第二幕 死霊術師ルブルと、憎悪を撒く者メアリー。 3
「地図によると、此処が、ピラミッドの辺りね」
蜃気楼のような、靄が空間全体にかかっている。
砂海蛇の骸骨は、どうやら、これ以上先へは進めないみたいだった。何か固い岩のような場所で足止めされているみたいだった。
ルブルとメアリーの二人は、地面へと降り立つ。
どうやら、今、着地した場所は、固い地面になっているみたいだ。
「これ、ちゃんとした石材によって作られているわ」
メアリーが告げる。
地面には象形文字のようなものが描かれている、途中、柱なども見つかり、びっしりと絵文字が描かれていた。
どうやら、進んでいくと、辺り一帯が大きな建築物になっているみたいだった。自分達は、その上にいるのだ。
霧によって、余り何も見えない。
メアリーの背中から、巨大な鳥の翼が生える。
白鳥のような翼だった。
彼女はその翼で、空へと飛翔した。
「ルブル、どうやら、此処、みたいね」
彼女は、巨大なピラミッドの頭頂部のようなものを見ていた。
メアリーは地面へと舞い降りる。
背中の鳥の翼は消える。
ふと、刃が風を切る音が聞こえた。
まるで。
待ち伏せでもしていたかのように、二人の前に、何者かかが砂塵の中から現れる。
†
「貴方の名前は?」
その女は、右手に長い槍を構えていた。
彼女は白いローブを脱ぎ捨てる。
褐色の肌をしていた。
胸元は皮鎧を身に付けて、腹は露出させている。
腰元は動物の毛皮を嘗めしたような腰布を付けていた。
茶色の髪の毛は、所々を、動物の皮と骨のようなもので編んでいた。
人間に見えるのだが、何処か、肉食獣のような顔をした女だった。
メアリーは、彼女の姿を見て、いつの間にか右手に斧を手にしていた。
「お前の名は?」
肉食獣のような雰囲気の女は問う。
「メアリー。貴方は私好みの容姿じゃないのねえ? 褐色の肌、あまり好みじゃないわ。出来れば、雪ウサギのように白い肌の子がいいの」
「ふうん、私はグリーシャ」
彼女が、イブリアの代わりに、ルブルの呼び掛けに応えた者みたいだった。
褐色の肌の女、グリーシャは、自身の得物である槍をメイド姿の女に向ける。
「あら?」
ルブルは眉をしかめる。
「私のお城に誰かが入り込んだみたいね?」
魔女は自身の唇に指をあてる。
「メアリー」
ルブルは言う。
「今日の処は、私はお城に戻るわ。荒らされると溜まったものじゃないし、沢山、集めた宝物を壊されても溜まらないしね。貴方はどうする?」
「私はこいつの首を落としたいわ。それから考える」
メアリーは、自身の得物である斧の刃を舌でなめていく。
「じゃあ、私のお城で待っているわ」
そう言うと、ルブルは指を鳴らす。
何処からともなく、骸骨の鳥が現れて、ルブルを背に乗せると、彼女を連れ去っていく。
「じゃあ、戦いましょうか? どちらが強いか試してみるかな?」
グリーシャは、槍を振り回していた。
「貴方とは愛したくないわ。だって、腕をもいでも、背中を裂いても、心が躍りそうにないんだもの」
メアリーは少しだけ不快そうな顔になる。
†
「どうしよう、ジェド、洞窟の奥に落ちてしまったみたい……」
ミントは困った声をしていた。
「二人きりだね」
彼女の尻が、思いっきり、ジェドの頭を踏んでいる。
二人共、立ち上がると、しばらく進んでいく事にした。
谷だった。
洞窟の奥底に、谷が広がっている。
そして。
色取り取りの宝石が、小山のようになって、壁や天井、地面から生えていた。散りばめられているかのようだった。
「綺麗…………」
ミントは呟く。
何か気配がした。
強く、禍々しい何かしらがそこにはいた。
最初、腐った人々の頭部がうごめいていた。若い男、若い女、子ども、老人、容姿は様々だ、だが、確実に生きていない。
そして、その隣には、牛の頭部、鳥の頭部、ヘビの頭部、魚の頭部などが無数にひしめいていた。どうやら、それらは一つの胴体を有しているみたいだった。巨大なライオン。背中には巨大な翼を生やしている。ルクレツィアの帝都を飛び回る怪物スフィンクス、そうスフィンクスの胴体をしていた。とてつもなく巨大なスフィンクスの胴体に、様々な生き物達の頭部が融合している、尻尾は巨大なサソリの尾だった。
怪物はそれぞれの頭部で、まったく別の咆哮を戦慄き続けていた。
ジェドは尻もちを付いた。
こんな化け物は見た事は無かった。
夜に見る悪夢の断片そのものだった。
節々から、腐肉を垂らしている。
咆哮の不協和音が聞こえる。
先程のゾンビ達。
そいつらは、可愛いものだった。
「ううっ、うあああああああああああああっっっ!」
邪悪な意志から生まれた構築物は、咆哮と涎と共に、生きとし生ける者達を憎んでいるかのように、無数の瞳で見下ろしていた。
†
「あらあら? 貴方達は私のお城に何をしにきたのかしら?」
無邪気だが、何処か残酷さに満ちた声音が洞窟内に響く。
ジェドは息を飲む。
その女は、おぞましく、美しい顔をしていた。
真っ黒なドレスが、闇の中に溶け込んでいる。
真っ赤な唇から、言葉が紡がれる。
怪物の蔓が、子牛頭の少年と、トカゲ頭の少年を絡み取って、吊り下げていた。
「これ、貴方達のお仲間?」
彼女は微笑む。
おぞましい笑みだった。
「貴方達もこの子の仲間に入りたいの?」
彼女は笑っていた。
巨大な奇形のスフィンクスのゾンビ。
……た、助かりたい。
ジェドは眼に涙を浮かべていた。
どんな事をしてでも、助かりたかった。自分があまりにも弱く、脆いのだと、この時、気付いた。たとえ、この真っ黒なドレスの女に跪いて、仲間達を見捨ててでも、自分だけでも助かりたい。そんな感情に襲われた。彼女は自分一人だけを、決して逃がしてくれないだろう。
ジェドは思わず、ドレスの女に懇願の声を上げようとしていた。
「私の友人達を離してっ!」
叫んだのは、ミントだった。
ミントの声で、ジェドは我に帰る。
数秒後、ジェドは我に返り、腰に差していた剣を抜き放つ。
「そ、そうだっ! ラッハをっ! アダンをは、離せっ!」
ミントに良い処を見せてやろう。そればかりが、ジェドを突き動かした。
「私の名前はルブル」
ルブルと名乗った女は、首を傾げた。
「メアリー残念ねえ。貴女好みの美少女がいるのに。ねえ、どうしようかしら?」
ジェド達を襲うのは、奇形のスフィンクスだけではなかった。
いつの間にか、宝石や黄金の装飾を施されて、山刀を持ったゾンビ達が大量に現れる。
「私の名はルブル。貴方達を私の仲間にしようと思うのだけれども…………」
彼女は少し、考えているみたいだった。
「死んで仲間に入るのと、生きて仲間になるの、どちらがいいかしら? 私はどっちでもいいわよ。そこの女の子は、首だけでも無傷なら、メアリーが可愛がってくれそうだしね?」
黒いドレスの女は、額がドクロになっている蛇を撫でていた。
魔女ルブル
†