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第十二幕 竜王イブリアと邪悪竜サウルグロス 1

 火山の下にある、森林だった。

 炎に燃えた死体が散乱している。


 高き知性を有するヒドラ、ラジャル・クォーザ。

 エルフ達の長。

 

 彼は、襲撃者達の本拠地を探り当てたのだった。そして、兵を募り、敵の軍団を滅ぼそうと考えていた。エルフの戦士達に命じて、敵の将軍の首を落とそうと考えていた。


 グルジーガ。

 ティラノサウルスの頭部を持つ、リザードマンの獣人だ。

 彼は、巨大な槍を掲げて、エルフ達を血祭りに上げていた。

 全身が炎に包まれた、赤い鱗をしたドラゴン達が、エルフの戦士達を焼き払っていた。ラジャルの先兵達の殆どは全滅していた。残った者達は、この火山の場所を伝える為に逃げ延びたのだった。


 その状況を、鳥型の獣人がラジャルの下に向かい説明する。


「敵の数が、余りにも多く、敵は余りにも強過ぎました…………」

 鳥人は、命からがら逃げおおせたみたいだった。

 彼は、全身を焔で焼かれていた。ドラゴンの吐息を浴びたのだった。


 そして、そのまま、その鳥人は絶命する。

 彼の死と同時に、何らかの魔法が発動する。その鳥人に掛けられていた魔法だ。


≪我々はルクレツィアの帝都を襲撃する。エルフ達の長よ、貴様の住処も焼き払うつもりだ≫


「成る程…………」

 ラジャル・クォーザは、怒りに満ちた八つの眼で、配下の鳥人の死体を見ていた。

「百名近い精鋭達だったが、敵一人討ち取る事が出来ず死んだか。かくなる上は、“石の視線の刃”達を派遣するか?」

 ラジャルは切り札として、コカトリスの獣人達の精鋭を温存していた。敵を硬化させる毒の爪を持ち、その視線の魔力によって敵を殺害する事も可能だった。更に、エルフの暗殺部隊も用意している。

「だが、切り札が通じなかった場合、いよいよ、この俺が出向かなければならないな。この俺が出向くか? もはや、この俺のエルフ達の血を流させるわけにはいかないからな」


 ラジャルの全身から、怒りに満ち満ちた魔力の渦が溢れ出していく。


「ラジャル様っ!」

 フクロウの頭をした鳥人が現れる。

「なんだ?」

「す、すみません、客人ですっ!」

「後にしろ、と言っておけ」

「そ、それが。竜王、イブリアを名乗る者です…………」

 年老いたフクロウの鳥人は、露骨に困ったような顔をしていた。


「なんだ、と……?」

 ラジャルは、一瞬、耳を疑った。



 恐怖による統治こそが、国家を長続きさせる。

 それが、先代の国王から、彼の、寿命により亡くなった父親から言われた言葉だった。恐怖による支配の為には、絶対的な力が必要だった。誰も自らを脅かさない程の力がだ。


 大悪魔ミズガルマとルクレツィアは、戦い続けている。

 その大嘘を作り上げたのは、彼の曽祖父の世代だった。


 ルクレツィア王は、曲者の侵入以来、不安で夜も眠れない生活を送っていた。


 召使いである女の一人が、彼の寝室へと近付く。

「国王様、謁見を求める者が御座います」

「なんだ? 誰だ?」

 バザーリアン・ルクレツィアは、苛立ちながら訊ね、口髭を撫でまわす。

「灰色の肌の御方で御座います」

 それを聞いて、ルクレツィア国王の顔は、少し明るくなる。

「そうか、通せ。謁見の間に向かうとする」

 そう言うと、国王は召使い達を部屋に入れ、身支度を整える。



 謁見の間。


 それは小さな会議室のような部屋だった。

 

