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第二十二幕 ギルドの円卓

『帝都護衛軍のギルド・紅玉業』 ギルド・マスター、ハルシャ


『自然崇拝のギルド・天空樹』 ギルド・マスター、ラジャル・クォーザ


『盗賊団のギルド・邪精霊の牙』 ギルド・マスター、ムスヘルドルム


『クレリックのギルド・黎明棚』 ギルド・マスター、サレシア


『悪魔崇拝のギルド・呪性王』 ギルド・マスター、シルスグリア、ゾア・リヒター


『魔女』 ルブル、メアリー


『帝都ルクレツィア』 バザーリアン、ジャレス



 ルクレツィアへと近付いてくる、邪悪なドラゴン達の軍団を前にして、急遽、ギルド同士が、一時的な停戦協定を結ぶ事となった。


 会合の場には、その地位に、上も下も右も左も無い、という意味で円卓上のテーブルが用意されていた。

 

 ルクレツィア帝都王宮内だ。

 本来ならば、国民の大半が入れない場所だ。

 だが、今回は例外的に、その場所が会合の場に使われる事になった。


 そして、それぞれ、ギルドの代表者達が、この会合の場に集まる事になっている。



 会合の場に、最初に到着していたのは、盗賊団の主であるガザディスと、盗賊見習いであるジェド。そして、ミノタウロスの勇者ハルシャの三名だった。

 

 大広間の入り口から、三名の人物が現れる。


「少し、遅れたかしら?」

 ドレスのようなメイド服を身に纏ったメアリーだった。

 彼女の隣には、ミントがいた。


 ジェドは、ミントの格好を見て、驚く、


「なんだ? イメチェンでもしたのか?」

 ハルシャが腕組みをしながら訊ねる。


 真っ黒なレザーのボンデージ・ファッションを身に纏うミントを見て、ジェドはかなりの困惑を覚えていた。両耳から沢山のナイフのようなピアスを身に付けている。首にはトゲだらけのチョーカーを嵌めていた。

 ……ミントさん、清純派だった筈だけど。

 ジェドは、心の中で何故か涙を飲む。

 彼は、少し下半身が萎えたみたいだった。


「エロい格好じゃないわよ? メアリーに見立てて貰ったんだけど。この服、パンク・ファッション、もしくはゴシック・パンク・ファッションって言うんですって。ねえ、ハルシャ、私、似合っている?」

「…………、ううむ。少し困惑するが」

「私も最初、着た時、恥ずかしかったんだけど。また、メアリーの悪趣味か、って。でも、正直、私の今の心境にあっている」

 そう言うと、ミントは自らの首に巻いたトゲ付きのチョーカーに指を当てる。


 ミントの両耳に付けられた、大量のトゲトゲしいピアスを見て、ジェドはうずくまりながら、何故か涙目になっていた。


「あの。ミントさん」

「なあに? ジェド?」

「その…………、その服で、今度、俺を鞭で叩いたり、縛って頂けませんか? そのブーツで背中を是非、踏んで欲しいなあ」

 ジェドは完全に気を取り直していた。

 まじまじと、ミントのガーダー・ベルトの付いた太股を凝視して、下半身が熱くなる。


 他の者達は、かなりゲンナリした顔で、憐れみを込めた瞳で、ジェドを見ていた。


 ミントと、メアリーの後ろから、もう一人の人物が現れる。

 漆黒のドレスを身に纏った、魔女ルブルだった。

 彼女は赤く塗った指先で自らの長い黒髪を弄りながら、他の者達を睨み付けていた。


「私の城がドラゴンのオーロラの魔力によって、大量の獣型モンスターへと変わっていったわ。とても不愉快よ。本当に、何もかも」

 ルブルは両手を広げる。

「このルクレツィア全て、この私が支配してやろうと思ったのにっ!」

 意気揚々と彼女は告げた。


「取り敢えず、みな、椅子に座らぬか?」

 そう、盗賊団の頭は言った。


 その場にいた六名は、次々と椅子へと座っていく。

 

