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第二幕 死霊術師ルブルと、憎悪を撒く者メアリー。 5

「さてさてぇ」

 メアリーは微笑む。

「今、私は貴方達をどうやって可愛がろうか考えている処なのよ。ミント、だんだん貴方が憎くなってきたじゃない、さっきよりも、ずっと、ずうっとね?」

 捕食するように、メイド姿の女は四名を眺めていた。

 ジェドは恐怖の余り、剣の柄を離していた。

 剣が胸を貫いたまま、メアリーは四名を、いや……、ミントを舐めるような視線で見ていた。

「ミント。これの代償が欲しいわ。この彼が私に向けた刃の代償がね?」

 鉈の刃は、ミントだけを狙っていた。

 他の三名には、実際、余り興味がないのだろう。

「ミント、ふふっ」

「なによ…………」

 鉈は振るわれる。

 ミントのクレリックの聖衣が切り裂かれる、彼女の両脚から鮮血が吹きあがる。

 肉片の一部が、鉈に付いていた。

「両腕にしようと思っていたのだけど、脚もいいわよねえ? 貴方の両手を釘で壁に張り付けて、脚は切り離して、別々に飾ろうかしら?」

 メアリーの瞳は爛々と輝いていた。

 ミントは苦悶の表情に満ちていた。


 突如。


 メアリーの全身が火ダルマになる。

 転がっていたミントの杖から発射された、炎の球によって、彼女の全身は焼かれたのだった。ギルドのメンバー達は、それぞれお互いを抱えるように、この場を離れる。


「成る程ね…………」

 メアリーは胸に突き刺さった、剣を抜き取る。

 胸から血が、どくりどくりと流れ続けていた。


「犯して、愛するのは、まだ先にしてあげるわ、ミント」

 全身が焼け爛れながら、メアリーは笑っていた。

「もう少し、もう少し、熟れるのを待つ事にするわ」

 彼女は、一瞬、恍惚としたような顔になる。

 そして、深い憎悪の篭もった瞳へと変わる。


「あのクサレ巫女……。ドラゴンの下僕のグリーシャ。奴のせいで……、私は力をかなり消耗していたわ……。本当はとても疲れていたの。今度は全力で愛し合いましょう? ……貴方がもう少し、強くなってから」

 メアリーは、巫女の事を思い出すと、怒りの表情を抑え切れそうにないみたいだった。



 グリーシャの能力の全貌が分からない……。

 メアリーは悩んでいた。


 幻影を使える自身の力が封じられてしまっている。

 だが、鉈も幻影だ。実体化した幻影だ。

 グリーシャは、自身と戦う得物は封じないと言ったか…………。

 

 もし、自分の力が封じられてなければ、難なくあの四人を弄び、殺害出来ただろう。



 光の中だった。

 ミントが遠く離れていく。

 彼女の首が突如、ズレて落ちる。彼女の身体がマネキン人形のように崩れていく。


 ジェドはベッドから起きる。

 ボロボロだった。

 身体の傷は打撲や擦り傷が多かったが、それ程のダメージは受けていない。


 アダンの方が負傷が酷く、左肩の肉が深く抉れ、更に骨を外されていたらしい。


 みな、思ったより傷は深くなかった。

 だが、心は満身創痍だった。


 魔女ルブル。

 そして、彼女のメイドをしているという女メアリー。


 化け物二人……。


「とにかく、全員が無事で良かったです」

 ミントは椅子に座り、微笑んでいた。


「ミントさん…………」

 ジェドは、握り拳を作る。

「なんでしょうか?」

「俺に……、魔法を教えてくれませんか?」

 ジェドは自らの不甲斐無さを嘆くように言った。


「俺は貴方のお役に立てる程に、強くなりたい……」

 ミントは笑う。

「はい、喜んで。ただ、少しみなさんにお話をしておこうと思います」

 彼女は、陰鬱そうな顔をする。

 他の三名は、少し困惑したような顔になった。


「もしかすると、私達ギルドは、他のギルドの者達に“はめられた”のかもしれません」

 ミントは、少し苛立ちを隠せない、といった顔をしていた。

「はめられた…………?」

「ええっ、…………。私達を他のギルドの人達が踏み台にする為に使おうとしたのかもしれません……。切り込み隊長として使って、様子見をしようと……。私達を魔女に殺させる事も考えていた可能性だってあります…………」

