表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/151

第十三幕 死のフーガ 3

-見よ、青白い馬が現れ、乗る者の名を『死』といい、これに陰府が従う。彼らは、地上の四分の一を支配し、剣と飢饉と死をもって、更に地上の野獣で人を滅ぼす権威が与えられた。 新約聖書-黙示録6章7節、8節--

 彼女は、岩山から、青空を背にして、プラン・ドランの廃墟を見下ろす。


「……昨日、生でキメて気持ち良かったですぅっ! ……グルジーガの将軍様のアレ、マジで太く固かったっ! ドグドク、奥が波打って脳からもビュッビュッ、と出まくりましたあっ!」

 グリーシャの左腕は再生していた。

 少し、腕の血管が浮き出て、それは植物の根のように脈打っていた。


「グリーシャよ、お主、本当に節操無いのうっ!」

「ひゃはははははっ、流石に御老体っ! あんたとは出来ませんがっ! 私は精力的な種が欲しいので」

「…………、ほう、わしもまだまだいけるぞ?」

「いやあ、私は生むんなら、良い遺伝子が欲しいんで……」

 グリーシャは、小蜘蛛のカラアゲの残りを口から吐き出す。

 彼女は、ナイフの刃を舐める。


「グロス様、オーロラというものを解き放とうとしていますね。そろそろ、私は略奪がしたいのですが」

「しかしのう、エルフ共を屠るのは、本当に気持ちが良かったのう。奴らは面白いように、わしらの術中に掛かるからのう」

「ひひひひひひひっ。最高でしたねっ!」

二人はとても楽しげに笑い転げる。


「まあ、いいですっ!」

 グリーシャは、両手のククリナイフの柄を強く握り締める。

「この凱旋も、存分に犯し、存分に殺し、存分に喰らいましょうっ!」

 彼女は高らかに、叫んだ。

 ルクレツィア侵略の準備は整っている。

 オーロラが帝都にまで到達にした後、いよいよグルジーカが率いる軍団が、帝都を襲撃するのだ。グリーシャは先頭に立つ切り込み隊長を任されている。



 リコットは心無い廃人となったまま、砂漠に放逐されていた。


 あの魔女のメイド、メアリーに手術室の中で何かをされたのだけは覚えている。……それが何だったのか、ぼんやりとしていて思い出せそうにない。ただ、記憶がぼんやりとしている。


 このままだと、サンド・ワームを筆頭とした何らかのモンスターの餌になるのは時間の問題だった。彼女は空腹と渇きに苦しみながら、時折、自らの肌を切り裂いて、自らの血液を飲んで生き延びていた。

 そして、途中、見つかったサボテンに貪り付き、水分を取る。

 砂漠を彷徨うガラガラヘビなどを掴んでは、口の中に放り込んだ。


 …………あひぃ、ははっ、ふふぅ。ふふぅ。

 可愛らしい可憐な顔をしていた彼女は、前頭葉を切除された為に、マトモな思考を持てない放心状態が続きながらも、何とか生き続ける。


 ……僕様、僕様、まだ生きているなあ…………。


 砂漠の砂が舞う。

 リコットの頬に、砂が掛かる。

 

 それは、空を覆う何かだった。


 黒く、緑色に発光している。


 彼女は、その光に見とれていた。

 それは、黒雲のように、空全体を覆い尽くそうとしている。


 その光は、触れる虫達を、次々と別の何かへと変えていった。


 彼女は、その光の中に溶けてしまいたいと思った。



 リコットは、メアリーによって頭蓋を開かれ、前頭葉の一部を切除された。そして、廃人となって生き続ける事になった。

 

 そして、リコットは、完全に理性や知性といったものを喪失する事になった……。


 悪魔の娘である彼女には、可愛らしい尾があった、今やそれはサソリの尾のようなものへと変わっている。

 彼女にはコウモリのような翼があった、今やそれはワニの口のように禍々しい。

 彼女はつねづね、立って歩くよりも、寝転がるのが大好きだった。今や、彼女の両腕は脚となっている。


 彼女は、可愛らしい美少女だった。

 今や、彼女は二眼と見られない程に、とてつもなくおぞましい形相をしていた……、虎に似ていた。背中からは、新たな翼の他に、無数の人の腕や脚のようなものが生えている。彼女は、またメアリーに会いたいと思って、彼女の住まう、炎の城へと向かった。


 オーロラは、変貌したリコットを先頭にして、東の方へと向かった。嵐のように軌道を変えた…………。




 価値の無い命なんて無い。

 ミントが心の底で誓う事は、きっとそういう事なのだろう。


 何の為に伝えるのか?