 何者かが、窓から、会合の場の中へと入り込んできた。


 一人は、露出度の高い服を着た、エルフの女だった。胸元も腹も出している。年齢は人間で言うと二十代半ばくらいに見える。妖艶な雰囲気を醸し出していた。

 もう一人は、トゲのようなトサカを持った鳥の獣人だった。


「貴方達は?」

 ガザディスは訊ねる。


「我々は『天空樹』。あの偉大なるヒドラに仕えている。あたしの名前はハルピュオン。こちらはコカトリスの獣人であるイードゥラ。以後、宜しくお願いするわね」


 そう言うと、ハルピュオンは好戦的な目付きで、六名を眺めていた。

 彼女の腰には、何本もの短剣がぶら下がっていた。


 ハルシャが何かに感付いた顔で訊ねる。

「もしや、お前達は、ラジャル・クォーザが切り札として有している」

「ええ、我らはギルド・天空樹の暗殺部隊『石の視線の刃』。偉大なるヒドラ様の毒牙であるのが、我々ね」

 エルフの女は艶めかしげな唇で告げる。

「そう。そして、我々は敵を毒殺する事によって勝利を得ている。たとえば、わしは触れたものを死へと至らしめるコカトリスという魔物の血を引いているのだが」

 そう言うと、鳥人は、手からネズミを取り出す。

 イードゥラは、指先でネズミの背中を傷付ける。

 すると、見る見るうちに、ネズミの全身が硬化していき、最後には石のようになっていく。肌も茶色から、灰色へと変わっていった。

 イードゥラは、そのネズミを地面へと投げ捨てる。

 すると、ネズミが床に落ちて、バラバラに砕け散った。

「この石化の魔力にて、ドラゴンを打ち倒す。どれだけ、敵が巨大であろうとも、我々は屠るつもりだ」

 コカトリスの鳥人は、復讐心に満ちた声音で告げた。

 天空樹は、ドラゴン達の軍団によって、大量のエルフ達が死んだのだ。

 西にて、真っ先に犠牲者となり、先制攻撃を受けたのも、彼らは屈辱心で満ち溢れている筈だ。


 二人は、円卓の椅子へと座っていく。


 ……エルフのお姉さん、色気が凄いなあ。

 ジェドは、あいもかわらず、そんな事ばかりを考えていた。


 それから五分後。

 一人の初老の女性が、部屋の中へと入ってくる。

 クレリックの聖衣を纏っていた。


 黎明棚のギルド・マスター、サレシアだった。

「あら? 此処で大丈夫でした?」

 彼女は訊ねる。

「ええ。どうぞ、お座りください。それにしても、お久しぶりですね」

 ハルシャはうやうやしく礼をする。

 サレシアは席に付く。


 席に座った者達は、お互いの顔を見合わせていた。


「残った奴らは、極めて不安要素が強いんだが」

 ハルシャは、みなに告げる。

「そうなのかしら? 私が一番の危険因子でなくて?」

 メアリーが軽口を叩く。

「まあ、本当にそうだったのだが。魔女のメイド。俺はこれから現れるであろう奴らは、一体、どういう人物達なのか知っているからな」

 彼は重々しい口調をしていた。


 突如。

 部屋の日陰になっている部分が、揺れる。

 そこから、人間が現れる。

 かなり好戦的な眼で、他の者達を睨み、そして呪うような視線を送っていた。


 その姿を見て……。

 盗賊団の長、ガザディスの身の毛が逆立つ。

 激昂に打ち震えている顔だ。


 現れた者は、魔道士の格好をしていた。

 頭には、一対の悪魔のような角が生えた兜を乗せている。


 呪性王の代表者、暗黒魔道士シトリー。


 まず、ハルシャは手紙を送り、呪性王の闇の天使、シルスグリアにも協力を仰いだのだった。

 そして、同時期にちょうど、シルスグリアが、シトリーを使いに出して、ルブルとメアリー、そしてミントを匿っていた事を、ハルシャは後で知る事になるのだが。……彼は、まさか盗賊達をシトリーが大量に殺害した事は、後になって知る事になった……。


「これから、もうすぐ、このルクレツィアは滅びようとしているわ。今まで、みな、色々な事があったけれど。今は、一時的にでも横に置きなさいね。もっとも、この私が言えた口じゃないけど」

