第九幕 次元 『ボルケーノ』 7
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<サウルグロス様、ルクレツィア国への襲撃は上々の戦果でした。>
虹色のトサカを持つドラゴン、ザルクファンドはうやうやしく、お辞儀する。
火山の山頂から見下ろす、一際、禍々しいドラゴンは、配下の者達の動きを満足そうにしていた。
「そうか。俺はオーロラを動かそうと考えている。砂漠に解き放つ。黒き鱗の王の力を有したオーロラだ。これで、我々の支配の準備を行う。実験材料はまずは砂漠に生きる者生物で良いだろう」
サウルグロスは上機嫌だった。
「グリーシャ。コルキスパル。お前達もよくやった」
そして、配下の者達にねぎらいの言葉を言う。
竜の神官の女と、猿人の策略家も、お辞儀を行う。
「さて、計画は幾つか進めているが。まず、あの次元の主を主張するイブリアがどれ程、強力な力を有していたとしても、我々には関係が無いようにしたい」
ルクレツィアとは違う文明。
違う信仰形態。
戦いの為に生まれた者達。
「我々は支配の為に戦う。獰猛な者達よ、血に狂いし者よっ! 破壊を求める者達よ、殺戮を求める者達よっ! 残虐を求める者よっ! お前達は為すがままに略奪を行うのだっ!」
サウルグロスは咆哮のような、叫び声を上げる。
彼に仕える亜人達は、喊声の声を上げる。
サウルグロスの名と、黒き鱗の王の名への崇拝の声が叫ばれる。
「あの世界を支配するぞっ!」
邪悪なドラゴンは、咆哮する。
彼の全身から、瘴気のようなものが溢れ返っていく。
みな、血に狂っている。
みな、破壊に狂っている。
「グルジーガ」
サウルグロスは、一人のリザードマンに呼び掛ける。
リザードマンといっても、恐竜のような頭部をした男だった。ティラノサウルスのような頭だ。全身を武装で固めている。
「グルジーガを、しばらくは侵略の指揮官に任命する。ザルクファンド、お前はしばらくは偵察に回れ。奴らの動きを把握しろ」
ザルクファンドは、うやうやしく巨大な体躯で礼をする。
食物連鎖の頂点にいるのがドラゴンである。
崇拝されるべき者達の頂点にいるのがドラゴンである。
創造の為には破壊が必要である。
生成の為には殺戮が必要である。
サウルグロスは黒き鱗からの伝言を伝えるが、実質的にみなが崇拝しているのは、黒き鱗ではなく、サウルグロスの方だった。
そして、教義がどうであれ、単に破壊出来ればそれで良いという者達も多かった。何故、そうするのか? と、考えるだけムダだった。それが魅力的な行為だから、としか答えられなかった。
間違いが無いのは、ルクレツィアの宗教を破壊する為の狂気の宗教。
それが、サウルグロスが掲げているものだった。
†
黒き鱗と、サウルグロスが統治する世界『ボルケーノ』では、勝利を祝って、謝肉祭が行われた。
戦士達は、狂乱していた。
「酒が美味しいのうぅぅ」
老猿コルキスパルは、人の頭部を浸した酒を飲んでいた。
「そうですなぁ、ひひっひひひひっ!」
グリーシャは、酒のツマミに、串に刺さったカマキリとカミキリムシのカラアゲを、焼き鳥でもつまむように、頬張る。
帝都でも、昆虫は一般市民からも度々、食されているが、グリーシャは特に、甲虫は大好物だった。遥か昔、文明が無かった頃、人類が牛や豚や果物を食べ始める以前に、昆虫食を行っていた頃の時代の血を、呼び戻すのかもしれない。
殺害したエルフの少女を解体して刺身として、馬肉のように盛り付けられていた。
グリーシャや猿達は、戦後の謝肉祭を開いていた。
「こいつら、寄生虫とかいるのかのう?」
老猿は、巫女に訊ねる。
「いますかねぇ、いますかねぇ? 脳とか腸とかにいるかも。ひひっ、ちゃんと焼いて食べないといけませんなあ?」
「悪食を嗜む豪傑はおらんかあ!?」
コルキスパルは、他の猿達に向けて、叫ぶ。
盛り付けられたエルフの少女の生首の頭蓋が斧で割られていく。
