表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/151

第十九幕 陰附からの蒼い馬。 4 -覚醒-

「ハルシャ、私を育ててくれてありがとう。メアリー。貴方と出会えてよかった」

 ミントは言う。


 彼女は、自らの胸に手を当てる。

 ミントは、愛が世界を支える事を願っている。

 何の為に、この世界に生まれたのか。

 今、証明出来そうだ。


「メアリー、私はこの世界をずっと、憎んでいた。ハルシャ……。呪われた血を持つ、私を育ててくれて、ありがとうっ! 私は、今、この時の為に生まれてきた。生きてきたのだと思うっ!」

 彼女の言葉は、悲痛に満ちていた。


「待てっ! 止めるんだ、ミントっ!」

 ハルシャは叫ぶ。


 メアリーは震えていた。


 ミントの背中から巨大な金色の翼が生える。

 彼女は口の中で、何かを詠唱しているみたいだった。


「少しだけ、自由になれた気がする。今、この瞬間……。ずっと愛せなかった、この世界に対して……。メアリー、今にして思うと貴方は、私の影みたいなものだった」

「勝手に、そういう風に思わないでよっ!」

 メアリーは、奥の手を使う。


 メアリーの背後から、巨大な甲冑を着た大斧を持った幻影魔獣『ソウル・ドリンカー』が現れる。剣を振って、高速剣を放ち、変身するミントを切り刻もうとするジャレスが、再び、幻影魔獣の大斧によって、壁に拘束される。

 ジャレスは、剣を握る右手に力が入らないみたいだった。


「国王の子息。お前が死ねば、この世界は確実によくなる。多分、私はその為に生まれてきた。……もう、人には戻れないかもしれない。なら、一緒に地獄に墜ちよう、ジャレスッ!」

 ミントは、黄金色のドラゴンへと変化していく。

 そして、口腔から炎と稲妻を融合させた、吐息が放たれる。


「ハルシャ……。そして、メアリー、ありがとう……」

 ドラゴンとなった、ミントの全身は、黄金の光に包まれていく。



 辺り一面が、ミントの放った吐息によって、粉微塵に吹き飛んでいく。

 閃光によって、一帯にある丘陵が、平らになっていく。



 ジャレスは、全身、焼け爛れながらも悠然と佇む。


「二人とも、トドメを刺してやるよっ!」

 ジャレスは咆哮していた。

 そして、自らの柄の無い剣を探しているみたいだった。


「探しているのは、これだろう?」

 何か、煌めきがする。

 ジャレスの胸元が、完全に貫かれていた。

 ハルシャだった。

 彼は、ジャレスの剣を握り、自身が魔法を掛けて剣を実体化させて、目の前の敵を貫いたのだった。


「な、何をやっている、ミノタウロス……。貴様は俺に仕える、王族護衛軍…………」

「私は反逆者なのだろう? それに私が仕えているのは、国王ではなく、ルクレツィアそのものだっ!」

 ミノタウロスの勇者は叫ぶ。


「しかし、この剣。やはり、魔力を増幅させる力が絶大にあったみたいだな。優れた剣だ」

 ハルシャは、素直に感嘆の声を上げる。


「おのれ……、おのれぇええええぇえええ…………」

 胸を刃で貫かれながらも、なおも、ジャレスは何かの魔法の詠唱を行おうとしているみたいだった。


 ジャレスの首が、勢いよく切り裂かれる。

 メアリーだった。

 彼女の手にした鉈で、ジャレスの喉元は裂かれていた。


「惜しいわね……。本当に化け物なのね。首を落とせる筈だったのに……。首をねじって、私の不意打ちを避けるなんて、ね?」

 メアリーは、せせら笑いながら、地面に膝を付く。


「もう、ソウル・ドリンカーを実体化させる力は無いわ。ミノタウロス……、早く止めを…………」

「言われなくてもだっ!」

 ハルシャは、ジャレスの剣を、彼自身の胸へと深く押し込んでいく。


 突如。

 暴風が、二人を襲う。

 雨も吹き荒れていた。


 一瞬の出来事だった。


 ジャレスは、ハルシャの最後の攻撃を避けていたみたいだった。


「おおっと。ジャレス様。このわたくしめが、参りました故」


 ハルシャと、メアリーは空を見上げる。

 砂漠の空に、暴風雨を撒き散らしながら、一体の灰色の肌をしたコンドルような翼を持った悪魔が、ジャレスをつかんでいた。


「我が名はロギスマ。この御方は、我々の主でもある。もっとも、次期、主であるがな。ひひひひひひっ、てめぇら、覚えていろよっ! 全員、我らがぶち殺してやるからなあああっ!」

 そう言うと、悪魔は、その場を去っていった。


 しばらくして、砂塵が二人を覆う。



 ミントは人間に戻っていた。

 そして、ミントは、全身、傷だらけで倒れていた。

 纏う服は、ズタボロだった。

 特に、喉の裂傷と、腹の傷が酷かった。


 メアリーは、ミントを担ぐ。


「じゃあ、私は、この子の治療の為に、私の城に戻るわ」

「メアリー。彼女は私に返せ、ミントをアンデッドにでもするつもりか!?」

 ハルシャは怒る。

 共闘したといっても、目の前の女を信用出来るわけがなかった。


「何も悪いようにはしないわよ。城には充分な設備が整っている。それに、ミノタウロス。貴方の下に預けたら、それこそ、国王の部下達がミントを始末しに向かうわよ? 貴方も、身を隠しなさい。あの(ジャレス)を取り逃した。今回は、私達は、実質的に勝利していないのよ?」

 魔女のメイドは、強く言い放つ。


 ハルシャはうなだれる。

 斧の柄を手にして、気を失わないようにしているみたいだった。

 ジャレスから受けた傷が、予想以上に深いのだ。


「分かった、信用する。頼む、彼女を助けてやってくれ」

「言われなくても、……貴方も、傷が深いわよ。早く手当てをする事ね……」


 そう言うと、魔女のメイドは、ミノタウロスの下から去っていく。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