 それを聞いて、ジェドは項垂れる。

「…………、気分が悪くなりましたね。外に出て、少し、美味しいものでも食べに行きましょうか」

 ミントはそう言うと、明るい笑顔を作った。



 四名は、ルクレツィア帝都の南にある、商店街へと向かった。

 沢山の露店が並んでいる。

「この辺りにある。パフェかクレープでも食べましょうか。様々な種類のものがあります。その後、レストランでまとまった食事でもしましょう」

 ミントは笑った。

「パフェに、クレープ、ですか…………」

 ジェドは笑う。

 女の子らしいな、と、彼は思った。

 後ろでは、アダンとラッハが辺りにある食べ物屋を物色して回っていた。

 ……ミントさんと二人きりになれたら、いいなあ。

 ジェドは、そんな下心をふつふつと湧き上がらせていた。あの残酷な魔女とメイドとの戦いの事をすぐに忘れつつあった。


 商店街を歩いていると、何やら騒ぎ声がする。

 野次馬達は、その騒ぎ声を聞いて、集まっていた。観戦しようとしているのだ。

「また、……争い事みたいですね……」

 ミントは、嫌な顔をしていた。

「ほんと、あいつらっていつだってそうだな……」

「争う為に、争っているんだ……」

 アダンとラッハも、頷く。

「ですね。……私達のギルドは、他ギルドとはなるべく争う事は止めましょう……」

 ミントはクレープ屋を見つけて、他の三名に声をかけていた。


 ………………。

 ルクレツィアには、様々なギルドが存在していた。

 戦士達のギルド、クレリックのギルド、そして王族を護衛するギルドなどなどだ。だが、基本的にギルド同士は連盟を結んでいるわけではない。

 そして、冒険者ギルドも存在する。

 主な仕事はモンスターの討伐や、特殊な鉱石や薬草の探索などだ。そして、冒険者ギルドの者達は、自己顕示欲が強く、英雄になろうと必死だと聞く。彼らは、他のギルドの者達からは、ある種のやっかいものとして扱われているみたいだった。


 ギルド同士は対立している。

 そもそも、様々な陰謀もせめぎ合っている。


 帝都の街中で、ギルド同士の対立の光景を見るのも良くある事だった。


 今日は、巨大なトロールの戦士と、人間の剣闘士同士が争いあっていた。何でも、砂漠のサンド・ワーム討伐においての、報奨金の取り合いが原因らしい。


「争い事とは愚かな事です」

 ミントは言った。

「みなお互いを大切にするべきだと私は思います」


 帝都は平和では無い。

 それが、ミントにとって悲しい事実みたいだった。

「ミントさん……」

 ジェドは思いきって言おうと思った。

「えと、あの、俺、貴方をお守りしたいんです」

「はいっ! ありがとう」

 ミントは笑った。

 その笑顔を見て、ジェドは頭の中で、よこしまな考えを巡らせてしまい、思わず彼女の胸に頭から飛び込みたくなっていた。彼は鼻の下を伸ばしていた。


 雑踏の中。

 二人の背後で、野次馬達が騒ぎだす。

 ジェドとミントは、彼らの言葉を嫌でも耳にする事になった。

 野次馬達の何処か、面白そうな声は、嫌でもジェドの心を引き裂く事になった……。


「アレンタの村が何者かによって破壊されているらしいぞっ!」

「住民が虐殺されてまわっただとかっ!」

「今から調査達が派遣されるそうだっ!」

「まだ巨大な怪物がうろついているそうだぞっ!」

「兵士達が応戦しているそうだが、まるで歯が立たないそうだっ!」


 ジェドは、騒ぎを聞いて、呆然自失となっていた。

「ジェド、アレンタは、貴方の住んでいた村でしたね!?」

 ミントが叫ぶ。

「は、はい…………っ!」

「機関車で、すぐに駆け付けてくださいっ! 私達も共に向かいますからっ!」

 彼女は、頑なに、少年の手を握り締めた。



「グリーシャ。バラバラにして飾ってやる。何度も、何度も、生き返しては殺してやるわ。永遠の凌辱を与えてやる」

 メアリーは自身の力が戻らない事に対して憤り初めていた。

「何をされたの? メアリー」

 ルブルは心配そうな顔をする。

 メイド服の女は、火傷痕の顔を手袋でなぞりながら微笑する。


「分からないわ。……ただ、身体が重いの。いつの間にか、封じ込められていたんだわ」

 …………、だが、その笑いは、激しい憤激によって崩れていく。


「イブリアもよ。殺してやるわ。肉から皮膚を削ぎ落して、骨から肉を切り離してやる。全身のね。ねえ、私はドラゴンの内臓や脳味噌を見てみたい。彼らに憎しみの祝福を与えてやるの」

 メアリーは火傷痕を掻き毟り続けていた。

「ああ、美しい憎悪。どうせなら、ミントと憎み合いたいわ。私はグリーシャはタイプじゃない。ああ、とっても屈辱…………っ!」

 彼女は怒りに打ち震え続ける。

 それは、彼女にとっては、あってはならない事だった。


「ああ、ミント、ミント、ミント、ミントッ!」

 彼女は、クレリックの少女の血液を沁み込ませた布を嗅ぐ。

「愛しいわ。早く、彼女の哀願を聞きたい。彼女からの憎悪の恩寵を受けたいの。身体を刻まれて、アンデッドにされて、ミント、彼女が私を憎み続ける瞳が早くみたい、呪詛の言葉が早く聴きたいのっ!」

 メアリーは狂乱したように、言葉を紡ぎ続ける。


「ふふっ、駄目よ、メアリー。まだまだ美味しいパイは焼き上がってないわ。美味しいアップル・パイを作る為に、林檎の収穫時期を間違えては駄目」

 ネクロマンサーの女は、自らの恋人を慰めていた。

 ルブルはメアリーを後ろから抱き締める。



挿絵(By みてみん)


ミントVSメアリー

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