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第九幕 次元 『ボルケーノ』 3


 ルクレツィア西部、プラン・ドラン。

 そこは、ギルド『天空樹』の領土の一つであり、この凍える砂漠と酷暑の街の世界において、緑が生い茂っている数少ない奇妙な空間だった。


 ミノタウロスの戦士ハルシャは、ギルド『天空樹』との交渉を考えていた。

 プラン・ドランという地区は、エルフ達の集落と化しており、天空樹のギルド・マスターであるラジャル・クォーザの管轄にある。エルフ達は他の亜人を嫌い、ひっそりと暮らす事を好んでいた。

 彼らは森林に住み、入り込んでくる者達をつねに警戒している。


 ミントは、ハルシャに付き添って、この地区に訪れた。

 人間の魔法使いロガーサは、護衛を行う為に、国王の下へと向かった。

 オークの戦士ゾアーグは、魔女達の手によって負傷した者達の護衛を行うという取り決めをしていた。

 ミントとハルシャ、二人だけで目的地に交渉に行かなければならない。

 蒸気機関車に揺られる中、ミントは浮かない顔をしていた。

 …………デス・ウィングと墓所に訪れた事。

 この国の宗教に関して、つねづねに疑問に思っていた。

 帝都の北にある、大スラムには大量の貧困者が苦しんでいる。帝都に住まう貴族達は身近にいる貧困者達を蔑む為に、わざわざ大スラムを見に行く者達も多いのだと言う。何しろ、大スラムから少し離れた場所には処刑場があるからだ。処刑場には、つねに死体が吊るされている。腐敗臭も酷い。

 貴族達の中には、スラム街を駆除して、住民達を帝都から駆除しようと考えている者達も多い。一方で、悪趣味を好む者達は、東にある貴族達の住まう宮殿からスラム街を観察出来る為に、あえて貧困者達の住まうスラムを放置しておきたいと主張する者も多いのだ。勿論、貧困者達の一部は暴動を企てたり、貴族の報復を考えている者もいるが、貴族達は護衛兵達を付けて、襲撃者達を返り討ちにし、生け捕りにし、拷問や処刑を楽しんでいるらしい。

 そして、帝都の南は中流層(いっぱんしみん)の住まう都市だ。

 帝都周辺にいくと、露骨なまでの経済格差を眼の辺りにする事になる。

 中流層達は、(スラム)(かねもち)の頭の中に興味がない、日々を享楽的に過ごしている者達が多く。適度に税金を支払って、適度に法に守られながら暮らしている。


 これから向かうエルフ達の集落は、ルクレツィアの経済による階級とは違った文化を築いていると聞く。そう、ルクレツィアは王だけのものではない、今の王の曽祖父が生まれるよりも遥か昔、各種ギルドのマスター達は、ルクレツィアと周辺の砂漠の主である竜王イブリアとの契約によって、それぞれの権利を主張する事に成功した。


「ハルシャ……」

 ミントはふいに機関車のシートに腰を降ろしている、武骨な牛男に訊ねる。

「なんだ?」

「貴方はルクレツィアの王は正しい人間だと思っているのですか?」

「バザーリアン様か。私は任務に忠実なだけだ。紅玉業というギルドの任務にな……」

 彼はそれ以上は答えなかった。

 それから、十分後、エルフ達の集落のある村へと辿り着く。


 牧畜が盛んで、牛や馬、羊といった家畜が育てられている。

 また、鍛冶職人達も多く、ハルシャは此処で防具の整備も行っていた。


「さて、彼はいるかな?」


 森の近くに辿り着く。


 エルフ達の集落が見えた。

 エルフ達は、巨大な森の上に住居を作っている場合が多い。


 エルフの一人が、地上に降り、ハルシャとミントの二人の下へと近付いていく。

 弓兵の甲冑を来た男性のエルフだった。


「久しぶりだな。紅玉業の英雄。今日は何用かな?」

「バルーサ。ギデリアの惨劇は知っているな?」

 ハルシャは訊ねる。

「ああ。突如、現れた魔女二人によって襲撃され、乗っ取られた都市だろう? 国王は随分と困っているんじゃないか?」

 エルフの男は、顔は笑っているが、眼は笑っていなかった。

「お前達のギルドに協力を仰ぎたい」

 ハルシャは単刀直入に告げる。

 エルフの戦士である、バルーサは少し眉を顰める。


「ギルドは、国王の命令を受けない。それは分かっているな? お前が幾ら王族直属護衛軍とは言え、我々は命令に従わない」

「このままでは、魔女達はこの国家を破壊するぞ? 貴殿らはそれでも良いのか?」


 しばらくの間、エルフの戦士は口を閉ざしていた。

 そして、鼻を鳴らす。


「我々のギルド・マスターは、この国を嫌っているのは分かるな? ルクレツィアの国王が、我々の領域を侵し、次々とエルフの仲間達を奴隷にしてきた歴史を忘れていない。それに我々の大自然を破壊した。それにハルシャ。お前は我々のギルドの試練に挑んでいない。直に、天空樹のギルド・マスターに願い出てはどうだ?」

 ミノタウロスの戦士は、少し困ったような顔をする。

「やはり、貴殿らは頭が固いな。今やルクレツィアは危機だ。それでも、手を貸さぬか?」

「ルクレツィアが危機的な状態だったのは、今に始まった事じゃない。魔女二人の破壊? たかが、都市一つの奴らが殺害され、ゾンビにされただけだろう? 我々には関係が無い。もし、交渉がしたければ、帝都の奴隷商人達から、我々の同胞を解放する。それくらいはして欲しいものだ」

「……やはり、あのヒドラは動かぬか」

 ハルシャは唸る。

「ラジャル・クォーザ様は帝都を嫌っている。……まあいい、ハルシャ。お前とは友人だ。武器や防具の補給だけはやってやる。一晩、この村に泊まっていけ。用意してやるから」

 そう、バルーサは笑みを返す。

 ハルシャは腕を組みながら、嘆息する。


「まあいい。礼を言う……」

「もてなしてやるよ。お前が遊びに来るのは、いつでも歓迎だ。だが、兵は貸せない。俺はお前とは友人だが、国王には憎しみしかないんだ。帝都の多くの奴らにもな」



 ルクレツィア西部、プラン・ドラン。

 そこは、隣接している異界『ボルケーノ』に近しい場所だった。


「侵略の為に、まず駒を派遣する」


 それが、黒き鱗の副官である、サウルグロスの命令だった。

 類人猿達と、グリーシャが命じられたのは、駒達によるルクレツィアの民の襲撃だった。まず、近しい場所を攻撃しろ。


「コルコル。クルキスパル」

 グリーシャは、類人猿の兵隊長達の名を呼ぶ。

 片や、知性の乏しいマンドリルの戦士。

 片や、狡猾なオランウータンの老獪(ろうかい)

 毛色こそ違うが、両者共、醜悪な感情を剥き出しにしていた。

「私も参戦するっ!」

 グリーシャは叫ぶ。


 天空樹というギルドには、失われた四肢を再生させる技術があるという情報がある。

 グリーシャは、それを好機だと考えていた。

 

 檻の中にいる原始人達は、都合の良い切り込み隊長だった。

 

「こいつらに、しばらく餌を与えていないのね?」

「ああ、そうじゃ、そうじゃ。こいつらは肉に飢えておる。ひひひひひっ……」

 老獪なオランウータンは、とても楽しそうな顔で杖を付いていた。


 類人猿達は、ドラゴン達の住まう神殿へと向かった。

 彼らの背に乗り、襲撃を開始するのだ。




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