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第十二幕 竜王イブリアと邪悪竜サウルグロス 2

 グリーシャは、舌ピアスの拡張を行っていた。

 もう少し、大きめのピアスを入れたい。


 コルキスパルは、獣人の死体を生で食べていた。

 くちゃり、くりゃり、と、生肉を食む音が、集落の小屋の中で聞こえる。


「おい、グリーシャ。我らのサウルグロス様が、何かを行おうとしておるぞ?」

 猿人の老爺は、楽しそうに相棒に言う。

「ははあ、どうしたの?」

「何やら、オーロラを生み出しておる。何でも“黒き鱗の王”の御力を借りているらしい。いよいよ、国家ルクレツィアに対して、全面戦争を行うらしいぞ」

 それを聞いて、グリーシャは満面の笑みを浮かべる。

「私、とても高揚致しまして。耳のピアス、四つ、増やしましたわ。これから、得物である槍とナイフも研ぎますぜ」

「存分に略奪して、存分に喰い殺せるのうっ!」


 グリーシャはヘソに付けたピアスを弄りながら、此方の方も、新調しようかと考えていた。この高揚を引き上げる為に、彼女は身体に人体改造を施し始めていた。


「それにしても、オーロラって何かしら?」

「かなり、強大な力じゃろうなあ。何しろ、あれに触れたもの、全てが、何かに変容しておる。今、砂漠に住まう者達を使って、実験をしておるそうじゃ。いよいよ、侵略の為の最終兵器を動かすつもりじゃな。これで、ルクレツィアに勝ち目などないぞよっ!」


