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第八幕 ギルドの争い、邪精霊と呪性王。 2

デス・ウィング「ジェド、お前は主人公だ! ヒーローになるんだ。この世界の英雄になるんだ!」

ジェド「デス・ウィングさん…………。なんで、そんなに嬉々として楽しそうな顔をしているんですか?」

デス・ウィング「頑張れよ、ヒーローになれよ。物語の主人公のように、最高に大舞台の英雄になれっ!」

ジェド「…………、いえ、なりたいですけど……」

デス・ウィング「お前の仇名はこれから『主人公』だな!』

ジェド「…………。…………」


盗賊達のねぐらへと向かう途中の二人の会話。


「帝都の奴らとは同じになりたくないんです」

 山賊のリーダー格をやっていた男、ベルジバナはそんな事を述べた。


 洞窟の中だった。

 商人達から奪った食糧を使って、その夜はみなで宴を開いていた。

 デス・ウィングは出された料理を口にする。

 シチューだ。

 肉は少ないが、ちゃんと野菜も香辛料も入っている。

 おおざっぱな料理に見えて、丁寧な味付けがされていた。


「お前達は何者だ?」

「我々は『邪精霊の牙』というギルドのメンバーなのですが、盗賊、山賊、夜盗達のギルドです。見ての通り無法者でして、行商人達を襲撃して日々の暮らしを営んでいます」

「ギルドか。私はギルド巡りをしている。これからクレリック達のギルドに向かうつもりだったんだが」

「そうですか。あの、もしよければ、うちのお頭と、ギルド・マスターにお会いして下さいませんか?」

 デス・ウィングは、困惑したような顔になる。


 ジェドは、何故か、山賊達と意気投合したみたいだった。しきりに勧誘されているみたいだった。どうやら、此処にいる山賊達の多くはワケありの人生を送っている者達が多いらしく、孤児となったジェドはいたく歓迎されていた。


「貴方の先程の腕、拝見致しました。強大な魔法使いですか?」

「違う。私の力は魔法とかじゃない」

「なんでもいいです。我々は日々を犯罪によって暮らしていますが、帝都と戦う事が目的です。みな、帝都の暴政によって貧困に苦しみ、劣悪な家庭環境に育ち、気付けば、盗賊に落ちぶれた者達です」

 デス・ウィングは固く手を握られた。


「お頭から伝聞で聞いています。お頭はギルド・マスターから聞かされたと。貴方はあの『天空樹』のギルド・マスター、ラジャル・クォーザに気に入られたとか」

「知らないな」

「天空樹と我々、邪精霊は協定を結んでいます。天空樹はルクレツィアの文明を嫌っていますし、我々は先程も言った通り、帝都から迫害された者達です」

「そうか」

 デス・ウィングは、ルクレツィアのギルドには興味があった。いずれ、可能な限り接触しようと考えていた。なので、好都合だ。


「是非、お頭とギルド・マスターに会って下さい」

 ベルジバナ及び、このギルドのメンバー達は、デス・ウィングに対して、好印象を抱いているみたいだった。


 後ろでは、ジェドが山賊達と共に、ビールの一気飲みに挑戦していた。



「早速だが、我らがギルド・マスターである精霊様に会って貰いたい」

 山賊達の頭である人間の男、ガザディスは洞窟の奥へと、デス・ウィングを案内する。彼は、顎に鬚を蓄えており、長く伸びた髪を編み、頭の両サイドを刈り、両耳に幾つもピアスが施し、筋骨逞しい強面の無頼漢といった風情だった。だが、彼は、何処か物腰の柔らかい男だった。


「いいが。お前達は人殺しは嫌いなのか」

「はい、我々は帝都の残酷な処刑を目の当たりにしてきましたし、邪悪な悪魔崇拝のギルドのメンバーや、暗殺者達のギルドのメンバーと同じになりたくはありません。我々の敵はルクレツィア王です。そして……」

 ガザディスは、少し言い淀む。

「そして、紅玉業のメンバー達。特に、ミノタウロスの戦士ハルシャは、ルクレツィア王の忠実な側近であると聞かされています。私は何度も、あのミノタウロスとあいまみえて、敗走を余儀なくされました」

 山賊の頭は、洞窟の奥へと、デス・ウィングを案内していく。途中、吊り橋を通っていく。深い谷底にかけられた橋だった。

 吊り橋を渡った後に、丸太で作られた階段があった。二人はそこを昇っていく。木々が生い茂っていた。深い闇が広がる。途中、オークの魔法使い達が二人を見て、うやうやしく礼をする。