頭蓋が開かれた少女の脳髄を、猿達が、スプーンですくって食べていく。
彼らは獰猛な蛮族そのものを体現したような存在だった。
火山の山頂では、サウルグロスが上機嫌だった。
ドラゴン達は、さらった人間やエルフ達を生きながら貪り喰っているみたいだった。悲鳴と、肉が引き裂かれ、骨が噛み砕かれる音が響き渡っていく。
「さて、酔いが回ってきた処、パーティーのメイン・イベントを行わぬか?」
「ええっ、そうですねぇ。一番の楽しみ」
グリーシャは、歓喜に満ちた眼をぎらつかせる。
火山の頂上では、サウルグロスが上機嫌で、配下の者達を見ていた。
黒き鱗の力を広めなければならない。
強迫的なまでの、執念に彼は酔い痴れていた。
偉大なる力。
そして彼は、大オーロラを解き放つ。
黒き鱗のもたらす、強大なオーロラだ。
彼にとって、その力以外に、今は何も見えていなかった。
ただ、自分以外の存在を利用する事しか考えていなかった。
その為に、彼らは汚らわしい者達も、利用する事を考えたのだった。
†
火山の頂上付近に住まうドラゴン達は、まどろむような姿勢で大地に寝そべりながら、獣人達を見下していた。
彼らの欲望には辟易していた。
<本当に、奴らは知性が無いな。獣欲しか無い脳無し共が>
司令官である、鮮やかなトサカが特徴であるドラゴン、ザルクファンドは、心底から、軽蔑するように、火山の下にいる者達のパーティーを高みから見下ろしていた。
自分達の部下の醜悪さに、嘆きたくなってくる程だ。
他のドラゴン達も、ザルクファンドに同調するように、翼を揺らす。
「グロス様はどうされている?」
炎のような鱗のドラゴンが、ザルクファンドに訊ねる。
<黒き鱗と交信を行っておられる。邪魔するなよ。それにしても、奴らの狂態は何なのだ? 知性の欠片も無いクズにしか見えんぞ?>
「人型種族はどうしようもないんだ。つねづね、グロス様がおっしゃられている。獰猛で野蛮なモンスターだ。人間も、猿も、トカゲ男も、あの連中は同じだな」
<利用出来るものは利用しろと、サウルグロス様は常々、言っておられる。我らの深遠なる計画の為に。奴らは駒としては優秀なんだろう。品性の欠片も無いもの程、戦士としては優秀なんだろうな。俺には耐え切れんが>
彼は苛立たしげに、尻尾を大地に打ち鳴らした。
†
猿やトカゲ男達が、見境なく乱交に耽り、その後で、戦利品としてさらってきた、人間とエルフの美男美女を犯していた。嬲りながら、凌辱を続けていた。
カーニバルの中には、猿やトカゲと、一糸まとわぬ全裸でまぐわうグリーシャの姿もあった。グリーシャは、当初の目的である、ドラゴンとの性交渉の事を忘れて、ただ勝利の美酒として退廃的な欲望に耽っていた。
散々、強姦されて虐待された後、戦利品達の末路は肉として喰われる運命にあった。自然の秩序を取り戻す、とした結果が、このような惨状だった。
サウルグロスに、司令官として任命されたザルクファンドは、副官の思想に疑念を抱き始めるのに、そう時間は掛からなかった。
†
……下等生物共が。
ザルクファンドは、パーティーを見下ろして、ついに吐き気を覚え始めた。
<おい、先程、俺はグロス様から休暇を貰った。少し帝都に向かう。敵の調査も行いたいからな。侵略の際に、将軍として恐竜の獣人であるグリジーガが任命されたそうだ。以後、俺の役職は、奴が引き継ぐだろう。しばらく休暇を取らせて貰う>
ザルクファンドは、他のドラゴン達にそう告げると、火山を飛び立っていった。
ドラゴン達は、本音では、自分達に仕えている猿や獣人共は、配下としての価値があるのかを、そもそも、生かすに値するのかを、本気で議論するべきだと悩んでいた。
サウルグロス
※
9幕は、グロが食傷気味になっているかもしれません。
今回、露骨にR18シーンが入っているのと。
グロ描写の入れ過ぎで、ストーリーのテンポを削ぐ事を懸念して多少、自主規制致しました。
R18に無修正版を移動しました。




