第九幕 次元 『ボルケーノ』 5
リコットの描写を取り出したショート・ショートです。
『魔女の城のメイド‐接待‐』
https://ncode.syosetu.com/n8499ek/
2
リコットは、ギデリアの街に辿り着く。
メアリーに言われた、炎の城が見えた。
砂漠に隣接する形で、建造されている。
「うふふふっ、メアリーさん。僕様を歓迎してくれるかなあ?」
彼女はとても嬉しそうだった。
ロギスマいわく、とても重要な任務なのだと言う。だが、リコットからすると、ただ親しくなりたい人と仲良くなれる機械でしかない。
「特に何かして来いって言われても、困るしね?」
門には全身が炎に包まれた、骸骨達がいた。
事前に、リコットの事は告げられているのか、彼女を門の中へと通す。
門の中をくぐる。
一瞬、様々な怪物達の顔が浮かんでは消えていく。
どうやら、幻覚、だったらしい。
何かの力なのかもしれない、リコットはそう思った。
館の中には、全身縫い目だらけのアンデッドの執事がおり、リコットを案内していく。
とても楽しい、パーティーなどだと聞かされている。
案内された場所は、大広間であり、メアリーが紅茶を口にしてソファーに座っていた。
贅沢なお菓子が並んでいる。
「あら? リコット。待っていたのよ」
悪魔の少女は色鮮やかなケーキを眺める。
どれも美味しそうだ。
「可愛い子、もう少し。此処に来ない?」
メアリーは微笑む。
甘い香のようなものも、部屋の中には焚かれていた。
「マッド・ティー・パーティーにようこそ、貴方は私の好みの子よ」
メアリーは笑う。
この部屋が、外観の燃える死体の城とは代わり、まるでお菓子の国に迷い込んだみたいだった。
リコットは、苺タルトやチーズケーキを口にする。
温かいハーブ・ティーも口にした。
全部、メアリーの手作りだという、とても美味しかった。
特に、チーズケーキのまろやかさは、とても口の中で溶けていく。
ハーブ・ティーの香りも良い。
ふと。
彼女は、突然、睡魔に襲われる。
そして、そのままソファーに横たわり、すやすやと眠りに付く。
「……ルブル」
メアリーは、少しだけ困ったような顔をする。
奥の部屋では、漆黒もドレスをその身に纏った魔女が腕組みをして現れた。
「お薬を入れていたのは貴方ね?」
メアリーは、振り向かず、訊ねる。
「ええ。貴方が迷っていたみたいだから」
そう言うと、魔女は粉薬を入れていた袋を地面に投げる。
「…………、私は無傷で帰したいのだけど…………」
メアリーはそう言うと、アップルパイを口にする。
ルブルは不機嫌そうな顔になる。
「貴方らしくないわね。デス・ウィングと、何かやりとりをしているみたいだけど」
少しだけ、二人の間で険悪な感情が走る。
メアリーは、頭の中で思考を巡らせていた。
完全にルブルは機嫌を損ね始めている。
デス・ウィングが城に入り込んでからだ。
ルブルは、デス・ウィングに対して明らかに不快感を示している。情報交換を続けている、メアリーの行動にも内心では面白くないと思っているみたいだ。
「……とっくに気付いていると思うけれども、この少女。“細工”されていると思うわよ。意図的にこちらに送り込まれたんじゃないかしら?」
ルブルはメアリーに訊ねる。
ふうっ、と、メアリーは大きく息を吐き出す。
……ミズガルマの宮殿で、彼女と約束を交わした後、彼女が何かしらの細工をされて、こちらに送り込まれてくるだろうとは考えていた。
「いつも通りにすれば良いのよ、メアリー。ねえ? たまには私の言う事も聞いて欲しいわ」
ルブルは強い口調で言った。
メアリーは頷く。
「そうね。彼女を……少し、調べさせて貰うわ…………」
魔女の召使いは、カップの紅茶を飲み干した。
†
手術室。
ルブルが死霊術の実験に使っている場所だ。
そこに、リコットを寝かせていた。
此処にあるルブルの作り出した装置で、精神を覗き見る事は、少しだけ出来る。
「……ミズガルマ様の謁見の間で……、ええっと、その僕様は……、役割を与えられたんです。…………あの、その、力のようなものに触れました。これで城の中を調べてこい、って、あの、その…………」
催眠術によって、寝台の上で、リコットが経緯を吐き出していく。
メアリーは頷く。
この少女を使って、何か仕掛けてくるだろうと考えていたが。そういう事か……。
「あら、この縫い痕は何かしら?」
メアリーは、リコットの身体検査を行っている途中、腹の辺りに奇妙な縫い跡があるのが分かった。触ってみて、異物を確認する。
「困ったわね…………」
リコットは始末するしかない、それ以外に在り得なかった。