 奥には、祭壇があった。

「この先に、我らがギルド・マスターである精霊様がいます」


 デス・ウィングは祭壇まで歩く。

 上から気配がした。

 どうやら、此処のギルド・マスターもかなり巨体みたいだった。


「お前は何だ?」

<我はこの森と大地の精霊である、ムスヘルドルムであるぞ。お前の名は?>

「私はデス・ウィングだ」

 彼女は腕を組みながら答えた。


定命(じょうみょう)の者よ。我はこの大地の怒りそのもの。ルクレツィアという都市国家は、余りにも血を流し過ぎている。悪魔との契約こそが、その災禍の始まりだ。あの国家の創造主である、竜王イブリアも酷く憤っておる。我はイブリアがあの都市を創造する、遥か昔より、この世界に住んでいた古き者だ>


「定命か。違うな、私は不死だ。定められた命を生きていない。私は私を殺せる存在を探している。もっとも、選り好みはするがな」

 デス・ウィングは定命の者、という言葉が気に入った。

 そうだ。自分は違うのだ。他のあらゆる者達は死んでいくが、自分は死ぬべき運命の定めがない。自分は死を望み、他者の死に歓喜する者なのだ、と……。

 ……定められた命を生きている者達のやっている事は、全て舞台劇なのだ……。


 森の木々が囁いていた。

 彼女は、その怪物の姿を少しだけ垣間見る。

 それは、全身に魔術文字が描かれた、肉食獣のような頭をした人型の巨大な怪物だった。カメレオンのように、すぐに森の木々や大気に溶け込んでいく。

 その体躯は、小山程もあった。

 彼もまた、人の歴史を傍観し続けてきたのかもしれない。



 帝都には、処刑場がある。

 そこには、何名もの者達が吊るされており、何日も拷問に掛けられた後、道具や鳥や動物を使って、処刑されるのだった。


 主に、見せしめの処刑が行われるのは、内乱罪を企てようとした者達だった。

 内乱罪を起こそうとした者達の死の運命は拷問死だった。帝都の宗教を憎み、ルクレツィア王に背こうと徒党を組んだ者達は様々な拷問によってなぶられて、晒し物にされていた。今度、その処刑場がある地区に共に向かう事を、山賊の一人がジェドに提案している処だった。


「俺は両親共、ルクレツィアの王に殺された。兵士の在り方、経済格差の在り方に関して訴えていたからな。友人もだった。俺の友人は刑から解放されたが、右手の指を全て削がれて、右目も潰された。更に、脊髄にも重い障害を負ってマトモに歩けない。今では物乞いをやって喰い繋いでいる、盗賊として生きていく事も出来ない。なあ、ジェド、お前、本当に兵士に志願しなくて良かったなっ! 鉄砲玉にされる処だったんだ」

 その山賊はまだ若かった。

 ジェドよりも、数歳年上、といった処か。


「お前、ギルド・マスターの娘の仲間をやっていたのか。だが、あの女は帝都直属護衛軍の牛男、ハルシャの弟子みたいなもんだ。ハルシャの弟があの娘のギルドに入っているだろ。あいつらは国家の暴政に加担してやがるんだ」

 山賊の青年は、シチューに商人達から奪った黒胡椒をふんだんにぶちまけて食べていた。

「ミントさんは、そんなんじゃないですよ」

「どうだか。とにかく、俺はギルド・マスターの娘と親交の深い、あのミノタウロスの男だけは許せない。あいつは最低な偽善者だ。街の治安を守っているとしているが、あいつが国王を守るせいで、俺達の仲間は間接的に国王から処刑される事になった」

 彼はとても苦々しそうな顔になる。


「ジェド、俺はな。正直、二人の魔女が攻めてきて良かったとさえ思っている。俺は帝都の奴らが苦しむ事が嬉しいんだ。分からないかもしれないけどな、此処にいる他の奴らも、大なり小なり、そんな事を思っている。みんなワケありだ」

