第九幕 次元 『ボルケーノ』 1
いたって普通のダーク・ファンタジーを書いていたつもりが。
残虐さが凄まじいそうです!
本人としては、いたって普通の何処にでもありそうなファンタジーです!
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邪悪なドラゴン、サウルグロスと、その主である“黒き鱗の王”が支配する世界『ボルケーノ』の火山の下には、類人猿達の集落があった。
グリーシャは、類人猿達に、その集落へと案内される。
サウルグロスの配下である類人猿達は、弱い者イジメが大好きだった。
自分達よりも劣っている者を見ると、なぶりたくて仕方ないといった、卑しい者達だった。
「グリーシャッ! グリーシャッ! 見てみろよ? こいつら、面白い反応するぜえっ!」
彼らは騒ぎながら、その場所へと彼女を案内したのだった。
そこは、彼らが家畜場と呼んでいる小屋だった。
中からは、呻き声が聞こえる。
グリーシャは、この小屋の中へと入る。
小屋の中は、ジャングルのようになっていた。
蔦が小屋の中を這っている。
中には、檻の中に入った人間達がいた。
彼らは人語を話さず、ひたすらに唸っていた。
汚らしいぼろ布を纏っている。
全身は男女共に、筋骨たくましい。
彼らの一部は飢えさせているのか、投げ入れた動物の糞などを喜んで食べていた。自らの小便を飲んでいる者もいた。そうでなくても、草や虫を喰っている者もいた。
「なんだ? お前ら? こいつらは?」
「俺達のペットだよっ! 子供の頃から飼育してやっているんだっ! 成長して、野生動物のようになっているぜっ!」
「ほんと、悪趣味ねぇえ?」
「こいつらは、俺達より知能が低いっ! サルなんだよ、サルっ! うきききっ!」
オラウータンや、マンドリル達は、本当に楽しそうに騒ぎながら、檻の中にいる原始人のような存在に対して、石を投げ付けては遊んでいた。
「サウルグロス様の命令で、何か使える奴らを、ルクレツィアのギルドに対して差し向けろって言われているんだっ! 宣戦布告としてなっ! こいつらを使うのは良いアイディアなんじゃねぇかよおっ!」
類人猿達は、とても知性のある生物種とは思えない笑い声を上げ続けた。
強大なドラゴンに従うサル達は、何処までも醜かった。
「そういえば、グロス様、さっき私に言っていたなあぁ。“人間共は知性がある事によって驕り高ぶっているが、果たして知性の無い人間は人間と言えるのか?”って」
サウルグロスは、配下の類人猿が飼育している言葉を教えられずに野生化した人間達に対して、そのような事を言っていたのだろう。
「しかし、ホント。お前ら、悪趣味ねぇー」
「へへっ、へへっ、違うぞ、グリーシャ。わしらは、本気でこいつら原始人を兵士として使うつもりなんだぞっ! ただの玩具では無いわっ!」
少し年老いた、チンパンジーの男が告げた。
「兵士ねぇ……」
グリーシャは首を傾げる。
檻の中にいた人語を話せない人間達は、外にいる猿達に向かって自身の排泄物を投げ付けて報復していた。それを見て、外の類人猿達は更に笑う。
†
知性の高いドラゴンは人間の姿に変身出来る者が多いと聞く。
グリーシャは人間の姿を取っているドラゴンと性交渉を行いたかった。その為に、イブリアに近付いた。ドラゴンの子を宿せば、自分の人生は報われる。そうならなかったとしても、彼女が性欲を抱く相手は大体、強く、力のある者達だった。
イブリアが駄目ならば、次はサウルグロスを狙っていた。
あの邪悪なドラゴンと性行為がしたい。
子供を孕みたい。
力のある血統が、遺伝子が欲しい。
グリーシャはそんな事を思索しながら、機会を狙っていた。
実際、彼女は性行為が目的でイブリアに近付き、仕掛けようと思っていたが、ことごとく失敗に終わった。イブリアは彼女を性的対象に見てはくれなかった。
……いっそ、強姦してでも、サウルグロスと関係を持ちたい。
女が男を強姦する、というのも、妙なものだが、関係無い。
自分が気にいった男は、何としてでも褥を共にしたい。
そして、彼女の恋愛対象、欲情の対象は、力のある者だった。理性的な権力志向と、そもそも、根本的にそういう性癖である、という感覚的なものの両方があった。
異種姦によって生まれた自分を受け入れてくれる場所なんて、何処にも無い。
迫害され、軽蔑され、そして排斥される。
自分という存在は“無かった事”にされる。
権力者の子供を孕んでやれば、誰も彼女を軽蔑する事は出来ない。ひれ伏すしかない。力の無い存在は、この世界で虐待されるだけなのだ。烙印を押されてしまった者は、階級の頂点に立つしかないのだ。
そして、差別する側に回るしかないのだ。
だから、ドラゴンと性行為して妊娠してやる。
グリーシャは、何処までも愚かだった。…………。




