第二十一幕 闇の天使、シルスグリア 1
それは、オーロラと呼ぶべきものだろうか。
どうやら、何者かの誘導によって、オーロラはギデリア付近に運び込まれていたみたいだった。
ミントを抱えたメアリーは、唖然としながら、その光景を見ていた。
ルブルの城が、オーロラによって、次々と崩れ去っていく。
正確には、死体を縫合して繋いだ城は、死体が次々と変形していき、四足歩行の化け物となって、アンデッド化したまま、砂漠へと勢いよく走り去っていくのだった。
城は、既に三分の一以上が、次々と、別の怪物の大群へと変えられてしまっていた。
城の当主は、何処にいったのだろうか。
メアリーは辺りを見渡す。
「なんで?」
メアリーは訊ねた。
「リコットよ。覚えている?」
メアリーの背後に、一人の人物が佇んでいた。
翼を有する、何体かの縫合ゾンビを背にして、真っ黒なドレスの女がいた。
ルブルだった。
彼女は左手に、男の子の人形を持って、崩れゆく城とメアリーと、メアリーが肩に背負ったミントを眺めていた。
やがて、城は完全に解体されていく。
城から無数のアンデッド化した獣が生まれて、砂漠へと走り去っていった。
「オーロラが去っていくわね」
メアリーは呟いた。
「リコット。頭蓋切開で遊ぶだけじゃなく、ちゃんと殺しておくべきだった。私達の城に向かってきたのよ。あの謎の緑のオーロラを連れて。化け物になって、私達に復讐に来た。ちゃんと、始末しておくべきだった。…………」
ルブルは愕然とした顔で、地面に腰を下ろした。
「それよりも、ルブル。一刻を争うの。治療道具とか作れないかしら?」
メアリーは、ルブルの背後にいる縫合ゾンビを眺める。
「無理ね。この子達は、治療器具の代わりにはならない。ねえ、それよりも、私は落ち込んでいるのよ。慰めてくれないかしら……」
ルブルはどんよりとした顔で、地面を眺めていた。
メアリーは街の病院を探す事にした。
今から襲撃して、ミントを治療する為の道具を探さなければならない。
しかし、間に合うだろうか。
一陣の風が吹いて。
一人の人物と、一体の怪物が現れる。
頭に角の生えた兜を被った魔道士と、彼に付きそうように立っているドラゴンだった。
「俺の名は暗黒魔道士シトリー。後ろにいるのは、ドラゴン魔道士のザルクファンド。呪性王ってギルドのメンバーだ」
「あらそう? 病院でも紹介してくれるのかしら?」
「お前らの活躍みていたぜ。あのジャレスをボコボコにしていただろ? ロギスマが悔しがっていたがな」
「覗き見?」
メアリーは怪訝そうな顔をする。
「何言ってやがる? あんな派手なの、近くにいれば、嫌でも眼に付く。それよりも、俺達のアジトにこないか? 面白ぇえもんを見れた礼に、匿ってやるよ。背負っているの、受胎告知の娘だろ? その傷、厳しいんじゃねぇか? 早くしないと死ぬぞ」
シトリーは少し楽しそうに言う。
「分かったわ。私達みんなを匿ってくれないかしら」
メアリーは、大きく溜め息を吐いた。
「じゃあ、お前ら会ってくれないか? 俺達のギルド・マスター、闇の天使シルスグリア様にな」
シトリーは告げる。
彼の背後、ドラゴンの魔法使いの隣から、闇の亀裂が生まれた。亀裂から、四つ脚の翼を持った悪魔が現れる。彼はシトリーの盟友だった。闇の中は下へと続く、階段になっていた。どうやら、此処に共に向かえ、という意味らしい。
†
ミランダは愕然としながら、その光景を眺めていた。
オーロラが魔女の城に触れて、魔女の城は崩壊し、アンデッド・モンスター達は、次々と、邪悪な四足歩行の怪物へと変形していく。
魔女の城は破壊され、崩されていく。
オーロラの向こうには、何十頭、下手すると何百頭ものドラゴンが空を舞っているのが見えた。
報告によると、ミランダが派遣した、冒険者ギルドの者達も、次々と、オーロラの餌食になっていった。
彼らは全身が変形して、四足歩行する獣へと変わっていく。全て、サウルグロスの力によって、モンスターの先兵へと変えられていったらしい。
「うーん、うーん……」
ミランダは、踵を返す。
「何をどう考えても、あんなものに勝てるわけないわよねえ。命あってのモノダネだし。そもそも私は兵士でも何でもないから、名誉とかどうでもいいのよね。私、少し、旅行にでも行くって、周りの者達に伝えておこうかしら」
そう言うと、女貴族ミランダは、その場から去っていった。
メアリー