 何の為に学ぶのか?

 何の為に戦うのか?


 暴力と邪悪に満ちた世界で、自分は答えを探し続けている。みな、一人では生きられないと思う。自分達は、殺されていく者達は、死んでいく者達は“名前の無い存在”なんかじゃない。生きている限り、生き物は、他の生き物を殺して口にする。それが命となる。


 誰もが、生まれてきてよかった、と思えるような世界にしたい……。

 その考えは、間違っているのだろか?

 邪悪な事なのだろうか?


 あらゆる命の為に、ミントは戦う事を決意する。

 たとえ、どれだけの敗北を喫したとしてもだ…………。


 帝都の闇と、帝都へと向かってくる闇。

 その両方と、戦う為に、……自分は強くならなければならない……。


 ………………、………………。


 ミントは、ずっと絶望の暗闇の中にいた。


 世界を救おうとする者が、余りにも数少ない。



 誰もが暴力に麻痺している。

 誰もが残酷に麻痺している。


 誰もが、眼を背けて、眼をつむる。


 価値の無い命なんて無いとか思い込むは、それは間違いなのだろうか?



 金持ちからの貧困層の搾取。


 空腹を忘れる為に脳を破壊する薬物に手を出す人々。


 自分自身が犠牲者になる可能性があるにも関わらず、残酷劇を楽しむ人々。


 貧乏から兵士に志願し、無残に帝都の奴隷として死んでいく者達。


 中身の無い娯楽の蔓延。人々をずっと無教養のままにして、頭を悪くさせる為の洗脳装置。


 悪魔達と戦う為の武力が欲しいと言って、税金を引き上げ、医療などの福祉を削減する政策。


 帝都中に蔓延している、中流層と貧困層に与えられる、癌や白血病を引き起こす遺伝子組み換え食品。


 反逆者達に対する、残虐な公開処刑。


 ………………、………………。

 これ程までに邪悪が蔓延しているにも関わらず、誰もそれを見たくない。


 ミントは絶望の中で、それでも世界を救う事を望んだ。

 救世を望み続けて、いつか形にしなければならない。強くなりたい…………。


 墓所で帝都の嘘が暴かれた後、

 デス・ウィングは、国家の暴力は普遍的だと教えてくれた。


 どんな文明においても、どんな時代においても、人類は過ちを繰り返す、と。


 デス・ウィングは、教えてくれた。

 国家の内政の問題を隠す為に、国家は戦争を煽る。

 それも、一つの信仰であり、宗教化していくのだと。

 愛国心とは、一つの宗教の形態なのだ、と。


 嫌いな女だが、もっとデス・ウィングから色々な事を学びたい。



 愛が世界を支える為に、彼女は帝都と戦う事を決意する。

 命の価値が実る為に、彼女は邪悪と対峙する事を決意する。



 宗教は暴政を覆い隠す為の、絵空事でしかない。


 自分達は、帝都の作り出した宗教から、逃れる必要がある。



 実際、サウルグロスはどれくらい強いのだろう?


 ラジャル・クォーザの派遣したエルフ達が全滅した事は、瞬く間に、帝都中に広まりつつある。一般市民の間にも、その話は普及し始めている。衛兵達は、混乱を恐れて、情報の拡散を食い止める為に夢中みたいだった。


 デス・ウィングは、あのドラゴンの軍団の主の強さを確かめたくて、実際に、サウルグロスを見に行く事にした。


 メアリーに手紙を送った二日後の事だった。


 彼女は、岩山の上から、オーロラを眺めていた。


「凄いな、なんだ、あれは……?」

 デス・ウィングは言葉を失っていた。


 あの緑色をした謎のオーロラも気になるが。


 何よりも、その先にいる、オーロラを操り、空を飛んでいる存在。


 あれが、プラン・ドランを襲撃した者達のボスなのだろう。

 サウルグロス。

 翼があるにも関わらず、あのドラゴンは翼をはばたかせる事なく、ただ宙に浮かんでいた。まるで、彼の周りには重力というものが、存在しないかのように。

 そして、あの邪悪なドラゴンは、ひたすらにオーロラを操る為に、宙に浮かぶ巨大な巻物を広げて、詠唱を行っていた。

 彼の全身からほとばしる、エネルギーのようなものが、とてつもなく禍々しい。


「あのドラゴン。あれは、この私よりも強くないか?」

 デス・ウィングは、素直に感嘆の言葉を洩らした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