表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/151

『幕間 悪魔は災厄を贈り物だと考える。』

 宗教は、国家の暴政を維持する為に、作られるものだとも言われている。

 つまり、宗教や信仰とは、国家の腐敗から眼を逸らさせる為に、作られる大きな嘘なのだと。


”この国では、死んだ後に、来世にて幸福になると伝えられている。今の生は、まやかしであり、来世にて英雄になり、幸福が得られると”。


 そのような宗教の下、みな生きていた。

 だから、今、みな苦しみの中に生きていても、来世の世界では極楽浄土に向かえるのだと。英雄になり、美男美女に囲まれ、万能に満ちた力が使えるのだと……。

 みな、そのような宗教を信じて、日々、暮らしていた。


「来世に希望を持ち、死後の転生によって幸福になれるという宗教か……」

 彼女は、砂丘の中、一人嘲笑う。

 何もかもが、愚かに見える。

 そんな宗教を信じている者達、全てがだ。


「まあ、なんだっていいさ。全部が、私を楽しませるショーになってくれるのを願っているよ。そういった宗教を信仰する国なんて、どうやら、もう崩壊しているみたいだし。腐った国家の光景を傍観するのは、どうしよもないくらい面白いからな……」

 闇の空に、煤けた長い黄金色の髪が靡く。


「それにしても、死は救済だと思うがな。まあ、多くの者達にとっては、そうは思わないらしいがな……。はは、定められた命を生きる者達の不幸を傍観するのは、とても楽しい事だからな……」

 何もかもが、空しい…………。


 長い金髪に、砂埃が絡まる。服は着古したニットのセーターに、ボロボロのズボンだった。作業用のようなブーツを履いている。首の周りにはマフラーを巻いていた。頭と両手以外の露出は一切なかった。彼女は暑い中も、寒い中も、このファッションを続けている。

 彼女の名は、デス・ウィングと言う。

 不老不死であり、未だ、二十代くらいの若い姿のままを保ち続けている。 


 彼女は、死の翼というあだ名で呼ばれていた。

 彼女は死すべき定めの者達を傍観する事を嗜好(しこう)としていた。


 死の翼は、含み笑いを浮かべる。


 この砂漠は、異様に寒い。

 此処は、少し国家から離れた場所だった。

 放浪の末に、彼女は此処を訪れた…………。


 砂漠に、砂煙が舞う。

 此処も、強い死臭がする。

 とてつもなく、陰鬱な場所だ。

 遠くには、蜃気楼が見えた。

 この世界にある、巨大な国家『ルクレツィア』。

 その外に出ると、何処までも広がる砂ばかりが見える。


 彼女のブーツを、サソリが走り去る。

 周りには、サボテンが生えていた。

 色々な世界を旅してきたが……。

 ここも、酷く陰鬱な場所だった。


 ……あらゆる悪意達が、この国では、動き出そうとしているみたいだしな。………………。

 それを、肌で感じていた。

 だからこそ、彼女はこの国を訪れたのだ。

 だからこそ、彼女は”この世界を訪れた”のだ。


 死はもうどうしようもないくらいに美しい。

 それが他人のものである限り、それは最高のショーだからだ。

 人間の命なんて、全て終わりゆき、溶けゆく粉雪のようなものだ。


「死んだ後に、異世界へと転生して、異性に囲まれて、強大な力を得るという教えを持つ、”宗教”か。本当に、滑稽で、面白そうだな、内実を調べてやるとするか。さてと、この国の宗教とやらを見に行きたいな。誰もが、転生を信じている国家か。だが、死後の世界なんてあるのか? この不死である私にさえ、未だ分からないのにな……」


 残酷な悲劇を、彼女は強く望んでいた……。

 残酷劇は始まるだろう。

 彼女はそう、予感していた…………。



挿絵(By みてみん)


デス・ウィング 挿絵・桜龍様

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