 彼の横顔には、やり場の無い悲しみや怒りが浮かんでいた。


「俺はルゴベット。ルゴって呼んでくれっ!」

 童顔の若者は気さくだった。

 長い髪にバンダナを巻いて、逆立てていた。

 彼は、とても友好的な青年だった。



 深夜の出来事だった。

 何者かが、洞窟の扉に入ってくる。


 それは金髪に、クレリックの法衣をまとった少女だった。


 酒に酔い潰れて、入口の辺りで泥酔して眠っていたジェドは、その姿を見て夢うつつの中、しばし混乱する。

「ミントさん…………?」


 ミントの姿だった。

 いつも着ているような法衣を身に纏っている。少し薄着みたいだった。

「あのすみません、道に迷ってしまって……。こんな山の中……、凶暴な動物やモンスターも徘徊していますし……」

 盗賊団の中の一人の青年が立ち上がり、少女に声をかける。


「おい、お嬢ちゃん、どうしたんだよ? 俺達は山賊だぜ。こんな山奥に迷い込んではいけないな。一晩だけ宿を提供してやるから、明日は街に送っていってやる。入りな」

 青年はジェドのように、少し下心を顔に出していたが。すぐにそれを飲み込んでいた。

「山賊?」

 少女は露骨に怖がる。

「馬鹿」

 他の青年が立ち上がり、少女に声をかけた青年を叱責する。


「いや、その、お前。此処、寒いだろう? そんな薄着で大丈夫か? 俺達は山賊といっても、義賊だ。お前に危害を加えたりしない。この辺りは危険なモンスターが徘徊しているから早く入れ、それにその姿だと風邪を引く。最悪、肺炎にかかるかもしれない」

 下心を見せていた青年の方が、口を挟む。

「なあなあ、お嬢ちゃん。名前なんて言うの? 何処から来たの?」

「私は…………、記憶が混乱しています。私は自分の名前を思い出せません、何処に住んでいたかも……」

「そうか、……精神操作の魔法をかけられたかもしれないなあ。……余程、悪質なものでなければ、じきに解けるって聞いたぜ。とにかく腹減っているだろ? 飯食って、寝な」

 ミントは、洞窟の中へと入っていく。

 ……記憶喪失……?

 ジェドは、ミントに声をかけようとする。

 彼は、ミントへと近付いていく。


「ミントさん、ミントさん、この俺の事は覚えていますか!?」

「あのう、…………、貴方は……?」

 ミントは、しばらくまじまじと、ジェドの顔を見る。

 そして。


「はい、確かに貴方の顔は覚えています。でも、何処でお会いしたか分からないのです。確かに貴方と色々なお話をした記憶が断片的にありますが、上手く話せません……」


「俺の事は分かるな?」

 山賊達の部隊を率いている男、ベルジバナがミントに声をかける。


「親しい仲だった筈だ。俺の事は覚えているな?」

「はい、貴方の事は覚えています。貴方の顔も声も…………、でも、貴方が誰だったのか分からないのです。貴方とも色々なお話をしました」

「肉親のように、毎日、会っていた筈だ。もう少し、思い出してくれ。俺の顔を見て、もう少しな」

「はい、確かに」

 ベルジバナは、神妙な顔をしていた。

 その瞳には、猜疑心が灯っていた。


「処で、俺はお前の事を知らないんだ。お前は何をしに、この洞窟に入ってきたんだろうな。記憶喪失? それは本当か?」

 強い疑念で、山賊の幹部は、ミントを見据えていた。

 ミントの顔が、一瞬、蒼白に変わる。


「命までは奪いたくない。何者か知らないが出ていけ」

 ベルジバナは剣呑な声で告げる。

 ジェドはそれを聞いて慌てる。

 他にミントに下心を抱いていた青年も、同様に困惑する。


「た、多分、記憶操作の魔法でおかしくなっているんですよっ!」

「そ、そうだ、若頭っ! 若い女の子に酷い扱いをするとよくないぜっ!」


 ベルジバナは、耳のピアスを弄って、少し不愉快そうな顔をする。

「知らんぞ。俺はもう少し寝る。お前らはその女を見張っておくんだな」

 そう言うと、彼は私室へと向かった。

 ミントに下心を抱いている二人は、はあっ、と一息付く。


「とにかく、ミントさんを匿えてよかったです。あのお名前は?」

「俺はボージョン。お前、ジェドって言っていたな。他の奴らと騒いでいたっけ。なあ、あのお嬢さんとお知り合いか。お前の彼女じゃないよな?」

「……ち、ち、違いますっ! ミントさんは俺をギルドに誘ってくれまして……」

「まあいいや。お前とは気が合いそうだ。なあ、競争しないか? どっちが、先に彼女の心を射止めるか」

 二人は、共に下卑た顔で笑い合った。




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