 先程の事だった。


 ついに、サウルグロスが“黒き鱗の王”から、力を授かったと、配下の者達に述べたのだった。


 ドラゴン達は喜び、侵略の為の将軍を務めるグルジーガは、槍を高く掲げてサウルグロスに改めて強い忠誠を誓った。

 猿人を中心に、獣人族達も喜び、猛った。


 力は、夜空にたゆたう“オーロラ”の姿をしていた。


 グリーシャは、緑色に発色する黒きオーロラを見て、その禍々しい美しさに歓喜の悲鳴を上げそうになる。

 コルキスパルは、酒を浴びるように飲みながら杖を高々と振り上げて、喝采を送った。彼らの崇拝するドラゴンの力によって、新たなる世界の秩序が幕を開けるからである。



 ……………。


 ……ふむ、まだ、オーロラの動きが遅いな。

 サウルグロスは、黒き鱗より得た力を見て、少しだけ不服そうな顔をしていた。

 ……これをルクレツィアに使うには、もう少し、時間が掛かるな。


 火山の王、サウルグロスは、このオーロラの力を凍土の砂漠に差し向けて、試す事を述べた。そして、ルクレツィアの侵略を、いよいよ本格的に推し進めていく宣言を行った。


 宣言の内容は“刃向かうものは皆殺し。従う者は支配しろ”だった。




 スキンヘッドの男が、ロギスマの隣に立っていた。男は、魔術師のローブを纏っていた。


「ランプ・ランプか」

「はい、ロギスマ将軍」

「少し、バザーリアンの手助けをしてやれ。どうやら、帝都には色々な厄介事があるそうだぜ? お前も人間種族だろ? たまには同種を助けてやれよっ!」

「そうですな、分かりました」


 ランプ・ランプは、人間でありながら、ミズガルマの宮殿に住まい、大悪魔の精鋭部隊に入っていた。この魔術師は、悪魔を召喚する力を与えられていた。


「わたくし、一人では少し不安です。他に手練のものが欲しいです」

「そうかあ。そうだなあ、ちょっと、俺様がクラブのメンバー達に声を掛けてみるわなあ?」

「ははあ。そう言えば、クラブの酒池肉林には参加しませぬが、積極的に、将軍、貴方様の娯楽クラブを支援している御方がいますね?」

「成る程…………、彼女か……」

 ロギスマは笑う。


 相当な実力者だ。

 それは、悪魔の将軍ロギスマが認める程に。

「おい、ランプ。お前を動かそうとしているのか?」

「はい。喜んで、お手伝いしたいと申しております」

「頼もしい限りだな。あの女が動けば、謀反者共や賊共を大量に始末出来るってわけだな?」

 ロギスマは楽しそうに高笑いを上げ始めていた。



「俺のルクレツィアで、一体、何が起きている……?」

 少年は巨大な花の上に立って、四つの頭の蛇に訊ねた。

 ラジャル・クォーザは、旧友に対して、強い憤りに満ちた眼で見下ろしていた。


「イブリア。全てが、貴様の責任だな?」

 断罪するように、天空樹のギルド・マスターである、ヒドラは言う。

 空へと伸びる大樹木の頂上。

 頂上にいるヒドラは、現れた少年に向かって、そう訊ねた。


「ラジャル……。私が動けぬ間に、ルクレツィアで何が起こっている?」

「邪悪が隆盛している。ミズガルマの暗躍だな。……それ以外にも、理由がある。更に悪い事に、西部にて、俺のエルフ達が殺された。邪悪なドラゴン達の軍団が現れた」

 ラジャルは、同胞の血の一滴、一滴を忘れない。

 イブリアは、少し無頓着な部分がある。


「イブリア。元々、お前がこの世界を砂漠に変えたのだぞ? お前の魔力の歪みによって、此処は、凍れる砂漠という異常な世界になった」


 イブリアの善き理解者のつもりであった、ラジャル・クォーザだが、この世界の在り方に対しては怒りばかりを有していた。


「竜王。全て、お前の責任ではないのか?」


 ギルドと今の世界で呼ばれている存在は、元々は、イブリアが一度破壊したこの世界において、イブリアとの戦いに敗北した、強大な怪物達の権力の主張から生まれたものだった。少なくとも、ラジャルはそう考えている。

 

 数百年前のルクレツィアは、戦乱の地であり、あらゆる種族達が争いあっていた。それを見かねた強大な魔力を持つドラゴンであるイブリアは、一度、この世界に滅びの魔法を撃ち込んで、破壊し尽くして、砂漠の地へと変えて、国家を一つにするべく『ルクレツィア』を作った。他は砂漠に変えた。


 しかし、大悪魔ミズガルマだけは最後までイブリアと戦い続けた。

 そして、イブリアの力によって、オアシスへと封じられた。


 ラジャル・クォーザはイブリアの善き友であるつもりでいたが、同時に彼の考えには賛同していなかった。ラジャルはこの世界を緑で溢れる『次元』へと変えたかったからだ。

 

「全部、失敗だ。イブリア。貴様の最大の過ちは、人間という種族を代々の王にした事だ。あの種族が王になり権力を与えたおかげで、帝都に邪悪な暴政が始まり、民は苦しみ続けている。俺の領域にも、腐敗が入り込んできている。それでも、俺は貴様の茶番を見守ってきたつもりだ。俺だけじゃない、ムスヘルドルムもだ」

 その口調は、まるで断罪者のようだった。

 実際、ラジャルは、彼を強く糾弾しているのだ。

 イブリアは、そんなラジャルの怒気に、怯む事なく、彼を見据えていた。


「ムスヘルドルムは、帝都の暴政によって逃げだした者達を保護している。奴もこの国家の在り方には強い疑問を持っている。イブリア、どうかな? 貴様が傲慢で、自らの過ちを認めなかった世界が、これだぞ? 悪いが、この俺はそろそろ、付き合い切れない」

 ヒドラは四つの頭で、吐き捨てるように告げる。


 西部でのエルフ達の虐殺、そして今回の討伐隊殲滅に加え、このヒドラは、久しく現れたイブリアに対して、強い怒りを抱えていた。

 エルフは、ラジャル・クォーザに付き従う配下であり、彼にとっては家族に近い存在でもあった。帝都によって、一体、どれ程、同胞の血が流されてきたのだろう?


