第二幕 死霊術師ルブルと、憎悪を撒く者メアリー。 2
弱小ギルドのメンバー、四名が宝石鉱山へ到着する頃、邪悪なる者達は、策略を巡らせていた。
この日の、夕方に、ジェドの故郷、アレンタは大巨人によって滅ぼされる事となる。
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鉱山の外では、いくつかのギルドのメンバー達が集まっていた。
「ああ、お前達か」
大柄の中年である人間の男が、四名を一瞥すると、笑みを浮かべる。
「俺達は見張り役なんだ。そういう依頼だからな。だからな、さっさとお前ら行っちまえ」
やけに優しげな顔で、男は四名に告げた。
しばらくの間、四名はダンジョンとも言える、鉱山の中を進んでいった。
ギルドの依頼内容は、紫水石を採掘してくる事だ。
貴族達が好む、洞窟で採掘出来る宝石の材料になるものだ。
「あの、気付いたんです」
ミントは、ジェド達に告げる。
「私達のギルドは探索のギルドなんですが、ギルドの依頼はギルド・マスターの手によって行われるんですね。私はこの弱小ギルドのリーダーなんで、私が依頼を貰ってきているんですけど……」
ミントはかなり困ったような顔になっていた。
「騙された、というか、あるいは、捨て駒にされたというか……。ううん、よくて切り込み隊長?」
全長、10メートルは軽く超えているだろうか。
巨大なイモムシの怪物が四人を見つめていた。
†
「さて、ピラミッドの場所は、ルクレツィアの帝都から、かなり離れているみたいね」
骨だけになった砂海蛇の上に、ルブルとメアリーは乗っていた。
骨の海蛇は、砂漠を海のように泳いでいく。
「グリーシャが言うには、ピラミッドがあるらしいのだけれども」
「どうかしらね」
メアリーは薄ら笑いを浮かべていた。
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四人は鉱山の奥深くへと潜っていった。
ギルドの依頼内容は、紫水石を採掘してくる事だ。
巨大なイモムシ。
それは、所々が、腐っていた。
巨大な体躯を使って、四人を丸呑みにしようと襲い掛かってくる。
アダンは弓を構えて、イモムシの頭部に命中させる。
「俺達の種族の弓術をなめるなっ!」
リザードマンの若者はいきり立っていた。
「ラッハッ!」
ミントが叫ぶ。ミノタウロスの少年はミントの背後に回ると、何かの魔法を詠唱しているみたいだった。ミントの背中の辺りに魔法の方陣が浮き上がっていく。
ミントは杖を構える。
稲光が、杖に宿る。
それは、イモムシの怪物目掛けて襲い掛かる。
全身が焼け爛れ、皮膚を焦がしながら、イモムシは粘液を吹きだし、這いずり回っていた。頭が半分潰れていても、所々が裂けていても、動いている。
「こいつ……っ!」
ミントは背後にいるラッハに確認する。
「こいつ、動く死体だよっ! みんなっ! ねえ、ラッハッ! こいつ、イモムシのゾンビなんだよっ!」
「そうみたいだね。俺がもう一度、魔力増幅を行うっ! ミントはもう一度、雷撃の魔法をっ!」
「うんっ! ……ちょっと、ジェドも少しは動いてっ!」
言われて、ジェドは困惑しながら、腰の剣を引き抜く。
「ああっ! もう、邪魔っ! ジェドッ! 少し後ろに下がってっ!」
ミントは再び、雷撃を放った。
イモムシの怪物は全身を焦がされて、地面に転がっていく。
しばらくの間、四人は動かなくなった怪物を眺めていた。
「ごめん、みんな……俺、役立たずで…………」
ジェドが言う。
「大丈夫だよ、ジェド。君はまだギルドに入りたてだし、本当はこんな怪物なんて出る筈じゃなかった……。悪鬼程度が出てくると思っていて、君の剣の練習相手になればいいと思ったんだけど…………」
ゴブリン……。
知能が極めて低い悪鬼達。ルクレツィアは多様な種族と共生し、オークやトロールといった蛮族とされる者達とも共存している国であるにも関わらず、ゴブリン達はオーク、トロールといった者達からも忌み嫌われる。
だが、基本的には弱い。
だから、初級の冒険者には格好の訓練相手になる。
「しかし、まさか砂芋虫のゾンビなんて……」
ラッハは言った。
「ゾンビは邪悪な何者かに動かされている、どんな生物の死体でもゾンビになるものね……」
ミントは言う。
そして、彼女は考え込む。
「ここの奥には、紫水石がある。それが私達のギルドへの依頼……」
本当にそうなのか? と、ミントは疑い初めていた。
「ねえ、やっぱり、みんなで話しておかないと思う事があるの…………」
彼女は言葉を続けようとした。
だが、何かの唸り声が響き渡る。
「見ろっ!」
アダンが叫ぶ。
辺りには、人型のゾンビ達が群がっていた。みな、人間種族だ。身体には金色の装飾具などを付けられており、宝石類なども身に付けていた。手には山刀や、弓矢、槍などを構えていた。
「逃げようっ!」
ラッハが叫んだ。
ゾンビ達が、一斉に襲い掛かる。
四人は散り散りになっていく。
「アダン、ラッハッ!」
ミントが叫んでいた。
アダンが、矢を、先頭に来たゾンビの一体に撃ち込んでいた。
気付けば、ジェドはミントの腕をつかんで走っていた。それは恐怖からだろうか……。
二人は地面を転げ落ちる。
「アダンッ! ラッハッ!」
「二人共、先にっ! 俺達はすぐに合流するよっ!」
ラッハは叫ぶ。
†