 メアリーは落ち着いた顔で、盗賊の頭と、暗黒魔道士の顔を見据える。

 二人からは、強い殺意が満ちているのが分かった。


「ふふふうふっ。そうだよ。みな、協力して、戦おうよねえ?」

 メアリーは悪寒を感じて、振り返る。

 おそらくは、この会合で、一番の権力を持つ男が現れた。

 全身を所々、包帯で纏っている。

 顔にも、ガーゼが貼り付けられていた。

 隣には、国王や貴族が儀式を行う為に仕えている、ジャッカルの頭部をした獣人を従えていた。所謂、アヌビス神のような姿をしている。


 国王の子息、ジャレス。

 彼は鎧を着込み、マントを翻しながら、颯爽と現れたのだった。

 そして、彼は円卓の席に付く。


「ふふっ。俺は暗殺者ギルド『夢海底』の代表として来たよ。父上に仇なす存在も、この手であやめてきたからねえ? だから、あくまで帝都の王子ではなく、ギルドの代表者として見て欲しいなあ」

 彼は鼻歌を歌っていた。


「本当に、貴方がそう考えているのなら、良いのだけどね?」

 メアリーは剣呑な目付きで、彼を見据えていた。


「既に、ルクレツィアの西部は侵略がはじまっている」

 ハルシャは屹然とした口調で告げる。


「あの緑のオーロラを浴びた者達が、次々と、四足歩行の獣の怪物へと変容している。ドラゴンの軍団達は炎の吐息を吐きながら、都市部を燃やし始めている」


 ハルシャとメアリーが、この場をし切ろうとしていたが、一触即発だった。


 盗賊のガザディスは同胞達を大量に殺した、呪性王のシトリーを憎悪していた。

 シトリーもまた、他の者達全員を殺したがっていた。もし、闇の天使の命令がなければ、自身を蔑ろにしてきた筈である、この世界に住まう者達全員を今すぐにでも殺そうとしただろう。


 ミントは、ジャレスしか見ていなかった。


 彼女は、この忌まわしい異母兄を、殺したくて殺したくて仕方ない、といった顔をしていた。ジャレスは薄らと、そんなミントを見て喜んでいた。

 震えるミントの左手に、メアリーは自らの右手を重ねて制止しようとしていた。


「処で、メアリーさん。お誘いどうも、ありがとう。私の旧知の友人である、ハルシャとこの会合は決めてくれたのだとか」

 サレシアは飲み物を口にする。

 そして、恐ろしいくらいに、張り付けた笑顔で、メアリーとルブルを見据えていた。

「ところで、ギデリアのゾンビの城。貴女達が暴れ回ったあの場所で、沢山、私の友人達が亡くなったわ。私のギルドの者達も……。聞く処によると、貴女達、私の友人を城の一部へと変えただとか?」

 サレシアの右手は震えていた。

 メアリーとルブルは、答えない。

 天空樹から来たエルフとコカトリスの二人も、ずっとジャレスを憎悪の瞳で睨み付けていた。そして、その眼は、悪魔崇拝のギルドの代表者であるシトリーにも向かっている。


 魔女ルブルは……。

 ミントに強い嫉妬の感情を向けていた。

 この女のせいで、メアリーがおかしくなっている。……ルブルにとっては、ミントはまさに恋敵以外の何者でもなかった。残虐と殺戮を楽しむ同志であるメアリーが、周りの者達と協調しようとしたり、何らかの優しさのようなものを持つ事がとても我慢ならない事だった。


 一触即発だった。

 かなり、険悪な空気が、大広間に流れていた。


 いつ、この場で、誰と誰が殺し合いを始めても不思議では無かった。


 ジェドだけが、肩身が狭そうに、縮こまって傍観者のような形になっていた。


 ひとまず。


 対立する者達同士、一度、停戦協定を結び、ルクレツィア全土を滅ぼそうとするドラゴンの軍団に、協力して、挑む事となった。



 デス・ウィングは、その会合の様子を物陰から眺めていた。

 ……四の五の言わずに、さっさと、殺し合いしろよ、お前ら。このまま、平和的に仲良しごっこされても、面白くないんだよ。


 彼女はつねに最低な事ばかりを考えていた。


 

「まあ、サウルグロスの軍団が到着するのはもうすぐか。私はせいぜい、楽しませて貰うとするよ」

 彼女はつねに最低な事ばかりを考えていた。

 定められた命の者達が足掻き苦しむ姿は、見ていて楽しい。

 これから、どんなショーが行われるのだろう?

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