『幕間 悪魔は災厄を贈り物だと考える。』
宗教は、国家の暴政を維持する為に、作られるものだとも言われている。
つまり、宗教や信仰とは、国家の腐敗から眼を逸らさせる為に、作られる大きな嘘なのだと。
”この国では、死んだ後に、来世にて幸福になると伝えられている。今の生は、まやかしであり、来世にて英雄になり、幸福が得られると”。
そのような宗教の下、みな生きていた。
だから、今、みな苦しみの中に生きていても、来世の世界では極楽浄土に向かえるのだと。英雄になり、美男美女に囲まれ、万能に満ちた力が使えるのだと……。
みな、そのような宗教を信じて、日々、暮らしていた。
「来世に希望を持ち、死後の転生によって幸福になれるという宗教か……」
彼女は、砂丘の中、一人嘲笑う。
何もかもが、愚かに見える。
そんな宗教を信じている者達、全てがだ。
「まあ、なんだっていいさ。全部が、私を楽しませるショーになってくれるのを願っているよ。そういった宗教を信仰する国なんて、どうやら、もう崩壊しているみたいだし。腐った国家の光景を傍観するのは、どうしよもないくらい面白いからな……」
闇の空に、煤けた長い黄金色の髪が靡く。
「それにしても、死は救済だと思うがな。まあ、多くの者達にとっては、そうは思わないらしいがな……。はは、定められた命を生きる者達の不幸を傍観するのは、とても楽しい事だからな……」
何もかもが、空しい…………。
長い金髪に、砂埃が絡まる。服は着古したニットのセーターに、ボロボロのズボンだった。作業用のようなブーツを履いている。首の周りにはマフラーを巻いていた。頭と両手以外の露出は一切なかった。彼女は暑い中も、寒い中も、このファッションを続けている。
彼女の名は、デス・ウィングと言う。
不老不死であり、未だ、二十代くらいの若い姿のままを保ち続けている。
彼女は、死の翼というあだ名で呼ばれていた。
彼女は死すべき定めの者達を傍観する事を嗜好としていた。
死の翼は、含み笑いを浮かべる。
この砂漠は、異様に寒い。
此処は、少し国家から離れた場所だった。
放浪の末に、彼女は此処を訪れた…………。
砂漠に、砂煙が舞う。
此処も、強い死臭がする。
とてつもなく、陰鬱な場所だ。
遠くには、蜃気楼が見えた。
この世界にある、巨大な国家『ルクレツィア』。
その外に出ると、何処までも広がる砂ばかりが見える。
彼女のブーツを、サソリが走り去る。
周りには、サボテンが生えていた。
色々な世界を旅してきたが……。
ここも、酷く陰鬱な場所だった。
……あらゆる悪意達が、この国では、動き出そうとしているみたいだしな。………………。
それを、肌で感じていた。
だからこそ、彼女はこの国を訪れたのだ。
だからこそ、彼女は”この世界を訪れた”のだ。
死はもうどうしようもないくらいに美しい。
それが他人のものである限り、それは最高のショーだからだ。
人間の命なんて、全て終わりゆき、溶けゆく粉雪のようなものだ。
「死んだ後に、異世界へと転生して、異性に囲まれて、強大な力を得るという教えを持つ、”宗教”か。本当に、滑稽で、面白そうだな、内実を調べてやるとするか。さてと、この国の宗教とやらを見に行きたいな。誰もが、転生を信じている国家か。だが、死後の世界なんてあるのか? この不死である私にさえ、未だ分からないのにな……」
残酷な悲劇を、彼女は強く望んでいた……。
残酷劇は始まるだろう。
彼女はそう、予感していた…………。
デス・ウィング 挿絵・桜龍様