どんな力か分からないが、リコットは“ミズガルマの眼”にされている。おそらく、彼女の記憶の中に魔術的な何かを埋め込まれているのだろう。
つまり、リコットの眼を通して、この城の中の情報はミズガルマに渡っているのだ。
リコットは、生きて動く、監視カメラのような役割なのだ。
彼女が動く度に、城の内部は漏れ出している。
こちらの戦力、戦術は知れ渡ってしまうのだ。
「多分、記憶に細工されているんでしょう? なら、それを司るものを排除すればいいじゃないかしら?」
ルブルは満面の笑顔で、医学の本をメアリーに渡す。
付箋が入っていた。
彼女はこのページを開く。
「…………、ルブル……」
メアリーは少し逡巡する。
だが、彼女の機嫌をこれ以上、損ねない為にはやるしかなかった。更に、それ以外のアイディアで、リコットの始末の付け方は、メアリーには思い浮かばなかった。
†
灰色の脳が剥き出しで、リコットは鏡張りの部屋で自身を見ていた。
奇形の姿で無数の腕を持ったアンデッド達が、手に手に医療器具を持っている。
天井には、ネオンライトが灯っていた。
ロボトミー手術。
それによって、前頭葉を切除する事にした。
リコットの記憶中枢を破壊して、心を半分失った廃人にする事でしか、彼女を生きて帰す手段はメアリーには無かった。……このままでは、ルブルを危険に晒す事になる。
「残念なの。リコット……。貴方をその、酷い目に合わせたくは無かったのだけど……」
メアリーは、薄らと笑う。
彼女は血のトレーを持っていた。
トレーの上に置かれているのは、かつてリコットの頭の一部だっただ。少女は、何となく、それを理解する。
その表情は酷薄だが、少しだけ複雑そうな感情が込められていた。
同時に、どうしようもない加虐的な嗜好も隠す事が出来ない、といった表情もしていた。
「じゃあ、今度は首から下の手術ね」
メアリーはメスを取り出す。
縫合医をしているアンデッド達に手伝って貰い、胸と腹も裂いて貰った。彼女の身体の肺の下辺りに設置されていた爆弾も取り出す。大爆発を起こす程のものでもなかったが、部屋一帯を粉微塵に吹き飛ばすくらいの威力はありそうだった。
「……彼女、完全に捨て駒にするつもりだったのね…………」
メアリーは呟く。
悪魔族というだけあって、あの勢力も情け容赦が無い。
「命拾いしたわね。大丈夫よ。貴方はアンデッドにはしないから……」
メアリーは、リコットの耳元で囁く。
肌をなぞり、長手袋の指先で、腿から上を撫でながら、ついには、海溝の奥を刺激する。
最初は一本。優しく。
谷間は湿る。
少しずつ、少しずつ、茂みの奥に、指を押し込んでいく。
二本目も入る。
リコットの全身が痙攣していた。
…………腸の隙間から、メアリーは指を、優しく引き抜く。
「うん、ここはどういう風に感じるのかしら?」
長手袋の指先で、肺の辺りを優しく刺激する。
最初は指一本。優しくなぞる。
びくん、びくん、と谷間は液を湿らせている。…………。
「あら、いけるじゃない? 一気にいくわよ?」
メアリーは囁き、手首ごと、深く押し込んだ。…………。
†
メアリーは、ソファーの上で寝ている少女に毛布をかける。
凍土の砂漠の風の影響で、冷たい城の中に、冷気が入り込んでくる。
城は、都市と砂漠の境目に創られている為に、酷暑の熱気と、砂漠の冷気が同時に入り込んでくる奇妙な空間となっていた。
手術は終わった…………。
しばらくすると、リコットが眼を覚ます。
彼女は半ば、心なき廃人になるだろう。
それでも、メアリーは彼女を愛そうと思った。
「よろしく、リコット」
メアリーは、ぼんやりと天井を見続け、時折、小さく笑い始めるリコットを優しく抱き締める。
「あれ、あれ、僕様……、どうなっちゃったの?」
「大丈夫よ。これからは、貴方をもう傷付ける人はいないから……」
メアリーは柔和に唇を歪める。
そして、少女の額にキスをする。-
リコットはぼうっとしながら、立ち上がって転んだ。
頭蓋の縫い目と、胸からお腹へと走る縫い目、どちらを気にするのだろう、と、メアリーは少し好奇心を持った。
†
四日後、リコットはこの城の中から逃げ出した。
窓を破壊して出て行った形跡があった。
粉々になった窓ガラスを見て、メアリーは彼女の頭蓋とお腹の傷が回復したら、天蓋のあるベッドの中で優しく愛し合おうと思っていたのに、と少し、下唇を噛んだ。
※メアリーは、このシーンで一般的な意味での性的愛撫は行っていません。
性行為のシーンも書いていません。
したがって、R18は……、うん……セーフ!