 灰色の肌の男、ロギスマが入ってくる。

 全身を鎧で固め、騎士のような身なりをしている。

 顔は兜で隠している。ロギスマは兜を脱ぐ。

 歯茎を剥き出しにした、凶悪な面が露わになる。


「マズイ事になってきたぜぇ。バザーリアン」

 ロギスマは、少し忌々しそうに言う。

「どうした? ロギスマ。わしも、丁度、お主に会いたかった処だ」

「ああ、どうやら帝都を嗅ぎまわっている連中がいるみたいだ。是非、カバルフィリドやティージャ、リズベラ、ザシャーニアンの意見も聞きたい」

 ルクレツィア王は項垂れながら、先日起こった、寝室への侵入者の話をする。

 ロギスマは少し、困惑する。

「バザーリアン、お前の部屋は、確か、結界が張られていなかったか? 侵入者を防ぐ為に、それに暗殺ギルドの奴らが守っている筈だろ?」

 悪魔族の男は、少し思索を巡らせるような顔になる。

 その後で、何かを思い付いたみたいに、歯茎を剥き出して笑った。

 良いアイディアが思い付いた、といった風情だった。


「何を目論んでいる? ロギスマよ」

「単刀直入に言うぜぇ。俺はドラゴンを殺したい」

 その言葉を聞いて、ルクレツィア王は、少し言葉を失う。


「正気か?」

「俺は本気だ。狂ってもいない。いい加減、竜王イブリアにルクレツィアの統治を任せるのはごめんだ。奴は帝都を滅ぼすつもりだ。俺の特使が情報を入手した。そして、脅威は幾つもある、西のエルフ達が襲撃されたらしいが、その地点から、更に北西の辺りに出現した、“謎のオーロラ”によって、次々と“砂漠の生き物達が変異していっている”。謎の現象が起きている。オーロラはいずれ、帝都に近付くだろうな。俺達の側で偵察隊を派遣しているが、まだ完全な確認は取れていないが、どうやら、そのオーロラを操っている奴も、ドラゴンの姿をしているらしい…………」

 ロギスマの話を聞いて、ルクレツィア王は深く意気消沈する。


「やはり、イブリア様の裁きが、いつか訪れると…………」

「奴との契約を破棄するんだっ! 俺の国王である、ミズガルマだって、竜王にムカ付いているんだ。なあ、バザーリアン、この俺は悪魔(デーモン)が支配する領土を増やしたいんだ。そうすれば、お前や帝都の貴族達も、俺達の『パラダイス・フォール』も安寧を得られる。お前ら人間がそうするように、俺だって利権を守りてぇんだ!」


 パラダイス・フォールというのは、ロギスマとルクレツィア王が作った、貴族達で集めた快楽のクラブだった。一般市民には秘密裏に行われる、国民の税金を盛大に使って行われるパーティーだった。


「竜王イブリアと謎のドラゴンを殺害する。そして、お前の処に侵入した者を暗殺する。都市ギデリアを侵略した二人の魔女も殺す。奴らと全面戦争を起こす為に、兵を集めるんだ。俺の方は、ミズガルマ様と交渉を行う。おそらく動いてくれるだろうぜ」


 ルクレツィア国王の顔が、ぱあっ、と明るくなった。


「それは素晴らしいなっ! お前は本当に、このわしに対してよくやってくれる。お前は何か? 俺の死後の魂が欲しいのか?」

「ははっ! マイ・フレンド! 俺はゾア・リヒターのような根暗趣味や、シルスグリアのような、歪んだ正義感なんて何も持っていないぜっ! 俺はみなが幸せになれる事を望んでいるんだっ! だから、パーティーを作っただろ?」


 二人共、どうしようもないくらいに、腐った性根をしていた。

 心底に、自分達以外の存在はどうだって良い、外道でしかなかった。


 ミズガルマとのマッチポンプは曽祖父の世代に考え出されたものだが。バザーリアンが国王に戴冠した後に、ロギスマとの仲は作られた。

 交渉は、ロギスマの方から、持ち出されてきたものだった。

 ……悪魔との契約を強めていこうぜ?

 バザーリアンは、当初、この悪魔が彼を何か策略にはめるつもりでいるのではないかと考えていた。彼の父親の腹違いの子などもいる。彼が国王という身分でいる事を厭っている人間は数知れない筈だった。


 だが、二人のアイディアの出し合いによって、暴政は更に強固なものとなり、そして、パラダイス・フォールという秘密クラブが作られる事となった。


「とにかく、俺は俺の兵隊の中から、使える奴を探すぜ。お前も、お前の中から使える奴を探すんだっ!」

 ロギスマは告げる。

 バザーリアンは頷いた。



 悪魔の将軍、ロギスマと現国王バザーリアン。


 二人の様子を壁にもたれながら、物陰から伺っている者がいた。


 ジャレス・ルクレツィア。

 現国王、バザーリアンの子息だった。彼は端正な顔に、すらりとしたスレンダーな容姿をしていた。

「中々、みんなどうして、面白そうな動きをしているね?」

 彼は口元を押さえる。

「俺も参加してみたいなあ。それにしても、“王宮地下”は俺のものだ。それだけは何としても、守らないとな」

 そう呟くと、彼も行動を開始する事にした。




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