「イブリア。貴様の作り出した、転生の宗教も破綻した。ルクレツィアの国王達は、元々は貴様の来世への転生の宗教とは、現世の苦しみに耐える為の嘘でしかなかったが、ルクレツィアの国王達は、ミズガルマと取り引きをして、別の物へと変えた」

「別の物?」

 少年は訊ねる。

「転生の宗教は、ネクロマンシーの儀式へと歪められたのだよ。死後の世界を求める者達が、死後の世界の生を欲する余り、暗黒の魔力に手を染め始めた。それから、邪悪の隆盛が巨大なものになった」

 それを聞き、イブリアは首を傾げる。

「それは、本当か? なら、ルクレツィアは今すぐに……」

「止めろっ!」

 ラジャルは吠えた。


「貴様が、再び安易に、この世界を浄化するというのならば、シルスグリアとゾア・リヒターも黙ってはいないだろうな? 当然、俺もムスヘルドルムも止める、貴様の慢心の現れである滅びの魔法も、既に、数百年の時間を経過する事によって、我々は防ぐ力を有しているんだよ」

「そうか。…………」

 少年は顎に手を置く。


「イブリア。今、此処で、再び俺と戦うか?」

 彼は八つに見開かれた眼で、少年を見下ろしていた。


「イブリア。貴様は傲慢だから、誰からも慕われない。我々はこの数百年の間、守るべき者達が出来た。シルスグリアは闇の天使として、彼女を信仰している者達を見守っている。彼女に従う者達は異教徒と帝都では呼ばれている。ムスヘルドルムは帝都から除け者にされた者達に帝都と戦う術を覚えさせている、盗賊として、ドルムの配下達は日々、鍛錬を重ねている。この俺にだって、守る者達が出来た。俺には、俺を崇拝する、エルフ族と鳥人、そして僅かな人間達を守る義務が生まれた。安易に貴様の粛清によって、守るべき“家族”を殺させるわけにはいかないからな?」


「ほう? そうか…………」

組織(ギルド)を考えたのは俺だ。イブリア、俺から言わせて貰えるならば、お前が作り出した帝都ですら、ただの一つの組織(ギルド)に過ぎない。いつまでも、最高権力である事を奢り高ぶるのは止める事だな。少なくとも、貴様が滅びの魔法を落とすつもりでいるのならば、この俺が貴様を殺すつもりでいる。シルスグリアとムスヘルドルムも同じだろうな……」


 滅びの魔法の反動により、イブリアはマトモに肉体が動けなくなった。

 統治は、帝都の人間の国王に任せた。

 それこそが、全ての過ちだった。


「イブリア。貴様の眼で帝都を確かめてこい。まず、帝都の北部にあるスラムは見ておけよ。それから、『果樹園』『大闘技場』と呼ばれる、国家の見世物(ふはい)も眼にしておけ。それらが隆盛したのは、全て、貴様に責任があるからな?」

 ヒドラは、吐き捨てる。


「俺に会いに来て正解だったな? 闇の天使と邪精霊は、貴様をその場で殺害していたかもしれないぞ? 彼らの配下達は、帝都によって虐待されてきた者達だからな? お前は俺のアドバイスを聞いていれば良かったんだ。国家というものを作った事自体が間違いだったのかもしれないな? もっと間違っていたのは、人間という種族のような残忍性を強く持つ存在を権力者にするというルールを作った事だ」

「それで、お前は俺に結局、何を言いたい?」

 竜王は、率直に訊ねる。


「帝都が、俺のエルフ達を殺す事をこれ以上、我慢出来ない。貴様が思っている以上に、貴様は正義でも何でもない」

 ラジャル・クォーザは、激しい怒りに満ちた八つの眼で、人間の少年に変化したドラゴンを見下ろしていた。

「それは、宣戦布告か?」

「警告だ。貴様が滅びの魔法で国家をリセットした処で、同じ事の繰り返しだ。同じ歴史を辿るだけだ。お前には、この世界の調停者としての器が無かったんだ」

 彼は、何処までもイブリアに対して、辛辣だった。


「言いたい事はそれだけみたいだな。俺は、俺の理念に乗っ取って、調査を進めるぞ」

「ああ、好きにしろ」

 イブリアは、空高く聳える天空の樹木から、降りようとする。

 イブリアが去ろうとした後に、新たな伝令が現れた。


 今日は、やけに伝令が多い日だった。

 珍しい日なのだろう。だが、そういったものは、往々にして重なるものだ。


 鳥人の伝令者が、自身の主人と竜王に対して、先程、見てきたものを述べていく。


 それは、ラジャル・クォーザに更なる怒りを呼び覚まし、イブリアに強い疑念をもたらした。


-謎のオーロラによって、北西にいる生き物達が、化け物へと変容している。-



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