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第十八幕 ミントとメアリー……。交差する光と闇。 2


「国民達に知られてはいけない事は、いくつもあるんだよ」

 松明の明かりに照らされて、ジャレスは不気味に笑う。


 国王の子息である、ジャレスが行ってきた行為は、現国王バザーリアン・ルクレツィアを上回るものみたいだった…………。


 王宮地下。


 医療関係者への書類が描かれていた。

 帝都中に既に、ジャレスが秘密裏に栽培していた遺伝子組み換え食品が行き渡っていっている。人工生命体を制作した技術から着想を得たのだろう。遺伝子組み換え食品によって、不死や長寿になる処か、むしろ癌や白血病、その他の病気を引き起こすシロモノだった。更に、工業の廃液が、スラム付近の河に流れ込んでいる。スラムの者達は原因不明の奇病によって、苦しんでいる者達が多い……。胎児には、三つ脚とか、脳が無いとか。双子の頭がくっ付いているとか、そんな風に生まれ付いている者達も多い。

 工業の廃液のデータが隠されていた。

 そして、その廃液が、生き物にどのような惨状をもたらすのかが、明確に知らされていた。もはや、スラムの者達は人体実験を受けていたのだった。スラム付近に実る、穀物。河で泳ぐ魚。そして食糧となる鳥や小動物…………。生き物達は、工業排水の毒物を口にしていた。やがて、奇病は人間や亜人達にも、感染する…………。


 ……虫が決して寄り付かない、素敵な野菜と果物の種子を分けるよ。

 ジャレスは、そう言って、農耕を営む者達とのビジネスを行っているみたいだった。それは、国民達の食べる食品にも含まれている。


 ゾアーグはその書類を手にして、言葉を失ったのだった。

 帝都は、……ジャレスは、スラムの者達だけではなく、中流層、一般市民をも喰い物にしようと考えているのだ。高い医療費によって、貧困層に落ちた者達が急増している。



「偉大なる指導者(ビッグ・ブラザー)は何でも見ているという事だよ。分かったかな? ゾアーグ」

 彼は何処までも柔和で穏やかな笑顔だった。

 むしろ、この事態をとても楽しんでいた。


 彼は、捕縛したオークの戦士をにこやかに眺めていた。


 ゾアーグは、両手と両足を拘束されて、磔にされていた。


 このオークの戦士以外にも、両隣には二人の人間の男が磔にされて、呻き声を上げていた。

 彼らは、ありとあらゆる道具が、顔に差し込まれている。


 ナイフ。

 スプーン。

 フォーク。

 針と糸。

 釘。

 アイスピック。

 鉤爪の付いた鎖。

 針金。

 スパナ。

 電気ドリル。

 小型チェーン・ソー。


 それらを、顔のあらゆる場所に“差し込まれた”者達は、それでもなお、生きているみたいだった。ゾアーグが聞く処によると、彼らは、果樹園に実る筈だったが、懇願により、特別にジャレスの実験材料になる事を選んだらしい。ゾアーグは、自らの運命に対して、諦めの顔になっていた。………………。


 ゾアーグの身体には、既に、何本もの刃物が刺さっていた。

 全身から止め度めも無く、血が流れ続ける。


 ジャレスは優しげな笑みを浮かべていた。


「ハルシャとギルド・マスターの娘、ミントは、どれくらい帝都を裏切っているのかな?」

 ジャレスは冷たい声で、オークの戦士に向けて質問していく。


「彼らは……、無関係だ。特にハルシャは、強く帝都に忠誠を誓っている……!」

「そう★」

 ざしゅり、と。

 脇腹に新たな短剣が突き刺さる。

「俺はちゃんと情報を吐けって言ったんだ。まだ楽にしてやるつもりは無い。まだ苦痛が足りないか? 信念よりも俺に忠誠を誓え。情報を吐くんだ」

 そう言って、ジャレスは短剣を押し込んでいく。


「まだまだ♪♪」

 暗闇の中に楽しげな笑みが浮かぶ。


「此処はどうかな?❤」

 地面は血が溜まっていく。


 ゾアーグは、決して悲鳴を上げる事は無かった。

 彼が悲鳴を上げる代わりに、彼の両隣からは、絶望と苦痛の嘆きが拷問室の中に響き渡っていく。


「だが、これだけやって、よく頑張っているよねぇ。褒めて使わす。褒美をやる。お前の名誉は守ってやる。そして、あの二人には警告が必要だな」

 ジャレスは、机に置かれた、残り数十本程の短剣を、次は何処に刺そうか深く悩んだ。



 数日後の事だった。


 ハルシャとミントの下に、ゾアーグの生首が届けられた。

 二人は、もうすぐ帝都に進軍してくるであろう、ドラゴン退治の戦略を練っている最中の事だった。彼らは出現した謎のオーロラについて、話し合っている処だった。

 

 晒し物にする事や、匿名で送る事も考えたが、ジャレスは自ら名を記し、二人に送り付けたのだった。


「ジャレス・ルクレツィア…………っ!」

 ミントは、怒りに打ち震えながら、損壊したゾアーグの頭部を見ていた。顔の左側が……、筆舌に尽くしがたい程に、とてつもなく酷い惨状だった。右側は、傷一つ無く綺麗に残っている。この所業をやった男の性格が滲み出ているかのようだった。

「ハルシャ、こいつは、この男は、人間なのですか!?」

「う、うぬぬううううっ、ああああああああああっ!」

 ハルシャも、呻き、そして叫び始める。

 二人して、悲しさと悔しさに打ち震え続ける。何故、……、何故、自分達は、こうも無力なのか? 邪悪なる者達に対して、こうも、……こうも…………。


 ジャレス。

 現国王の子息。


 知っている限りの情報によると。

 暗殺者ギルドを率いている男。

 王宮地下を先代から引き継ぎ、更に実験を続けている男。

 その暗殺ギルドのメンバーも、王宮地下で一体、何が行われているのかも、謎に包まれている…………。そして、きっと、ゾアーグは、それらの事を知ってしまったから、このように始末された。…………。


「ハルシャ。こいつは、この男は……っ!」


 もはや、寒気さえした。

 帝都の暴政。

 確かに、この国家は腐敗を続けていた。

 だが。

 帝都への憎しみは関係無しに、この男だけは、生かすべきではないのではないか?


「ゾアーグ…………っ!」

 彼女は唇を噛み締める。


「ジャレス…………っ! 私は、私は、この男に復讐を誓う!」

 彼女は叫んだ。

 ハルシャは、もはや彼女を宥めようとさえ思う気持ちにもなれなかった。もはや、帝都は自らが従うべき相手ではない事を愕然と気持ちで、理解していたからだ。




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