。だが、おそらく、まだ人々の中に正しき道に向かおうとする意志はあるのかもしれない……」

 声は、徐々に、形を伴っていく。


 それは、幼い人間の少年の姿をしていた。


「貴方が、竜王イブリア?」

 彼女は訊ねる。

「この姿は、お前にだけに見える幻影だ。私も、共に戦おう。この迫りくる邪悪な者から。……私は、邪竜サウルグロスを見てきた。あれは、このルクレツィア全てを彼が力を得る為の道具へと変えるつもりだろう。この世界とは違う、別の世界からやってきた邪悪なドラゴン……。私も、奴と対峙するつもりだ」

 そう言うと、少年は、右手を空へと向かって振り翳す。


「少し手助けをする。あの塔の上のドラゴンの使う次元歪曲の力。あの力を封じてやる。ミント、その後は、お前次第だ。お前が私のもたらした、あの空の太陽の力を、あのドラゴンへと撃ち込むんだ」

「……はい、……」

 ミントは、言われるままにする。


 ミントの全身から、凄まじいまでの魔力が迸っていた。


 何か、弧円状の紅き線が、ヴァルドラを過ぎ去る。

 すると、ヴァルドラは、少し焦ったような表情を浮かべていた。


<何をした!? この俺の防御壁を破壊したというのか!?>

 メアリーの全力の幻影魔獣の力を使ってもなお、マトモにダメージを与えられなかった、ヴァルドラがしばし困惑していた。


<まあ、よい。お前達は強い。故に、俺は、全力でお前達を打ち倒してくれようぞっ!>

 意気揚々と、殲滅のドラゴンは叫ぶ。


 メアリーは、再び、立ち上がりながら、幻影の実体化を行う。

 彼女は、再び、何らかの幻影を生み出そうとしていた。


「ルブルッ! クルーエルはいる!?」

 メアリーは魔女に訊ねる。


「ええっ。私と共に、ずっといるわっ!」

 魔女は叫ぶ。


「ミント。貴方のその……、ルクレツィア最強の魔法……。それを、奴に撃ち込んでっ!」

 メアリーは叫ぶ。


 ミントの魔法は、既に完成していた。


 巨大なもう一つの太陽が、ヴァルドラの真上に生まれていた。

 ミントは全身全霊で、それをヴァルドラへと投げ落とす。

 ヴァルドラは、本能的に危険を感じたのか、塔からはばたこうと、翼を広げた。


 だが。

 メアリーのドラゴンサイズまで巨大化した、幻影魔獣ソウル・ドリンカーの両腕によって、両の翼がつかまれる。


 そして、ルクレツィア最大の魔法は、ヴァルドラの上に落とされる。

 塔が焼け焦げて、ガレキが、地面へと落下していく。


 ミントは、地面に倒れた。


 ヴァルドラは、灰燼の炎の中から、なおも三人へと吐息を吐き散らそうとしていた。だが、明らかに、深いダメージを負っているらしく、輝く灼熱の吐息を吐く時間が遅れた。

 ヴァルドラの背後には、虚ろなスフィンクスの幻影が浮かんでいた。

 その背中には、小さな男の子の人形を手にしたルブルが乗っていた。


「やれ、クルーエル」

 男の子の人形からは、白いガスのようなものが散布されていく。

 それが、ヴァルドラの全身に降り注がれていく。


 やがて、ルブルは地面へと着地する。

 同時に、メアリーが生み出した、スフィンクスの幻影も消滅する。メアリーも、そのまま、地面に倒れて、ミント同様に、気を失う。


 ルブルは、焼け落ちていく塔を見上げていた。


 かつて、強大なドラゴンだったヴァルドラは、巨大な石の彫像となって、塔の上に鎮座していた。やがて、塔は崩れ去り、ヴァルドラの肉体も、落下の衝撃で、粉々に砕け散っていく。


「ふう。おいしい処、私が持っていったかな? あ、やったの、私の弟のクルーエルか」

 そう言いながら、ルブルは鼻歌を歌う。


 後には、完全に体力を消耗し、大地に突っ伏して気を失っている、ミントとメアリーの姿があった。


「さて。この辺り一帯が炎に包まれる前に、この子達、助けないとねえ? もっとも、私がわざわざ助けなくても、何となく、運やら何やらで、生き伸びそうだけどね?」

 そう言いながら、ルブルは、メアリーの下へと近付いていく。


 …………、そして、ルブルは……。

 メアリーを肩に背負った後に、躊躇なく、気絶したミントを見捨てて、その場から逃げ出す事にした。ミントの全身は、家屋だったものの残骸から発せられる炎に巻かれていく。


「何かが、来るわ……っ!」

 ルブルは叫ぶ。


 それは、オーロラによって、生まれた怪物だった。

 邪悪なデーモンの姿を更に、変形させて生まれた四足歩行の化け物だった。


「リコット……?」

 メアリーは呟く。


「……覚えているわ。確かに。あいつがオーロラと共に、私達の炎の城に……、そして、私のアンデッドがオーロラの餌食になって……」

 魔女ルブルは、悔しそうな顔をしていた。



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